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今月の雑誌から: コロナウイルス・パンデミックー日本の対応の特徴

投稿日 : 2020年04月17日

コロナウイルス・パンデミックが世界中に拡大するなか、東京をはじめ日本の主要都市では4月7日に出された緊急事態宣言の下で、さまざまな自粛、休業要請措置が取られてきた。そして16日、同宣言の対象地域は全国へと拡大された。しかし、まだ感染拡大をストップするまでには至らず、収束の見通しも立っていない。欧米諸国が都市のロックダウン(封鎖)を続けているのに比べ、「日本の措置は手ぬるい」、「効果は見込めない」、「もうすぐ感染爆発を起こすだろう」と見る外国メデイアや識者の悲観的な予測、批判もある。

 

他方、感染者数や死者数を比較すると、アメリカ、イタリア、イギリス、スペインなどの欧米諸国に比べ、東アジア諸国、なかでも日本の数字は現在のところ断然少ない。4月半ばの時点で、日本の死者数はアメリカの約200分の1、イタリアやスペインの100分の1以下である。「なぜこのように死者が少ないのか、その理由が分からない」と英国BBCは報道している。

 

はたして、強制力を伴わない日本型のコロナウイルスへの対応ぶりが成果を納めうるのか否か、その判断はあと数週間以内に下されることになろう。今月の雑誌は、いずれもコロナウイルス・パンデミック特集を組んでいるが、多くの記事の中から、この日本型対応の特徴に焦点を当てた記事を拾ってみた。

 

 

■『世界』5月号、特集 コロナショック・ドクトリン

   〈専門家会議委員に聞く〉日本なりの方法で感染拡大を防ぐ――新型コロナウイルスの現在とこれから
   舘田一博・東邦大学教授

 

厳しく何でも止めろというのは一番簡単であるが、舘田氏自身は、「社会活動をできるだけ止めないで、感染症を効果的に防げないか、という立場」をとると語る。全部止めて都市をロックダウン(封鎖)するのは大きな犠牲を払わねばならず、社会的、経済的ダメージをできるだけ少なくして、感染症を抑えられないかというのが、日本のやり方だと説明する。

 

日本の感染者数及び死亡者数が欧米諸国に比べて少ない要因として、国民皆保険で医療へのアクセスが良い、医師の質も高い、どの地域も医療機関も平均的に質が高いことを指摘する。「早い段階で感染者の集団であるクラスターを見つける、そして疫学グループがリスクを評価しつぶしていくという大変な作業をやっている。綱渡り的状況ではあるけれども、さまざまな取り組みにより、現在のところ日本はオーバーシュートを回避している」と同氏は解説する。

 

舘田氏は、今後どのような流行と終息の経過をたどるかは正確には分からないとしつつも、「いずれにせよ、一人一人の行動変容が重要です。密集、密閉、密接、そうした場を作らないことが大切で、それを実行できるのが日本ではないかと思っています」と力説する。

 

 

■『文藝春秋』5月号、【総力特集】コロナ戦争   

   「感染症の日本史」~答えは歴史の中にある
   磯田道史・国際日本文化研究センター准教授
 

磯田氏は、新しい感染症は人類を何度も襲ってきたが、「歴史」を参照すれば教訓が得られ、とるべき対策の智惠も出るかもしれないと語る。1918年から19年にかけて合計74万人もの日本人死者を出したスペイン風邪から得られる教訓は、仮に一旦収束しても、年単位で再流行するなど第二波、三波の可能性があり、ウイルスの変異で毒性が高まることもありうるので、ワクチン研究が不可欠だと指摘する。

 

日本が欧米よりも流行速度が遅いのは、日本人の生活習慣も一因であり、「我々は、手洗い、うがいをし、毎日、風呂で髪を洗います。マスクも着用します」「我々は、お辞儀の文化で、キス文化もハグ文化もありません。イランやイタリアより宗教施設で集う頻度が低いのも有利」と指摘する。さらに、土足で家に上がらない、除菌・消毒に熱心などの生活習慣は、古くからの日本文化に根づいており、手洗いする「禊(みそぎ)の文化」と「内と外」を峻別する「ゾーニング文化」があって、「外」を汚い空間と考え、「内(家)」を清浄な空間と考えるのが、感染防止に効いているのかもしれない、と述べる。

 

同氏は、古来からの文化に根づいた「国民の高い衛生防護力」を背景に、ワクチンという援軍が来るまで日本は、感染速度をゆっくりさせる「遅滞作戦」を取り続ける必要があるという。「仮想敵」が日本に軍事攻撃してくる確率より、パンデミックで国民の命を奪われる確率の方がはるかに高く、今世紀の真の最大脅威は、人類共通の敵「ウイルス」であると力説する。 

 

 

■『文藝春秋』5月号、【総力特集】コロナ戦争

   「すべての疑問に答える」
  小池百合子・東京都知事

 

小池氏は、東京都の立場からすれば、「パリやニューヨークのような強い措置に踏み切れないものか」と時に腹立ちを覚えることがあるとの心境を吐露する。「ただ、今の日本では法律に基づいた大胆な「私権制限」を行えない事実が立ちはだかっています。そのため、知事が自粛を「要請」するレベルが精いっぱいになります」、「都道府県知事にできるのは、住民への外出自粛要請などに留まります。海外のような強力な「私権制限」は選択肢に入っていませんし、公共交通機関を停止させられるわけでもありません。法律の建て付けがそうなっている以上、国と自治体が緊密に連携をとっていくしかありません」と語る。

 

深刻なのは経済への影響であり、特に中小企業や非正規雇用者への打撃をいかに小さくするかをきっちりフォローしていくことが政治の責任だ、と強調する。在宅勤務のためのテレワーク機器導入も補助しており、テレワークの導入は、長らく硬直してきた日本の働き方を大きく変えるキッカケになると考えているという。

 

小池氏は、「この難局に打ち勝ち、東京は安全、安心な都市だと世界中に証明する。そして、東京の威信に懸けて、来年の五輪を成功させたい」との抱負を語っている。

 

 

■『外交』34月号、緊急企画◎新型コロナウイルスの衝撃

   「感染症が問う人類史的課題-パンデミックにどう立ち向かうか」
   尾身茂・厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長(独立行政法人地域医療機能推進機構理事長)

 

尾身氏は、日本社会には多種多様なプレーヤーが様々な活動をしており、その動きを止めるのは至難の業であること、人の移動を制限するような非常に強いラディカルな方法をとるのか、推移を見ながら順次対応するのかは、その国の価値観や人々の共通の心理にかかわることで、これらを無視して政策を進めることはできないこと、今回のウイルスへの対応では、文化人類学的、あるいは人類史的な問いが含まれていることを指摘する。また、社会の構成員一人一人の価値観までが試されており、これまでの日本の社会を変えた方がいいという反省も出てくるかもしれないという。

 

尾身氏は、危機にあたっては、オールジャパンで当たる体制作りが必要で、官民学の連携の大切さを強調する。また、諸外国の事例を学ぶことも有用だとし、「中国のような、ある種の強権的な施策は日本ではできませんが、シンガポールの事例が参考になるかもしれません。情報公開の体制は西側に近いのですが、実行するときにはアジア的な権威主義で即断即決でやる」との例をあげている。

 

 

■『Voice』5月号、総力特集:どうする!コロナ危機   

  日中韓の差を生む「歴史の刻印」
  岡本隆司・京都府立大学教授

 

岡本氏は、ウイルスの拡大に際して日中韓各国がとっている行動は、それぞれの歴史的な事情が作用して、如実にお国柄があらわれていると見る。同氏によれば、日本は遅くとも近世・江戸時代以来、「官民一体」の、権力と民間の距離が近い社会構造を形づくってきたために、必然的に現代でも、互いに対する顧慮・忖度が大きい。総じて、政府権力は人びとの意向・行動に気兼ねしつつ方針を決めようとし、民間社会は当局の指示を待って、なるべくその意を迎えて、違背することは少ない、と解説する。

 

今回の政府当局からの強要ではない呼びかけについても、民間は当局の要請に応じ、ほぼ足並みをそろえて、自粛を実施に移しており、逸脱はごく少ない点を指摘し、時間がかかり躊躇していたように見えても、全体として大きな破綻をきたさないでいるのは、やはり善くも悪しくも、伝統的な日本人の行動様式によるもの、と同氏は見る。そして、「欧米のメデイアがそれこそ普遍的・医学的な見地から、微温緩慢と断じて日本の初動に浴びせた批判は、そうした事情に対する無理解のなせる業である」と論じる。

 

同氏は、新型コロナウイルスの感染は、人類共通の危機ではありながら、その対処はやはり歴史的な多様性、・個性が働いていて、互いにそこをわきまえる必要があるとし、今、強権・強要を経て、感染が沈静化しつつある中国の人びとが注視しているのが、躊躇・緩慢でコロナウイルスに立ち向かっている日本の結末にほかならないと論じている。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

 

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