今月の雑誌から

一覧に戻る

今月の雑誌から:タリバンが支配するアフガニスタンに、日本はどう向き合うのか

投稿日 : 2021年09月30日

8月半ば、米軍のアフガニスタンからの撤退を受けてタリバンが首都カブールに進出、それまで西側諸国から支援を受けてきたアフガン政府はあっけなく崩壊した。アフガン騒乱とタリバンの再登場は、連日世界中のメディアの注目を集め、過去20年にわたる西側諸国のアフガン復興支援、民主化、女性の社会的進出、人権擁護などの諸努力が無に帰してしまうのではないかとの危惧を呼んでいる。日本も二度にわたりアフガニスタン復興支援国際会議を開催するなど、アフガン復興に多大の貢献を行ってきた。それ故に、タリバンが主導するアフガニスタンの一挙一動に、日本のメディアも強い関心を払っている。

 

 

「アフガン崩壊ー失敗の教訓と平和作りへの課題」 東大作 上智大学グローバル教育センター教授(『世界』10月号)

 

東氏によると、2001年の米軍の介入直後から始まったアフガニスタンの民主的国家建設は、「アフガンの90%を実効支配していたタリバンとその構成員をすべて排除した国づくり」であった。そのため、当時タリバン側が、アフガン新政府との対話や政治参加を真剣に考えていたにもかかわらず、アフガン政府はタリバンとの対話による和解の機会を逃したと言う。

 

2008年に同氏が行った現地調査でも、市民や国連幹部、アフガン政府要人の多くが、軍事的にタリバンを駆逐することは困難で、タリバンとの政治的和解しか和平への道はないと主張していた。同氏は2009年の日本政府のアフガン支援策にも、タリバンとの和解に向けた支援が含まれていたが、水面下の交渉は何の成果もあげられなかったと言う。

 

東氏の見るところ、タリバン政権の最大の課題は、短期的には多様な民族が参加する包摂的な政権の樹立、長期的には国際過激グループの排除、さらに国際的承認を得るためには女性の権利保護の問題が最重要課題であると指摘する。そうした中、日本は、アフガン復興会議を2回開催し、米国に次ぐ規模の民生支援を誇り、また中村哲さんのペシャワールでの活動などもあって、アフガン人から特別な尊敬を得ており、タリバンからも一定の信頼を得ている。東氏は、米中対立が激しくなる中、日本が「現地の人たちに寄り沿い、その意思を尊重しながら平和作りの支援を続けること」は、一層重要であり、「今後の日本の平和構築支援の試金石にもなる」と結論づけている。

 

 

■「理念なき大国間競争時代の幕開け」 中山俊宏 慶應義塾大学 総合政策学部 教授/日本国際問題研究所 上級客員研究員(『Voice10月号)

 

中山氏は、アメリカという国は理念に依拠した構造上不安定な国家であり、「将来に実現するであろうアメリカの姿を見定め、そこに向かって一緒に歩いていくことの中に共同性を見出そうとする」国家であると見る。9.11事件は、アメリカを理想主義と恐怖感が混然一体になったような心理状態にさせ、それが、世界を自らの姿に似せてつくりかえようとする攻撃的かつ工学的な理想主義を先鋭化させた。

 

トランプ大統領は、アメリカファーストの文脈でアフガニスタンにおける「永続戦争」を終わらせようとし、バイデン大統領もほぼ完全にこの意識を継承した。中山氏にとって衝撃的だったのは、攻勢的な理想主義を掲げて介入していったアメリカが、アメリカの支えなしには独り立ちできないであろうことがわかっているアフガニスタンを、あっさりとあきらめてしまったことだという。今回の撤収は、アメリカはもはや世界を自分の姿に似せて作りかえるようなプロジェクトには手を染めないと宣言しているかのようであり、それはむき出しの力と力が苛烈にぶつかり合う、理念なき大国間競争の時代の幕開けの序曲のようであると言う。そのうえで中山氏は、アメリカが直ちに諸々の国際的なコミットメントを放棄する方向に動いていくことはないにしろ、各国、各地域は、アメリカの「引き具合」を丁寧に見定めていくことが、ますます重要になってくると警告する。

 

 

■「新世界地政学:名誉なき撤退」 ジャーナリスト 船橋洋一氏(『文藝春秋』10月号)

 

船橋氏は、「米国の威信は地に堕ちた。アフガニスタンからの撤退そのものによってというより、このような形でしか撤退できない米国の不甲斐なさによってである」と嘆く。

 

同氏は、米国の退場とタリバンの再登場の意味合いとして、第一に、「中国に戦略的棚ぼたをもたらす可能性がある」と指摘する。新疆ウイグルのイスラム独立勢力を根絶することに協力する親中タリバン政権を維持し、合わせてパキスタンからもイスラム過激勢力を除去する。パキスタンから新疆への石油パイプラインを安定稼働させ、台湾進攻の際に米軍がマラッカ海峡を封鎖し中国への石油輸送をストップさせることに備える。船橋氏は、これが中国にとってのベストシナリオだと言う。しかし、米軍がアフガン政府軍に残した大量の先端兵器を手中にしたタリバン政権を、中国は経済支援によって制御しようとするだろうが、タリバンがイスラム原理主義を捨てることはなく、いずれ中国もユーラシアの地政学的ブラックホールに引き込まれていくと同氏は予測する。

 

船橋氏は、もう一つの危険は、「中国がカブール陥落を米国の衰退の加速化であると確信し、台湾統一に向けてさらなる攻勢をかける可能性である」とし、「バイデン政権は、アフガニスタンからの撤退を中国と対抗すべくインド太平洋へのリバランシング戦略の一環であると正当化しようとしている」と指摘。しかし、イラクとアフガニスタンがアジアへのピボットへの足かせとなったオバマ政権とは違い、「米国のインド太平洋へのピボットを実現することが米国に残されたおそらくもっとも確かな威信回復の道である」と締めくくっている。

 

 

■「『文明の衝突』の正体を見極める」 末近浩太 立命館大学国際関係学部 教授/中東・イスラーム研究センター長(『Voice10月号)

 

末近氏は、すべてのイスラム教徒を潜在的なテロリスト、あるいは西洋にとっての脅威と見なすのは、粗雑な文明論であり、むしろ、「文明の衝突」などを望まず、西洋文明を積極的に受け入れようとするイスラム教徒が大多数であると指摘する。しかし、ISの出現とその常軌を逸した憎悪と暴力に戦慄した西洋諸国は、イスラムやイスラム主義自体を潜在的な脅威と見なす過ちを繰り返し、このために、過激派による「文明の衝突」の主張を裏づけ、その共鳴者の拡大を助長することになったと見る。

 

同氏は、「文明の衝突」とは、自分とは異なる文明に属する人びとを知り尽くすことなく、安易に敵視し、暴力でもって対峙するしかないと見る「無知の衝突」だと断言する。国際社会に求められるのは、アフガニスタンの社会を構成する一部であり続けてきたタリバンを一方的に排除するのではなく、紛争や圧政による人道危機の発生を防ぐため、冷静かつ現実的に関与させることだろうと同氏は主張する。

 

末近氏は、「日本は、幸いなことに、「文明の衝突」から一定の距離を保つことができている」ので、西洋とイスラムの間の仲介役を担える立場にあるという強みを忘れるべきでないと述べる。今の世界に必要なことは、何が本当の脅威かを見極めるため、異なる「文明」を尊重しながらも、「衝突」を回避する知恵であり、それは他者を知ることからしか積み上げることはできないと結論づけている。

 

 

■「アフガニスタン情勢 穏健派支援し、テロ勢力断絶を」 多谷千香子 法政大学名誉教授(「私の視点」朝日新聞914日朝刊)

 

多谷氏は、米軍の撤退は正しい判断で、もっと早く決断していればよかったと主張する。同氏の見るところ、アフガニスタンは、20019.11事件の後米国が軍事侵攻する前は、軍閥が割拠する前近代的国家であり、その国家のあり方を外国がいきなり変えるのは無理であり、米軍は、アフガン民衆にとっては占領軍でしかなかった。

 

他方、タリバンは、賄賂をとらず裁判も早いため、民衆からそれなりの信頼を得ていた、と同氏は指摘する。米軍が目的をアルカイダへの報復に限っていれば、2011年のビンラディン殺害で達していたし、米軍が早期撤退していれば、タリバンの勢いも今ほど広がらず、和解が可能だったはずだ。タリバンの大部分は、古い田舎の慣習に従うアフガン民衆そのものである。多くのグループがあり、穏健派は外国援助と地域部族の協力なしには統治できないことをよく知っていると同氏は述べる。

 

多谷氏は、さらなる混乱を避けるには、民主化を条件にアフガン国民を援助し、穏健派に力を持たせて、アルカイダなど国際テロリストとの関係を断ち切らせる他に良策はなく、また人道援助もメカニズムの構築と監視によって、真に必要な人々に届くようにしなければならない、と提言する。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

FPCJとは
取材協力
取材に役立つ情報
活動の記録
外国への情報発信