プレスツアー(報告)

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実施日 : 2019年12月05日 - 06日

報告:宮崎県プレスツアー~日本の神話を語り継ぐ「夜神楽」と地域資源で未来をつくる人々~

投稿日 : 2020年01月15日

外国メディア特派員を対象に、今年2回目となる宮崎県へのプレスツアーを実施しました(宮崎県主催/フォーリン・プレスセンター企画運営)。

 

本ツアーには、フランス、ドイツ、英国、中国、香港のメディアから、計6名の記者が参加しました。

 

今回は、以下3つのテーマに沿って取材が行われました。

 I. 高千穂:日本を代表する渓谷美に彩られた神話のふるさとで見る「夜神楽」

 II. 世界も視野にコミュニティビジネスで地域内経済循環を実現する

 III. 君が代に歌われる「さざれ石」群が残る神話の聖地

 

プレスツアー中の様子を以下ご紹介します。

(◎取材先の詳細についてはこちらのプレスツアー案内をご覧ください。)

 

 

<取材時の様子> 


I. 高千穂:日本を代表する渓谷美に彩られた神話のふるさとで見る「夜神楽」

1.高千穂渓谷

プレスツアー一行は高千穂峡を訪れ、谷間を流れる川に滝が流れ落ちる悠然とした風景の中を歩きました。高千穂観光協会の飯干隆佑さんから、10年前の1.5倍の年間150万人がここを訪れており、海外からの観光客も増加傾向にあるとの説明を聞きました。



2.天岩戸神社/天安河原

日本最古の歴史書、古事記に登場する「日本のはじまり」の頃を物語る神話には、高千穂が舞台とされているものが数多くあります。そのひとつが「天岩戸神話」。太陽神・天照大御神が、弟の悪行に怒って洞窟に隠れてしまったこと、これにより世の中から光が消えて不作や病気が拡がり、困った神々が集まり知恵を絞って天照大御神に再び外に出てきて貰ったというストーリーが描かれています。

 

記者一行は、その神話の流れに沿って、天照大御神が隠れたといわれる天岩戸を祀る天岩戸神社と、神々が集まって対策を話し合った場所とされる天安河原を訪れました。天岩戸神社の宮司の佐藤永周さんは、「大昔に阿蘇の噴火があったのは事実で、その噴煙で太陽が遮られて真っ暗になり、食物が実らず、病気が蔓延したと考えればこの神話の説明がつく」との見方を紹介。記者たちは熱心に説明に耳を傾けていました。



3.高千穂の夜神楽

高千穂の夜神楽とは、人々が秋の実りを感謝し翌年の豊穣を祈って、夜通し舞を神に奉げる神事。約800年続いているとされる国の重要無形民俗文化財で、現在でも毎年収穫後の11月~翌2月の間、高千穂町の18の集落で続けられています。

 

プレスツアー一行は、岩戸地区でこの伝統を継承する「五カ村 村おこしグループ」のメンバーから話を聞きました。記者たちは、神楽の次世代への継承に強い関心を持ち、後継者はいるかとの質問が挙がりました。これに対し、舞手たちは「かつては担い手が減少したが、いまでは保育園から高校まで地域の人が出向いて神楽を教えることで、担い手の数を維持している。進学で都会に出て行っても神楽の季節に地元に帰ってくる若者や、仕事で高千穂に赴任して神楽を学び、任期を終えても神楽のために帰ってくる人もいる」(高藤文明さん)、「40年前と比べて町の人口は半減したが、神楽の担い手は当時の450名よりもやや増えている」(工藤浩章さん)と答え、伝統を未来につないでいくための工夫が実を結んでいることが伺えました。

 

インタビューの後、記者たちは「天岩戸神話」を描いた夜神楽を堪能しました。面をつけて神々の姿に化した舞手の緩急に富んだ動きに、記者たちは盛んにカメラのシャッターを切っていました。


 

 

4.神楽面の彫師

記者たちは、神楽で使われる面をつくる地域唯一の専門職人である工藤浩章さんも取材しました。義父の跡を継いで3代目となり、30年以上も面を作り続けているという工藤さんは、自身も神楽の舞手でもあります。

 

記者たちの問いに対し、「実際に神楽に使われる面は長期間壊れず使えるものなので需要が小さく、制作する面の1割以下。ほとんどが一般向けのお土産や贈答用になる」と答えました。後継者については「需要がたくさんないと生活が苦しいから息子に継げといったことはなかった。それでも息子はこの仕事を継いだ。ただ、2人分の仕事はないので彼は模索を続けている。待っているだけではなく自ら出向いて仕事をつくる必要があるため今日も名古屋の展示会に出かけている」と語りました。




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記者たちは、高千穂の地で800年続いてきた「夜神楽」について、舞を習得し継承している地域の人々から、面をつくる職人、演目のテーマである神話の舞台と伝えられる場所まで多角的な取材を行い、この地域に根づく文化への理解を深めました。

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II. 世界も視野にコミュニティビジネスで地域内経済循環を実現する

1.(株)宮﨑茶房

プレスツアー一行は、高千穂町に隣接する五ヶ瀬町にある宮﨑茶房を訪ねました。冷涼で虫が少ない高地の環境を生かし、完全無農薬でお茶を栽培しているほか、日本では極めて珍しい「釜炒り茶」を作っています。4代目社長の宮﨑亮さんによると、高温に熱した釜で炒る「釜炒り茶」は、日本で一般的化した「蒸し茶」と比べて手間がかかる分、独特の香りを出すことができるといいます。

 

この会社の大きな特徴が15名の社員のうち3分の1が移住者である点。自然豊な環境、地域住民の温かさ、お茶づくりの仕事に魅力を感じてやってくる人が多く、この会社で働くために移住してきて同僚と結婚し、この土地で子どもを育てているという社員もいました。記者からの海外輸出に関する問いに対し、社長は「現状は全体の45%程度だが、米国、カナダ、ドイツ、ベルギー、チェコ、台湾などに輸出している」と答えました。記者たちは、釜炒りの実演や、工場内を熱心に撮影しました。



2.(株)高千穂ムラたび

次に一行は、約100名の住民のうち60歳以上が8割を超える高千穂町秋元地区において甘酒や酒の製造と民宿の運営を手がける、高千穂ムラたびを取材しました。広報担当の小池芙美さんによると、町役場の職員だった創業者が、特産品を活かして地域に職と利益を生み出したいと考えて2010年につくった会社だといいます。


社員3名でスタートした同社ですが、当時20代だった創業者の娘夫婦が開発した乳酸菌入りのノンアルコールの甘酒が売上を伸ばし、現在では社員14名にまで成長しています。そのほとんどが30代で、高齢化したこの地域に若い世代が働く場が生まれています。記者からの海外展開に関する質問に対し、「海外の展示会で甘酒を売り込んだ結果、中国やイギリスへの輸出が実現している」との回答がありました。



 

3.宮崎ひでじビール(株)

記者たちは、クラフトビールメーカーとして九州一の出荷量を誇る宮崎ひでじビール(延岡市)を取材しました。地元産の材料や醸造タンクにこだわる同社が目指すのは「地域内連携」。同社の働きかけで地元農家が宮崎で初となるモルト(大麦)やホップの栽培を始めるなど、地域に新たな風を吹き込んでいます。宮崎県産の栗を使ったビールは、世界的な品評会である英国の「World Beer Awards」(2017年)で最高賞を受賞したほか、米国にも輸出されています。

 

代表取締役の永野時彦さんによると、現在国内、海外ともに需要に生産量が追いついていない状況で、工場の増設を予定しているといいます。記者の「人口減少で人材確保が難しいのでは?」との質問に対し、永野さんは「自分たちは巨大メーカーになりたい訳ではない。この地方から、東京ではなく世界に向けて発信していき、ビールづくりを通じて地元を元気にすることを目指している。それに魅力を感じてくれる人が集まり、順調に人材を確保できている。最初は6名だった社員が今は16名になっており、移住やUターンなどの30代が多い」と答えました。


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記者たちは、人口減少・少子高齢化のなかで地域の特性を活かした事業を展開し、若者や移住者を雇用しているこれらの企業の取り組みを、大きな関心を持って取材していました。

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III. 君が代に謳われる「さざれ石」群が残る神話の聖地

1.大御神社「さざれ石」

ツアー一行は、最後に大御神社(日向市)を訪れました。太平洋に面していて美しい日の出が見られるこの神社には、新年の3日間だけで4万人もの人々が訪れるといいます。

 

この神社を語るうえで欠かせないのが、境内にある日本最大級の「さざれ石」。さざれ石とは、河口に堆積した石ころが、長い年月を経て粘土や砂と混じって固まり、大きな岩になったもの。「君が代」のなかでも「さざれ石の巌となりて」と謳われています。記者たちは宮司の新名光明さんの説明に熱心に耳を傾け、巨大なさざれ石にカメラを向けていました。


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