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今月の雑誌から:コロナ後の日本再生戦略

投稿日 : 2020年10月23日


菅総理が就任して約1か月が過ぎた。今月の主要月刊誌は、コロナ後を見据えて、菅新政権の内政、外交上の中長期的な課題と日本再生戦略について取り上げる記事を多く掲載している。コロナ禍を奇貨として、大胆な構想力でグランドデザインを描く必要性や、大胆な景気浮揚策と税制の改革、米中対立下での主体的な外交など、新政権に対する威勢の良い提言が飛び交っている。

 

 


『文藝春秋』11月号 コロナ後の日本をどう立て直すか 日本再生、私の戦略
 新政権ブレーン、菅総理への提言 東京を「政府直轄地」にせよ 
 竹中平蔵 東洋大学教授・慶應義塾大学名誉教授


竹中氏は、菅新政権が真っ先に取り組むべきは、新型コロナウイルス対策であり、関連の経済対策であると述べ、中小企業も含めて優良企業は突然死させないようにする一方、もともと経営が危なかった企業は救済しないことが大事だと論じる。淘汰されるべき企業を残しておくと、将来的に日本経済の弱体化につながるからである。コロナ後の日本経済を長期的に強くするためには、「健全でフェアな競争」が必要不可欠であり、携帯業界などの既得権益層を守る「規制」を取っ払って、日本経済の潜在的な成長率を高めていくべきであると強調する。

同氏は、コロナ禍で特にはっきりと問題が見えてきたのが日本のデジタルシフトの遅れであり、特に教育現場での遠隔教育の導入の遅れであるとして、規制を取っ払い、あらゆる分野でデジタル化を進めるよう提言する。また、東京都と他の地方自治体との格差が広がるばかりであり、その歪みの解消のため、東京を特別区にして、ワシントンD.C.のように、日本政府直轄にすべきと提案している。東京を日本の戦略的基地として位置づけ、さらに成長させていくために、都が所有している資産をどんどん売却して、資産市場を活性化すれば、東京が世界有数の国際金融センターとなることも可能だという。

竹中氏は、危機の時こそ、長期的な視点で日本の「構想」を作る必要があり、いま日本に求められているのは、縦割りを超えた大胆な構想力で、既存の枠組みにとらわれない、グランドデザインを描かねばならないと力説する。同氏が思い描く国の未来として、誰もが古いルールや慣習に縛られず、自由に泳げるような社会システムを掲げ、日本は、黒船来航後の明治維新や敗戦後の戦後民主主義のように、コロナ禍という外的ショックを変化のチャンスととらえるべきであると主張している。



■『Voice』11月号 総力特集:菅新政権と日本再生論
 ポスト・アベノミクスの要諦はこれだ
 大前研一 株式会社ビジネス・ブレークスルー会長

大前氏は、アベノミクスによる大胆な金融緩和は、意に反して消費や設備投資には向かわず、個人や企業がため込んでしまった結果、日本人の個人金融資産は過去10年近くの間に400兆円増え、(非金融)法人企業の現預金は77兆円も拡大した事実をあげ、景気浮揚のためには、負債を将来に先送る国債の増加ではなく、このように余ったお金を使うべきだという。

同氏は、日本には、個人金融資産と企業の現預金のほか、空き家や土地など、余っているものがたくさんあると指摘する。空き家率は、全国平均で13.6%(2018年10月現在)もあり、土地も生産緑地法の改正の結果、2022年以降に営農義務が切れ、都心の周辺部に大量の土地と事業用地が供給されるだろうと見る。景気を浮揚させるには、このような余剰資産を市場に出す政策を打ち出せばよく、また、空き家を整備して民泊用の宿泊施設にすれば、空き家対策と宿泊施設不足という二つの社会問題が解決するという。

さらに同氏は、資産課税の導入を提案する。個人と法人の資産に課税(1%)し、消費税はそのままで、法人税、所得税、相続税はゼロにするという大胆な税制改革により、彼の試算では、毎年75兆円の税収が確保でき、国債を増発する必要がなくなる。資産で持っていたら課税されるので、必然的に投資や消費が盛んになり、景気は良くなると見越す。

大前氏は、何よりも大事なのは、国民が人生をもっと楽しめるようにすることだと力説する。日本は、「低欲望社会」で、所有や消費をしたいという欲望が極めて低く、「個人金融資産の大半を持つ高齢者層は、高度経済成長期にお金を集めて産業界に低金利で貸すという政策をとった国から、勤労と貯蓄の精神が染色体に刷り込まれた。そのため、金があっても貯めることを優先し、自分のために使うことができないのである」と説く。日本人は平均3500万円も残したまま、死ぬ瞬間が一番金持ちという悲惨な状態にあり、菅首相には、人生を楽しみましょう、老後は心配しなくてもいいと、毎日テレビカメラの前で語ってほしいと締めくくっている。

 


■『Voice』11月号 菅外交の成否を決する「天地人」
 宮家邦彦 外交政策研究所代表

中国戦国時代の思想家・孟子の、大事業は天と地と人という3条件がそろわないと成就できないという有名な言葉を引用して、宮家氏は、安倍外交が概ね成功したのはこの3要素がそろっていたからだと述べ、いま、日本には平和的手段で自らに相応しい国際的立場と名誉を取り戻す機会が訪れているという。同氏は、ロシア、中国、米国がそれぞれの問題を抱えている現在、「今こそ日本は「自由」「民主」「法の支配」「人権」などの普遍的価値の体現者であり続けるとともに、国際社会の「現状維持勢力」の一員として、普遍的価値を拒否する「現状変更勢力」との差別化を図り、失われた名誉を回復するチャンスだ。これが日本にとっての「天の時」である」と強調する。

同氏は、2020年秋の日本の外交課題はいずれも、過去数十年の長い経緯と手強い相手国とのし烈な交渉という遺産を引き継いだものばかりで、菅政権の外交政策も、基本的には安倍外交を継承する運命にあるとしつつも、ロシア、中国、朝鮮半島とのこれからの関係における変化を以下のように想定する。

ロシアについては、中長期的には中国がロシアにとって戦略的脅威となる可能性があり、その際にはロシアが欧米や日本との関係を戦略的に転換するとみて、その時期こそ、日本にとっては北方領土を含む日ロ関係を戦略的に改善する好機となると見通す。
中国との関係については、米中関係が険悪だからこそ中国は日本に秋波を送りつつ日米間にくさびを打ち込もうとするが、その目的は決して尖閣や歴史問題を放棄する戦略的な関係改善ではないので、こうした限界を念頭に置くべきであると指摘する。
朝鮮半島については、日朝、日韓関係が近い将来改善する可能性は低く、今後より悪化する可能性も覚悟すべきであるが、いかに日韓関係が悪化しようとも、最低限の意思疎通のチャンネルだけは確保しておくべきという。


宮家氏は、いま菅首相に求められる指導力は、前首相と同様のパーフォーマンスではなく、内政面での豊富な経験と政治力によって「結果を出す力」であろうが、米国大統領との相性と国内官僚組織との関係の改善の2点が気になると結んでいる。



『中央公論』11月号 【特集】日米政変 ──菅政権発足、迫る大統領選
 〔対談〕どうなる? ポスト安倍の外交・安全保障
 米中対立の今こそ日本の主体性を示せ
 三浦瑠麗 国際政治学者 X 森本敏 拓殖大学総長・元防衛大臣

三浦氏は、菅総理は、具体的な政策重視の人物であり、外交においても、理念よりもプロジェクトを重視し、利害に基づき国益のためになることを実践するであろうと見る。これは、日本の複雑性、多元性を体現するには向いているが、首脳の交渉力、リーダーシップとして、筋を通さなければいけないところをどうするのか、全体をうまくまとめられるかどうかは、まだ分からないと話す。

森本氏は、菅総理の際立った特徴は、日本の官僚制度を知り尽くしていること、日本が直面しており、すぐに対処すべき問題が何であり、どこを押さえればどうなるかを十分知っていることにあると語る。ただ、外交や安全保障についての経験や実績は未知数であり、米国もこれまでのような円熟した日米関係を継続できるかどうか不安感を持っているので、明確な理念を示して、この不安感を早く払拭してほしいという。

三浦氏は、アジアの国々との関係では、日本は資金力でも先端技術でも中国に後れを取って久しいので、ソフト面で入っていくことが大事だと論じる。東南アジア諸国は中国による投資を受け入れつつも、中国一辺倒になることは望んでおらず、日本は、ソフト・パワーやユニークな技術を持ち込むべきで、投資するプロジェクトに「持続性」という概念を埋め込むことで、東南アジアの社会構造を変える手助けもできる、それこそ、日本が得意とするところだと強調する。

森本氏は、これからの日本にとって一番重要なことは、同盟関係の中で手段を考えるのではなく、日本がもっと主体的に自らの安全保障を考えることであるとし、今までのように米国の足らない部分を日本が補うのではなく、日本の足りない部分を米国に補わせる、という日本が主体の安全保障体制へと作り直していかなくてはならない、と論じている。「米国との協力は重要ですが、日本が主体的に対中戦略をつくっていくことができないと、日本の安全が維持できない時期にさしかかっているのではないか」との問題を提起している。




※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

 

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