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令和の象徴天皇の意味を考える

投稿日 : 2019年05月16日

いよいよ令和時代が始まった。新しい天皇がどのような形で象徴としてのお務めをなされるのかについて、主要月刊誌(5月号)で様々な議論が展開されている。

 

『中央公論』の座談会「これからの象徴天皇制を考える」では、原武史放送大学教授が、平成天皇は2016年8月8日の象徴としてのお務めについてのおことばで、「宮中祭祀と行幸啓を中核とする平成のスタイルを、今後もずっと続けるよう求めている」ことを指摘している。このため、「めちゃくちゃハードルを上げています。象徴の中身が、昭和から平成になって格段に厳しいものになった」という。また河西秀哉名古屋大学准教授は、「昭和は『いればいい』、威厳があって、そこにいてくださって―というのでよかった。だけど平成の場合は、それだと国民から無関心のまま終わってしまうため、積極的に能動的に動いていった。」その結果、仕事が増え、どんどんハードルが上がっていったが、次の代は無理だと感じると述べている。しかし河西氏は、平成のあり方が国民に大変支持されているため、これをラディカルに変えていくことができるかと疑問を提起する。積み残された課題としては、公務を分担できる人を増やすための臣籍降下の見直しや、女系天皇の可能性、国民統合の象徴としての天皇の主体性の範囲、日本に住む外国人を含めた国民統合といった点が議論されている。

 

『中央公論』の「有識者会議への批判にこたえる」の記事で御厨貴東京大学客員教授は、象徴としての天皇のお務めについては、「研究者がもっと議論しておくべきでしたし、今後も議論すべきです」と述べている。もともと平成天皇も試行錯誤しながら次第に今の道を切り開かれたと指摘して、令和天皇にも時間が必要という。御厨氏も、「今回の一連の経緯の結果、天皇の在り方が流動化、能動化してきたので、女系、女性天皇の議論にもう一回火がつくだろう」と予測している。

 

『中央公論』のインタビュー記事「国民の苦しみ悲しみとともに」で羽毛田信吾元宮内庁長官は、「象徴天皇制は、国民の信頼と共感、敬愛のうえに成り立っている」との見方を示している。平成天皇が「国民の中に分け入って、国民と苦楽をともにする、喜び苦しみを我が身に受け止め、何ごとも全身全霊でなさる。そのお姿が国民の信頼を生んでいるのでしょう」という。また、令和天皇も「象徴天皇がいかにあるべきかということをずっと追い求めて、言わば、未開の道を切り開いていくようなつもりでやっていかれると思います」とし、象徴のあり方は永遠の課題だと指摘する。さらに、「象徴とはどうあるべきか、ということは、憲法論としてももっと総合的な議論があってしかるべき」との感想を述べている。

 

『文藝春秋』は、平成天皇皇后両陛下に関する123人の証言とともに、「平成から令和へ継承すべきもの」と題する記事で、渡邊允元侍従長と羽毛田信吾元宮内庁長官の対談を掲載している。羽毛田氏は、「平成天皇がなさってこられたやりかたは、大きな枠組みとしてはそう変わりえないのではないか」としながらも、「新しい時代の要請もあり、令和天皇ご自身で『象徴のあるべき姿』を求めていかれるしかない」という。渡邊氏も、「(平成天皇に)うかがったら、次の世代は次の世代で考えてほしいとおっしゃると思う。要するに、社会というものはかわっていく。世界も変わっていくし、人も変わっていく。だから天皇も変わっていくということなのだろう」と応じている。

 

一方で、片山杜秀慶応義塾大学教授は『Voice』において、天皇と民主主義、天皇と国民との関係について改めて考察している。片山氏は、象徴天皇制がはらむパラドックス(逆説)について指摘し、「天皇が人間として国民の信頼を得ようと努めるほど、天皇の持つ宗教的権威という側面が失われてしまう」という。「象徴天皇が国民の信頼を得るには、進んで人びとの目の前に出なければなりません。しかし、それはメデイアに晒されるリスクと表裏一体となっています。ポスト平成の皇室は危うい綱渡りの局面に差し掛かっている」と述べる。その上で片山氏は、令和天皇と皇后が、日本の伝統文化を大切にされている姿を見せることが大事だとし、天皇が国民と共感・共苦する姿勢を見せる以上に、日本の変わらない伝統を守り続ける伝統的存在であり続けることが重要で、この点がポスト平成の皇室を考える鍵になると主張している。

 

 


※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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