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「日本と持続可能性」(FT特集)Part 1

投稿日 : 2021年08月12日

注目すべき海外メディアの日本報道


「日本と持続可能性」(FT特集)Part 1





7月23日付Financial Times(電子版)は、「スポーツの力で持続可能な社会の実現に貢献する」東京2020オリンピック大会の開幕に合わせて、「日本と持続可能性」と題する日本特集を組み、(1)脱炭素とエネルギー政策(2)環境配慮と持続可能性を謳う東京五輪(3)日本企業のSDGs、ESG、働き方改革への取組(4)海洋プラスチック、離島、捕鯨 の4分野で20本の記事を掲載した。同紙東京支局が総力を結集した本企画は、多数の事例を紹介しつつ、気候変動やコロナ禍が、日本の社会構造や環境に不可逆的な影響を及ぼし、様々な分野で持続可能性の追求を加速していると報じている。特に、菅政権が政策の最優先に掲げる「グリーン社会」の実現には、化石燃料への依存打破がカギであるとして、エネルギー、環境分野を中心に、政府や企業による取組の実効や課題を探っている。


(1)脱炭素とエネルギー政策:

 菅首相が昨年10月に表明したカーボンニュートラルと日本のエネルギー政策について6本の記事を掲載。日本が掲げた排出削減目標の実現に向け、地理的要因や人口動態による再エネ設備拡大の限界や、原発、化石燃料の依存と課題を指摘。また、日本はCO2削減をビジネスチャンスと捉えており、成功しなかった場合の持続性の危うさを示唆している。

 最初に「日本の菅首相のネットゼロ宣言は激しい論争を巻き起こす」と題するカバーストーリーで、日本がようやく気候変動に真剣に取り組むようになったのは、EVが世界の主流となれば主力の自動車産業の競争力が激減する怖れがあるからであり、首相の新方針は将来のエネルギー政策とその移行への方策をめぐって激しい議論を巻き起こしているとし、とりわけ水素やアンモニア燃料への関心が際立っているのは、環境負荷よりも新たな経済成長の機会を目論んでのことだと指摘した。

 新たなエネルギー政策の方向性を示すカギとなる石炭火力については、日本はG7での合意を受けて石炭火力発電の輸出支援をやめることを発表し、さらに国内の低効率の古い石炭火力発電所の休廃止を加速する動きもあるものの「石炭が日本のエネルギーミックスを掌握している」との見出しを掲げ、日本では再エネ設備の拡大が困難で、価格、経済安全保障上の理由から石炭火力を使い続けるしかないとの専門家の見解を紹介すると共に、JICAによるバングラデシュのマタバリ石炭火力発電事業を取り上げた別記事で、同国政府による再エネへのシフトやこの事業への支援継続は政府の方針に逆行するものだと指摘した。

 

  その他、日本はエネルギーの安定供給と排出削減の両立には原発が必要との専門家の見解を紹介しつつも、東電が度重なる管理ミスで失った信頼を回復しない限り、原発の再稼働は疑わしいと断じ、太陽光発電に関する記事では、固定価格買取制度(FIT)における予想以上の買取価格の低下や、高齢化・低失業率を起因とするコスト高によって、多くの太陽光発電関連企業が破産に追い込まれていると分析。さらに、カーボンフリーのアンモニアは既存輸送インフラの活用や、発電所で直接燃焼可能でコスト面で大きなメリットがあるが、電力業界は、石炭と一緒にアンモニアを燃焼させて石炭火力への批判を減らし、可能な限り既存設備を長く稼働できるとする専門家の見方も紹介している。


(2)環境配慮と持続可能性を謳う東京五輪:

 「東京五輪は持続可能性で金を獲れるか」などの見出しで3本の記事を掲載。「水素五輪」と銘打って選手村をミニ水素社会とする計画や水素で走る燃料電池車の活用、「都市鉱山」から作るメダルプロジェクトなどを通じて、SDGsへのコミットや世界の課題解決に向けた貢献をアピールしているものの、高コストや燃料調達先など水素が抱える問題は多く実現はまだ先だと指摘しつつ、これらプロジェクトには市民の声が反映されず透明性を欠くとする識者の見方を紹介している。他方、猛暑によるマラソン開催地の変更、予期せぬ新型コロナパンデミック、開催直前の豪雨災害など「トラブル続きの東京五輪は来るべき問題の味見を勧める」との記事では、東京五輪は大規模イベントと気候変動の影響との関係を見直す転機となる一方で、感染症対策としてはウィズコロナに向けた幾多の挑戦の始まりに過ぎないとの苦言を呈しつつ、今後のイベント計画においては「予期せぬ事態を予期する」重要性を強調している。


Part2に続く>


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