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今月の雑誌から:ウクライナ情勢と日本の外交、安全保障

投稿日 : 2022年04月22日


ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、このウクライナ情勢が日本の外交および安全保障政策にどのような影響をもたらすのかについて、活発な議論が主要月刊誌5月号で展開されている。主たる論点は、(1)ウクライナとロシアに対する日本の対応策、特に経済制裁を含む対ロシア外交、(2)ウクライナ情勢が東アジアの安全保障に与える影響に鑑み、日本の防衛政策をどうすべきかとの点である。今回は、この2点に絞って、主な論調を考察したい。




1)ウクライナとロシアに対する日本の対応策


まず、ウクライナ情勢への対応として、日本政府は、米国およびEU諸国と協調して、ロシアに対する一連の厳しい経済制裁に加わっている。具体的には、石炭、機械類などの禁輸、新規投資の禁止、在日ロシア大使館の外交官ら8人に国外退去させるなどの措置を取った。社説などを見る限り、日本の主要紙は、おおむね政府の方針を支持していると見られる。対ロシア経済制裁が日本経済に与える悪影響を懸念する声はさほど大きくなく、また、ロシアとの北方領土返還交渉への打撃についての憂慮も限定的である。

 

田中明彦東京大学名誉教授は、仮に西側諸国とロシアとの経済関係が断絶したとしても、世界経済全体にとって致命傷とはならず、「ロシアとの関係悪化による経済的な打撃は受け入れるべき負担」と論じる(『Voice5月号、「中露との『新冷戦』を覚悟せよ」)。また、山内昌之東京大学名誉教授も、G7の一員として日本もそこに加わった以上、しばらくは領土や経済協力の問題に進展は見込めず、「日本としても当分は忍耐のしどころである」と述べている(『Voice5月号、「前方防衛と抑止力の新たな意味」)。



他方、日本が一層の対ロシア経済制裁を行うべきかどうかについては、有識者の間に若干の意見の違いがみられる。

 

4月10日のNHK日曜討論で東郷和彦元外務省欧亜局長は、一刻も早く停戦を実現するためには、制裁だけに依拠するのは危険であり、プーチンが納得するような平和を導き出すことだと発言した。これに対し佐々江賢一郎元駐米国大使は、ロシアを停戦に導くためには、プーチンが嫌なものもやらざるを得ないと反論し、小泉悠東京大学専任講師も、2014年のクリミア併合の際の対応の反省に立って日本が抜け穴とならないよう、今回G7と足並みを揃えて制裁を厳しくするしかないとの見方を示した。



なお、経済制裁の効果については、これまでも北朝鮮やイランに対する国連の経済制裁の効果をどう評価するかについて、識者の間で種々議論が行われてきた。

 

東大作上智大学教授は、「何をすれば(制裁が)解除されるのかが明らかでなければ、制裁の効果は出ない」ことから、現実的にはウクライナ政府が求めるロシア軍の完全撤退が一つの基準となりうるが、その基準はとてつもなく高いと述べている。(『世界』5月号、「世界大戦をどう防ぐのか」)。廣瀬陽子慶応義塾大学教授も、制裁の被害を受けるのは国民なのが問題だとして、日本も、ロシアの人々を敵に回さない制裁方法を主導してほしいと注文している(『中央公論』5月号、「ロシアが仕掛ける『ハイブリッド戦争』」)。



2)ウクライナ情勢が東アジアの安全保障に与える影響


に、ウクライナ情勢が東アジアの安全保障に与える影響について、特に中国の台湾統一に向けての今後の動きを警戒する論調が多く見られるが、中国の動きはウクライナ戦争の趨勢次第とみる向きが多い。

 

安倍晋三元首相は、『文藝春秋』5月号のインタビュー記事(「『核共有』の議論から逃げるな」)で、「我々がロシアによる一方的な現状変更を食い止めることができなければ、中国の習近平国家主席は、台湾への威圧的な動きを高める」との懸念を表明している。前述の田中明彦氏も、台湾がウクライナの二の舞になるのではないかとの危惧は当然であり、台湾侵攻を抑止するために万全の準備が必要だと強調しつつ、日本の防衛力の強化を訴えている。



さらに、安倍元首相が、2月末に民放の報道番組でのウクライナ情勢に関するやりとりの中で、「核シェアリングについての議論が必要」と発言したことから、核共有をめぐる議論も高まりつつある。NATO諸国にみられるように、米国の核兵器を非核保有の同盟国内に配備し、共同で使用するという制度を日本にも適用するという考えである。ウクライナもソ連から離脱の際に、核の抑止力を何らかの形で残していれば、ロシアの軍事侵攻はなかったのではないかとの考えが背景にある。この問題は国会でも取り上げられ、岸田文雄首相は32日の参院予算委員会で、非核三原則を堅持する立場を改めて強調し、核共有について政府として議論はしないと述べたが、与党自民党の中だけでなく、野党各党、市民団体、メディアを巻き込んだ議論となるに至っている。

 

安倍氏は、「核共有」の議論をすべき段階だと述べてはいるが、直截的に日本が核武装をすべきと主張しているわけではなく、どうすればロシア、中国および北朝鮮からの核の脅威から日本を守れるのかー核抑止の問題も含め、議論を促していきたいとしている。一方、2012年から安倍内閣で内閣官房副長官補を務めた兼原信克同志社大学特別客員教授は、安倍氏の議論を補足しつつ、日本の核武装戦略へと踏み込んでいる。「日本を守るには、日本核攻撃に際して撃ち返すべき核ミサイルが日米で共有されている方が抑止力は強い」というのが、ウクライナ戦争の教訓であるという(『正論』5月号、「国会には核兵器を論じる義務がある」)。



これまで日本の安全保障に関する議論では、日本自身の核武装化や「核共有」というテーマは、主要メディアでは、いわばタブー視されてきたといえる。今回の「核共有」についての議論に対しても、予想通り、日本維新の会を除く野党各党や、核兵器廃絶を目指す市民グループなどから、強い反発が見られる。しかし、ウクライナ情勢が刻々と緊迫度を高めつつあり、また、ロシアによる核使用の可能性も懸念されるに至っている現在、「核共有」論は、これまでのタブーを破って、重要な一石を日本の国民に投じたことは疑いがない。今後のさらなる議論の展開が予想される。



※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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