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カナダ紙コラムニストに聞く、日本への関心や現地のメディア事情

投稿日 : 2021年09月29日



フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は、これまでセンターが企画・運営した記者招へいプログラムで訪日取材をした各国のジャーナリストに、日本への関心や現地のメディア事情を聞くインタビュー・シリーズを2021年にスタートしました。実際に日本を訪れ、取材したことがある外国記者ならではの視点、変化の渦中にある世界のメディア業界からの生の声をお届けします。





 

カナダ「ナショナル・ポスト」紙 政治コラムニスト John Ivison氏

 

2015年にFPCJの記者招へいプログラムで来日した、カナダ「ナショナル・ポスト」紙のコラムニストであるジョン・アイビソン氏に「日本への関心」や「SNSなどによって大きく変化する現地のメディア事情」について聞きました。「ナショナル・ポスト」紙は、オンタリオ州トロントに本社をもつカナダの主要紙です。アイビソン氏は、訪日当時、日本の外交・安全保障政策、歴史認識、高齢化社会に対応する日本の公共政策をテーマに取材しています。



カナダと日本との関係は以前にも増して強固なものに


Q. 訪日取材で取り上げたテーマに関心を持った理由・背景は何ですか? また、取材の前後での日本の印象の変化、現在の日本について思うことや、今後取材したいテーマについても教えてください。


FPCJの招待による2015年11月の訪日は、北京・上海への同様の(招待プログラムによる)訪問から3年近く経つ頃でした。私の中国訪問は習近平氏が国家主席に就任する直前で、当時、習氏は 西側諸国にとって話ができる人物なのだとかなり楽観的に捉えられていました。私は中国の公害のレベルに愕然としつつも、技術面での発展に感心し、この先の平和的共存を見据え高揚した気分で、2013年1月に中国を後にしました。尖閣諸島を巡る論争に関してでさえ、私は中国の言うことに一理あると納得していました。

 

3年後、FPCJの招待で東京、京都、広島を訪問した私は、「中国は政治や経済システムの自由化に関心がある」と考えていた自分は純真だったと納得させられました。安倍政権で内閣官房参与を務めた谷口智彦氏や元外交官の宮家邦彦氏のような直接中国と接した経験がある人々と話したことで、中国は共存にはあまり興味がなく、アジア太平洋地域の覇権に、より焦点を絞っているのだと確信するようにな りました。宮家氏は、醜悪なポピュリスト・ナショナリズムを煽ることで、習氏は80年前の日本と同じ過ちを犯していると指摘しました。

 

日本の視点から中国を見ることで、習氏の現在の方向性によって世界平和が脅かされていることに気づかされました。そして、谷口氏や宮家氏の示した解釈が正しかったことがその後の出来事によって立証さ れました。私は日本から 帰国して以来、トルドー政権に対して、中国については、希望的観測ではなく、目の前の証拠に基づいた、より現実的な路線を取るようたびたび求めました。ジャスティン・トルドー首相は、父で元首相のピエール・トルドー氏が50年以上前に毛沢東政権と国交を樹立し た経緯から、とりわけ中国寄りの傾向がありました。しかし、ファーウェイ社幹部の孟晩舟氏がバンクーバーで逮捕された報復として、中国がカナダ人2名を拘留した後は、そのトルドー首相でさえ楽観論を見直さざるを得なくなりました。

 

カナダの対中関係が冷え込む一方で、日本との関係は以前にも増して強固なものになっています。2015年の記事の中で書いたように、カナダの選択肢はシンプルだったはずです。片方は権力政治や軍事力で地域秩序を作り変えたいとし、もう片方は合意によるルールに基づいた秩序を維持したいとしている。この結論に達するのにトルドー首相は時間がかかり過ぎましたが、私はそれほどの時間を要しませんでした。そうした点で、訪日の機会が与えられたことに感謝しています。気候変動、新型コロナウイルス、中国の台頭は現在 のテーマです。日本について は、中国の拡張主義に対する協調した抵抗力の出現が私の主な関心事項です。

 

 

世界中で続く、報道機関とFacebookやGoogleなどのウェブ大手との交渉


Q. SNSの普及や新興メディアの誕生、パンデミックの発生などメディアを取り巻く環境が変化しています。あなたの所属メディアや所在地では、購読・視聴者数の増減やフォーマットの多様化など具体的にどのような影響が見られますか? また、こうした環境の変化に対し、どのような対応を行っていますか?


カナダのニュースメディアは、ソーシャルメディアに追いやられてきましたが 、新型コロナウイルスは 、 新聞 がつぶれていく傾向に拍車をかけました 。過去12年で、カナダの約215の出版物が廃刊となり、残る出版物は1,000余りになりました。多くの新聞社・出版社が業績不振にあえいでいます。経営者は、主に人件費を削減することでコストカットを続けていますが、広告収入の減少についていくことはできていません。皮肉なことに、読者数は依然として高い数字を維持しています。若者たちは、ニュースを読まない層として捉えられることがよくありますが、調査によると、デジタルプラットフォームを介したニュースへのアクセスが増加したことにより、読者は非常に 多くなっています。

 

問題は、こうした読者 がコンテンツに対して対価を支払って いない ことであり、読者の関心をいかに収益化 するかということです。この課題を解決できている のは、ほんの一握りの 有料の出版物だけです。FacebookやGoogleのようなウェブ最大手との交渉は世界中で続いています。オーストラリアは、広告収入全体の80%~90%を得ている企業(ウェブ巨大企業)に対して、新聞社のようなコンテンツプロバイダーへの支払いを法制化しました。カナダでも同様の法制化の可能性があり、政府は新聞社・出版社の生き残りのために公的資金を提供しています。私個人としては、政府、ウェブ企業、新聞社・出版社の間で、この業界を存続させるための取引が成立するだろうと考えています。政府は、偽情報のプラットフォームによってドナルド・トランプが台頭したことを目の当りにしたことで、市民の無知に潜む危険を認識しています。健全な民主主義には健全なメディアが必要です。しかし、私はビジネスとしての新聞の将来に関しては楽観的ではありません。我々は(ニュースコンテンツという)製品を長い間無料で提供してきましたが、それは対価を支払う価値があるものだということを人々に納得させる方法を見つけられないでいるのです。

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