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日本の教訓を世界に示す(FT特集)

投稿日 : 2020年12月14日

注目すべき海外メディアの日本報道

(11月23日~29日)


日本の教訓を世界に示す





英国 Financial Times 紙は、「Lessons from Japan(日本からの教訓)」と題する特集記事をシリーズで掲載。世界各国の経済がコロナ禍による大打撃から立ち直るには、日本経済の過去30年の経験から学ぶべきことが多いとして、バブル崩壊後の長期停滞、低成長、低金利・低インフレ、公共事業の無駄、将来不安による投資・消費控え、リスクを取らない若者世代、一方で、少子高齢化にあっても質の高い生活水準の実現など、様々な問題に対して日本が講じた政策とその結果から得られる教訓を考察、提示している。


11月23日付「パンデミック後の低金利、低インフレに立ち向かう」(Robin Harding東京支局長他)は、バブル崩壊後、永続的な低インフレや低金利に対応してきた日本経済の過去30年の経験「Japanification(日本化)」が、新型コロナウイルスの影響で落ち込む世界各国の今後の回復に大いに参考になるとして、1990年代の金融危機、2000年代の成長停滞、2010年代以降の人口減少について、日本と欧米を比較考察した上で、日本の経験からの教訓は、ゼロ金利への突入を阻止する方法を見つけることであり、如何なる困難があろうとも成長を諦めず、雇用や賃金を上昇させ続け、かつインフレ低下を回避し続けるために必要なあらゆる措置を講じることである、と論じている。


24日付「高所得国には共通の課題がある」では、Japanificationは、1990年代の日本や2010年代のユーロ圏が、マクロ経済的刺激策に臆病すぎて脆弱な経済への対応に失敗することの略語として使用すべきで、昨今の高所得国に共通する課題は「長期停滞」であり、見習うべきは最近の経済政策、特に2012年以降に世界への教訓があるとし、対ドル円相場の安定推移、安倍前首相の女性活躍推進策による女性労働人口の増加、同氏の企業改革による総固定資本形成のG7中の地位上昇などを挙げている。更に、コロナ禍においては、持続的な公共投資と金融財政政策の調整というタブーを打ち破ることでJapanificationは淘汰されたかもしれず、加えて、欧米より優れたコロナ対応や生産成長率の下降も小さいことから、次の10年に日本は再生を果たすかもしれないと論じている。

 

25日付「待望の公共投資ブームは行方のない道路を舗装する危険がある」(Robin Harding東京支局長他)では、バブル経済崩壊後の1990年代~2000年代に頂点を極めた日本の大規模な公共事業投資は、コンクリートと公的債務という遺産を残した一方で、成長やインフレは回復しなかったとして、新型コロナウイルスの経済的打撃と闘うため公共投資拡大に乗り出す欧米等の国々に対し、日本の失敗から学べるのか、或いは、民主主義国における経済刺激策の努力は非生産的な結果に向かうのか問題を提起しつつ、大規模な公共事業の魅力に抗えない政治(家)にとって、有権者の目に見えるコンクリートよりも、利益を生む政府投資に注力することがいかに難しいかを日本の(公共事業の)歴史が示していると結んでいる。


26日付「ミセス・ワタナベが教える低リターンの扱い方」(Leo Lewis 東京特派員他)では、新型コロナウイルスの世界的流行は過去30年からの低金利・低債券利回り傾向に拍車をかける危機であり、個人・法人の資本はどこでリターンを求めるかに躍起になるだろうが、これは日銀のゼロ金利策が持続し始めた2002~6年頃に話題となった架空の人物“ミセス・ワタナベ”に代表される日本の投資家と同様の行動であるとし、アナリストは、対コロナ金融・財政策により、西側諸国が日本と同じ道をたどることは確かだとしつつも、日本の経験が必ずしも有益なロードマップとはならず、加えて、世界金融危機後の中国の経済政策や、新興国の低金利の状況などから、地球規模での資本移動はなさそうだと見ている、と論じている。

 

27日付「日本の若者、成長なき社会で安定を求める」(Leo Lewis 東京特派員)では、不況下で育った世代がリスクを冒さないのはなぜか、同紙が取材した就職・受験「浪人」の若者達は「借金と老人だらけの国の付けを払うのは自分たちだ。だれも冒険などしたくない」と口を揃えたとした上で、「努力が報われ、社会保障も手厚い社会への信頼がなくなり、若者は『失敗したら自業自得』と考えるようになった」と見る人類学者、「日本には経済大国の繁栄がまだ残るが、20代の若者は経済成長とはどのようなものか知らないことが問題の本質だ」と述べる政治学者など、様々な専門家のコメントを引用しつつ、分析している。


29日付社説「日本から学ぶ、優雅な高齢化」は、バブル崩壊後、日本経済は低成長だったが、国民の生活水準の向上という面では、より良い成果を上げてきたと指摘。経済全体が停滞しても、人口が減少したため、一人あたり国民所得は他国に引けを取らず、失業率や貧富の格差も欧米諸国と比べると低水準で、人口動態が大きく変化する中、他の先進国に比べて社会の安定性を保ち、生活水準を改善してきたことは称賛に値し、人口増加なしでも国民の物質的な幸福を改善し続けることができるという教訓を示しているとした上で、日本が行ってきた過程を検証することは、失敗も含め、世界各国への有益な指針となると評している。

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