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ウクライナからの教訓

投稿日 : 2022年05月24日


主要月刊誌6月号には、ロシアによるウクライナへの侵攻から日本はどのような教訓を得られるか、という観点からの記事が数多くみられる。『Voice』は「特集:日本をどう守るか」で、ウクライナ危機の軍事防衛面での教訓に焦点を当てた記事を多数掲載しているほか、『文藝春秋』は「総力特集:誰のための戦争か?」で、中国、ロシアおよび北朝鮮からの日本への侵攻を想定した緊急シミュレーションを行っている。日本がウクライナ危機から学ぶ教訓として多くの識者が共通に挙げる点は、主として、(1)自衛力の重要性、(2)安全保障を確保する枠組みである同盟の存在の重要性、(3)核抑止力の信頼性、(4)政治リーダーの危機対応力と統率力、などがある。各項目について、主な議論を紹介する。




(1)自衛力の重要性


まず日本の自衛力の強化については、ロシアのウクライナ侵攻に加えて、中国および北朝鮮から日本への直接の脅威の増大を踏まえ、「国家安全保障戦略」などの動向、防衛費の増額、専守防衛の基本方針と反撃能力の保有問題、サイバー能力、憲法改正など多くの課題が議論の俎上に上っている。また自民党安全保障調査会は426日に「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を発表し、防衛費について、NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、日本としても5年以内に防衛力の抜本的強化のために必要な予算水準の達成を目指すとしている。

 

上記提言を調査会の会長として取りまとめた小野寺五典衆議院議員/元防衛大臣は、「安全保障を考えるうえで何よりも重要なのは、日本自身が自国を守る意思と能力を持つこと」であり、憲法改正における注目点として「有事における緊急事態条項について、可及的速やかに議論を進めるべき」と主張する(『Voice6月号、「核使用の恫喝から目を背けるな」)。秋山信将一橋大学教授は、「今後一層厳しさを増す東アジアの戦略環境のなかで、日本が米国と認識をすり合わせ、協調して取り組むべきこと」の一つとして、「核の恫喝の下での受け入れがたいに屈しないための防衛能力と国家としての強靭性を高めること」と述べる(『Voice6月号、「安定不安定のパラドクス」の現実」)。

 

 

(2)同盟の存在の重要性


第二点の同盟の存在の重要性については、集団的安全保障を確保するNATOに加盟していないウクライナからの教訓として、日米同盟の重要性及びその強化の必要性を指摘する識者が多い。特に、中国などからの脅威に対しては、米国が日本を守るという明確な姿勢を見せることは、大きな抑止力を生むと指摘する声がある。他方、有事の際に、果たして同盟国たる米国が直ちに日本援護のために行動を起こすかどうかについては、場合によっては必ずしも確実ではないとする議論も一部に出ている。

 

『文藝春秋』6月号「日米同盟vs. 中・露・北朝鮮」の討論で阿南友亮東北大学教授は、「日本は「『クアッド』(日米豪印四カ国の枠組み)を強化したり、AUKUS(米英豪によるアジア太平洋地域の安全保障の枠組み)に参加したりして、平時より対中牽制の枠組み補強に取り組んでいかざるを得ない」と述べる。同討論で山下裕貴自衛隊元陸将は、「核保有国から戦争が仕掛けられた場合、アメリカでさえそう簡単には戦争に踏み込めないこと」が明らかとなったとし、「日本の安全保障関係者の間では、『いざという時にアメリカは助けに来てくれないのではないか』との懸念が強まっている」と指摘する。

 

 

(3)核抑止力の信頼性


第三点の核抑止力の信頼性については、日本が同盟国米国と拡大抑止の信頼性を一層確保するために緊密な協議をしていくべき、という議論がみられる。非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)についても、核抑止力を高めるには米国との核共有の可能性を排除しないとする見方もある一方で、抑止力を構成する要素としての核兵器への依存を下げるべきとの提言もある

 

上述の小野寺五典氏は、自民党の安全保障調査会では「欧州で運用されている核共有の手法を日本で採用するのは有意義ではない、(中略)まずはアメリカの核による拡大抑止を明確に示すべき」というのが大方の見方だと述べる。他方、中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表は、「ウクライナが独立時に『核保有国』であったとの不正確な理解に基づき、核放棄をしなければ侵略されることはなかった、核保有は究極の安全保障であるとのナラティブ(言説)が世論に見受けられるようになったこと」が特に憂慮されるとし、且つ「これは核兵器拡散の新たなきっかけになりかねず、危険」であると警告する(『世界』6月号、「核軍縮の必要と必然」)。

 

 

(4)政治リーダーの危機対応力と統率力


第四点の政治リーダーの危機対応力と統率力、および国民の結束の重要性も注視されており、ゼリンスキー・ウクライナ大統領が首都にとどまり、国民と軍に結束を呼びかけ続けていること、また停戦交渉も走らせながら、世界に向けて情報発信することで国際社会からの支援を獲得していることなどが指摘されている。

 

上述の『文藝春秋』の討論で小泉悠東京大学専任講師はウクライナの情勢から見えるゼリンスキー政権に対する国民の支持の高さに着目しつつ、「プーチンは『ウクライナ国民はロシアに併合されたがっている』と本気で考えていた可能性がある」と指摘、このような「国家指導者の誤った認識が高く付くことは、今回のウクライナで証明された」と見る。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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