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実施日 : 2021年10月12日

自民党新総裁に岸田文雄氏を選出

投稿日 : 2021年10月12日

注目すべき海外メディアの日本報道

(9月29日~10月2日)


 

自民党新総裁に岸田文雄氏を選出


 

 9月29日の自民党総裁選における岸田文雄新総裁の選出について、主要海外メディアは東京発の速報を中心に、社説や論評も含め一斉に報じた。


 米英メディアは、岸田氏は堅実な政治手腕を持つとしつつ、控え目、物静か、謙虚、穏健といった印象とともに、カリスマ性がない、派閥にとって脅威が少なく従順とも報じ、大きな変化をもたらすことはない『現状維持の男』と紹介している。


 政策面では、十数億円の経済政策や国民の所得倍増の目標を紹介しつつも、刺激的な公約がなく、諸問題解決の為の具体的な政策は示されていない、安倍・菅政権時代の経済政策の延長である、といった前政権の政策踏襲路線とみる。


 総裁選については、現状維持を好む保守派の強さと世論無視の姿勢を反映していると評し、民意を無視し、派閥の密室取引で党上層部が選んだ岸田氏では、最初の大仕事である「総選挙」で反対票につながる可能性があると手厳しい。また、岸田氏勝利の裏で安倍元首相が大きな役割を果たしたと伝えている。


 論説では、自民党の根強い派閥政治や野党不在で自民一党優位体制が続く現状について、日本の民主主義を危ぶむ論調が散見された。


 そのような中で、2人の女性候補が立ち上がったことについては、長く性差別的で無関心であった与党に進展をもたらし多くを驚かせた、注目に値する、と評価する報道も見られた。


 外交関係については、一部に、日本を米国の一同盟国から世界舞台のプレーヤーに格上げした安部氏のような活力ある政策をとることを歓迎するとの意見があるが、対中・対韓関係について岸田氏は、中国の覇権主義拡大を非難しつつも、安倍氏よりも保守色は薄く、靖国神社参拝や憲法改正を試みることはないだろうと報じている。


 韓国メディアでは、日韓関係の改善に向けた契機となるとの期待が示された。豪州メディアは、中国への対抗姿勢を鮮明にする岸田氏の勝利を歓迎している。



【米国】


 The Wall Street Journal紙は、29日付「岸田文雄氏、党総裁選勝利で次期首相に」(Peter Landers東京支局長)で、岸田氏は、前任同様、党上層部の選択であり、戦後の日本に度々登場した控えめなスタイルの首相、すなわち、カリスマも刺激的な公約もないが、党保守派の支持の厚い人物、に戻ったとしつつも、中国に対抗する意味で日米同盟強化を唱え、年内に数十兆円規模の経済対策を策定し、国民の所得倍増を目標に掲げる、と報じた。


 Washington Post紙は、29日付「岸田文雄氏、総裁選に勝利し新首相就任へ」Michelle Ye Hee Lee東京支局長、Julia Mio Inuma記者)で、岸田氏は安倍政権の閣僚として仕えたベテラン政治家であり、ともに政治家の父と祖父をもつ政治家の家系に生まれた背景をもつことからしても、同氏が現状を打破することはないであろうとし、加えて、専門家の話として、米政府は岸田政権による台湾尊重の主張の進展や日韓関係の改善に前進がみられるかに関心があると報じた。


 CNN(電子版)は、29日付岸田文雄氏が新総裁に選出、次期首相となる見込み」(Junko Ogura記者、Selina Wang記者他で、岸田氏は、リベラル穏健派の安定手腕で、中国、米国等に対する姿勢を明確にしつつ内外政策の舵を取ることになるが、「国民は急進的改革より安定を求めており、問題は同政権が継続するか否かである」との専門家の見方を伝えた。


 New York Times紙は、29日付「日本の首相の選択は、世論と隔たりのある、党の信奉者」(Motoko Rich東京支局長)で、党幹部は民意を無視し、不人気な菅首相とほぼ変わらない候補者を選んだようだと伝えつつも、強硬保守派の高市氏、党内左派の野田氏、2人の女性が立候補したことは注目に値すると評した。また、同日付「日本は大きな課題抱えるも、次期首相から大胆な解決策はほとんど示されず」(同)では、岸田氏が提唱する「新資本主義」は経済の低迷を解消できなかった安倍政権時代の経済政策の延長であり、諸問題解決の為の具体的な政策は示されていないと指摘した。


 13年ぶりの女性の立候補については、AP通信も、30日付「総裁選、2人の女性候補に反応さまざま」(Mari Yamaguchi記者)の中で、長く性差別的で、無関心であった与党に進展をもたらし多くを驚かせたとし、立憲民主党の辻元議員は「女性がほとんど見えない日本の政治では、2人の女性の存在はわずかでも光であり、多くの人に希望を与えた」と述べたと報じた。


 Washington Post紙は、30日付論評「岸田次期首相にのしかかる安部氏の遺産」で、野党不在の日本は危険なほど一党支配国家に近くなっており、総裁選候補者の民主主義的な価値は限定的だが国政に影響を及ぼしているとし、つまり、それは岸田氏のような比較的革新的な人物が、党内の強力派閥に訴求すべくタカ派右寄りへと路線変更し、河野氏のような世論に支持される候補が失速するということだと分析。その上で、安倍長期政権は日本政治の機能不全を覆い隠していたが、同氏の突然の辞任以降その兆候は露呈しており、ポスト安倍の余韻を振り払うため日本はかなり長く苦闘することになろう、と論じた。


【英国】


 The Times紙は、29日付「日本の新首相 岸田文雄氏とは誰か」(Richard Lloyd Parry記東京支局長)で、岸田氏は物静かな語り口とカリスマのない威厳があり、党と日本の再生を約束して総裁となったが、同氏は、これから進める調整以上に劇的な何かをもたらすことはなく、良くも悪くも、日本は9年前に安倍首相が就任した時の針路を継続するだろうとしつつも、岸田氏の「現実主義」とは、憲法改正や靖国神社参拝などで近隣諸国を刺激することを避けることを意味するとの見方を示した。また、同日付「岸田文雄新首相は、中国には厳しく、国内では「礼儀正しく」と誓う」(同)では、岸田氏は前任の菅氏とは違うスタイルの首相になるだろうが、概ね菅・安倍政権の政策を踏襲するだろうと伝えた。日米同盟中心の外交政策を支持し、中国の人権抑圧や軍事的拡張の危険にも言及するが、安倍氏よりも保守色は薄く、靖国神社参拝や憲法改正を試みることはないだろうと報じた。


 The Guardian紙は、29日付「岸田文雄氏、総裁選に勝利の後、日本の新首相へ」(Justin McCurry東京特派員)で総裁選を総括し、決選投票で下した河野氏との比較を通した岸田氏の政権運営の展望や課題を分析。東京大学の内山融教授は、総裁選では自民党が安倍氏の影から抜け出す用意があるか否かが試されたとみており、「日本の民主主義が危うい。新首相は如何に有権者の声を聞き、政治に反映させるかだ」とのコメントを紹介した。さらに、同日付「岸田文雄氏、与党にとって『信頼に値する人物』」(同)で、岸田氏の勝利は、自民党が右傾化する間に放棄された首相のスタイル―適切な、ともすれば、つまらない首相が指揮する現実路線の中道政治―への回帰を意味づけたとしつつも、謙虚さが評判の岸田氏は、有権者が期待する、ポスト安倍時代の日本を築く政治家を選ぶ選挙での劣勢を巻き返すには十分でないだろう、と示唆した。


 BBC(電子版)は、29日付「岸田文雄氏、日本の次期首相競争に勝利で、穏健リベラルとして知られる岸田氏は、保守与党を僅かに左寄りに舵を取るとみられるが、専門家が同氏を無難でつまらないと表する一方で、党内では長く総裁候補と見られ、党幹部の支持を得ていたとし、アベノミクスには批判的だが、対中政策を重視、中国の覇権主義拡大を非難している、と報じた。


 The Financial Times紙は、30日付「日本の与党、次期首相に『現状維持の男』岸田文雄氏を任命」Kana Inagaki記者、Leo Lewis記者)で、自民党は新しい世代層のリーダーとの賭けには出ず、党の未来を安定性に託したとし、総裁選が世代交代の到来を告げると期待した若手党員にとっては打撃となったと報じた。また、同日付の社説「岸田文雄氏は日本が支持できる首相になる必要がある」は、前任と同様の安全堅実な岸田氏の選出は危険を孕んでいるとしつつも、岸田氏は、頑強な掌握力、国民との繋がり、国の将来像に対する明確なビジョンを示す必要があると提言。その上で、岸田氏が安倍政権の財政金融策を踏襲すること、対米中外交では、日本を米国の一同盟国から世界舞台のプレーヤーに格上げした安部氏のような活力ある政策をとることを歓迎すると論じた。


 The Economist紙は、30日付岸田文雄氏で、日本の保守派は現状維持を選んだで、国民や若手党員・議員から支持を得たのは河野氏だったが、派閥にとってはるかに脅威が少なく従順な岸田氏が選ばれたと説明した上で、総裁選は現状維持を好む保守派の強さと世論無視の姿勢を反映しており、それが岸田首相の最初の大仕事である「総選挙」で反対票につながる可能性があるとの見方を示した。岸田氏は国民の信用を取り戻し、安全な国の再開と経済再生のための実効性ある計画を示さなければならないが、同氏のビジョンは曖昧で、且つ総裁選出の裏で安倍氏が大きな役割を果たしたことから、政策は変わらないと論じた。

  

    また、10月2日付社説日本は、当り障りない首相よりも良いはずだ、当り障りのない性質の岸田氏の勝利は現状維持を重視する党幹部により操作されたとし、日本は先進民主国の病であるポピュリズムや極論主義を回避しているものの、与党内に根付く派閥の密室取引が民主主義を阻害していると説明している。加えて、世界三位の経済かつG7・クワッドのメンバーでありTPP議長国である日本に強い首相がいなければ、国際舞台で主導的役割を担うことは困難だろうと論じている。岸田氏が記憶に残らない首相となったとしても、それが総裁選の最悪の結果ではないが、日本はそれよりも良いものを目指すことができるし、そうしなければならないと結んでいる。


【韓国、シンガポール、豪州】


朝鮮日報(韓国)の9月29日付日本の次期首相岸田は・・・自己主張あいまい、政界でのニックネーム『最もつまらない男』」(チェ・ウンギョン東京特派員は、岸田氏が会長を努める派閥である宏池会について、伝統的に韓国・中国のような周辺国との外交、アジア・太平洋における日本を重視するゆえ、宏池会が輩出した首相たちは韓日関係に大きな足跡を残したと述べ、岸田氏への期待感を示した。


 中央日報(韓国)は、30日付社説「日本の新首相を機に韓日関係の正常化を」で、慰安婦合意に署名した当事者である岸田氏は両国の関係改善に積極的に努力する必要があると論じる。そして、両国に対し、「感情と対立よりも、互いに立場を理解して尊重することが重要だ」として、首脳会談による対話を求めた。歴史問題については、「日本側が被害者をまず理解して癒そうと努力しなければならない」と注文をつけた。


 東亜日報(韓国)も30日付社説岸田新総理、安倍路線を捨て韓日関係の改善に動くべきで、日本の首相の交替を機に、韓日関係は何とかして韓日関係の突破口を開かなければならない状況だと述べる。その上で、岸田総裁が安倍元首相が見せた一部の政策について修正する意思を明らかにしたことに触れ、「修正の範囲には、当然のことながら日韓歴史問題が追加されなければならない」と主張する一方で、「日韓関係は一朝一夕には良くなりえないが、時間を置いて回復する転機でも用意しておく必要がある」との見方を示した。


 The Straits Times(シンガポール)は、10月2日付岸田文雄:日本の浪人(経験者)が次期首相に」(ウォルター・シム東京特派員で、岸田新総裁の政治家としての経歴とともに、その人物像に焦点をあて、岸田氏が東京大学の受験に三度失敗し、著書でも自身はエリートではないと述べていること、国民の声を書き留めたノートを宝としていること、酒豪として知られ外相時代にはロシアのラブロフ外相とウォッカや日本酒を酌み交わしたなどを紹介した。


 The Australian(豪州)の10月1日付社説日本の中国への反発は正しい」は、岸田氏が総裁選の期間中に、台湾は権威主義の拡大に対峙する民主主義勢力の最前線だと述べ、中国に対抗する姿勢を鮮明にした点に注目。岸田氏は外務大臣を長く務め、中国の軍事的拡張に対する日本の防衛力の必要性や安全保障について確固たる考えを持っているが、それは安倍長期政権の路線への回帰を示唆するものでもあり、岸田氏の総裁選勝利はインド太平洋にとって大きな意味を持つと論じた。 


 Sydney Morning Herald(豪州)は、9月29日付「岸田文雄元外相、日本の次期首相就任へ」で、岸田氏は中国の台頭に対する日本の防衛力強化を訴えるほか、台湾のTPP加盟申請を歓迎、さらには日米やQUADによる同盟関係を重視しており、同氏の総裁選勝利が日本の外交政策に対して与える影響はほぼないだろうと報じた。


(了)


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