今月の雑誌から: コロナ危機と新常態(ニューノーマル)
投稿日 : 2020年07月28日
新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除されて久しいが、感染拡大に歯止めがかからない状況が続いている。このため、コロナ危機収束後の「アフター・コロナ」の世界がどのような様相を示すかよりはむしろ、コロナとの共存「ウイズ・コロナ」が続く中での新常態(ニュー・ノーマル)では、どのような経営のリーダーが求められるのか、産業転換が起きるのか、価値観の変化がありうるのか、働き方や社会システムの変化が起こるのか、インバウンド旅行客がほぼゼロとなった観光業界は生き延びられるのか、といった課題についての議論が盛んに行なわれている。
主要月刊誌8月号は、このような「新常態」における課題に関する記事を多数掲載し、これまでの常識とは異なる斬新な考え方で取り組む必要があるとの提言が数多くみられる。また、日本経済新聞は、労働市場にも大きな変化が生じていることを伝えている。
■『Voice』8月号、総力特集:「新常態」を制すリーダーの条件
「昭和を破壊できない経営者は去れ」
冨山和彦 経営共創基盤代表取締役CEO
冨山氏は、破壊的イノベーションが起きている中、新型コロナ禍による強烈な変化も加わった今、激烈な環境の変化に対応できる胆力を持った、強い経営のリーダーが求められる時代に突入したと指摘する。市場の状況や世の中の価値観が激変する新型コロナ禍の時代の経営者は、自らの責任においてトップダウン型で即断即決しなければならず、たとえ現場やステークホルダーの反発を招いても断行できるだけの気魄が有事のリーダーには必要だと強調する。新常態の世界では危機がいつ起きるかわからず、次はより甚大な被害を受けるかもしれない。組織は有事に強いリーダーを選出するため、その仕組みに抜本的なメスを入れ、新型コロナ禍をコーポレート・トランスフォーメーションの好機と捉えて、新しい時代を生き抜く体制を築く糧にすべきと提言する。
さらに、冨山氏は、高度成長期以来の日本の「雇用を守るために企業を守る」という「昭和的価値観を破壊できるリーダーこそがいま求められている」と断言し、倒産させないよう企業に金を入れて、社員を雇い続けた先にあるのは「ゾンビ企業同士の足の引っ張り合いと雇用の劣化、最後は大きなリストラという悲劇だけ」だと警鐘を鳴らす。この点、欧米は、企業を倒産させ大量の失業者を出しているが、個人への補償を手厚くし、生産性の低い企業がつぶれて社会に新陳代謝が起こり、生産性の高い企業が勃興することでコロナ後のビジネスチャンスを狙っていると指摘する。
■日本経済新聞7月19日付、「新型コロナ:新常態「その仕事、AIで」定型業務の求人30%減」
同記事は、新型コロナウイルス感染の収束の目処が立たないなか、人の接触を減らすため、人工知能(AI)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で業務を自動化する動きが広がっており、新常態(ニューノーマル)に備えて働き手の教育を充実し、自動化される仕事から人材を移す必要があると論じている。
定型的な作業が多い事務職や製造業の現場職は自動化されやすく、ともに本年5月と6月の求人数は、前年同月比30%以上減少した。感染予防のため少人数での運用を迫られるコールセンターでは、AIの活用を進めており、工場も熟練技術者に頼っていたものづくりのデジタル化を進めて人の接触を減らすほか、企業は自動化や効率化につながる情報分野に投資する。
現在の日本のコロナ対策は、雇用調整助成金など、既存の雇用を維持する目的のものが中心であるが、コロナ禍の先にある社会で必要とされる人材を育成することが、日本に求められる最大の経済戦略であると訴えている。
■『文藝春秋』8月号、経営トップ連続インタビュー:消費を止めるな
「<資生堂>新しい日常の「美」を追求する」
魚谷雅彦 資生堂社長兼CEO
魚谷氏は、緊急事態宣言を経て、「新しい生活様式」へと移行するなかで、「美」に対する価値観も変わりつつあり、日本の伝統的な肌を重視する「美」の価値観の上に、新型コロナウイルスの流行によって、「健康」や「免疫」がクローズアップされて、「健康美」が注目されてきており、これからは「トータルビューティ―」を一つのキーワードとして、「美」と「健康」を結びつけるようなサービスや事業を模索していきたいと話す。
また、魚谷氏は、常に最悪の事態を想定した戦略・戦術立案の必要性から、コロナ危機の状況はあと2~3年は続くという前提で経営を考えており、コロナの時代の会社経営はいろんな知恵が必要で、「経験がモノを言うとは限らないし、年齢、性別、国籍なども関係なくなってくる」と述べる。
在宅勤務やテレワークをはじめとする働き方改革を一層大規模に推し進め、在宅勤務と会社勤務の両方を柔軟に組み合わせることができる多様な働き方に取り組んでいくとしている。すでに社内の会議は原則ウェブ会議で実施しているが、会議がよりカジュアルに行え、座席配置による心理的距離もなく、若手社員が気軽に自由で柔軟な意見を出してビジネスの可能性を開拓してくれることを期待している。
■『中央公論』8月号、【特集】 知事の虚と実
「感染症対策にパフォーマンスはいらない」
平井伸治 鳥取県知事
平井氏は、今回のコロナ禍で、日本人は改めて過密、集中の弊害に気づいたとして、別の働き方や社会システムに目を向けて、新次元の多極型、分散型の国土構想をもう一度考える時期にきており、地方創生の質的変化とその必要性がさらにクローズアップされつつあると主張する。
同氏は、地方への移住が一気に伸びたのは、子育て環境、健康、生きがいを求める人たちが、地方の魅力に気づき始めた2011年の東日本大震災の後であるが、「今回のコロナは、若い世代を中心に、一極集中を本気で考え直す転機になりうるのではないでしょうか。第二のパラダイムシフトが起こる可能性がある」と示唆する。
地方への移住は、ハードを造って人を呼ぶのではなく、新しい働き方、職業、社会のあり方を提供していく必要があり、例えば、完全な移住ではなく、休暇を兼ねてリモートワークする「ワーケーション」といった概念がクローズアップされてくる可能性があると指摘する。さらに、九月入学について、骨太の議論が必要で、世界の中で戦える人材を育成するうえで、目をつぶってはいけない課題だと指摘する。
■『文藝春秋』8月号、経営トップ連続インタビュー:消費を止めるな
「<星野リゾート> 活路は「安・近・短」にある」
星野佳路 星野リゾート代表
星野氏は、観光業界が今回のコロナ危機を乗り越えることができれば、スタッフは成長し、今後の強い自信につながると確信する。この数年大きく伸びたインバウンド需要がコロナ危機でほぼゼロになったとはいえ、日本の観光市場全体におけるインバウンドの割合はまだ二割弱であり、残りの八割近くを占めているのは、国内在住者による国内旅行であると指摘する。さらに、日本から海外旅行に行けない分の消費が国内旅行に戻ってくる可能性があるのを考慮すれば、インバウンドの喪失は日本の観光産業にとって決定的な打撃ではなく、国内の旅行需要さえ戻すことができれば、十分観光産業は生き延びていけるだけの市場規模を持っていると見る。
同氏は、国内旅行の需要を回復するための取り組みとして、コロナ危機が収束するまでの「18か月計画」を作成。最初に観光客は、地元や周辺地域への「マイクロツーリズム」に戻り、次に、新幹線や飛行機などを利用した大都市圏からの旅行、そして最後にインバウンドの復活と想定する。今は「マイクロツーリズム」の需要喚起に最も力を入れるべきで、その活性化により、若い世代を含めた観光客がリピートや連泊するようになれば、今後、国内旅行市場を維持できるかもしれないとする。
将来、マイクロツーリズムで三分の一、大都市からの旅行で三分の一、インバウンドで三分の一といった市場規模になれば理想的で、コロナ禍を見据えてこのような変化を加速させていくことも重要であり、率先してこの古くて新しい旅のあり方を提唱していくつもりであるとの抱負を述べている。
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