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情報発信で復興を支える被災地の地域メディア:岩手編(2013年4月9日)

投稿日 : 2013年04月09日

【ウォッチ・ジャパン・なう vol.38/FPCJ】

2013年04月09日

 

情報発信で復興を支える被災地の地域メディア:岩手編

 

東日本大震災は、東北地方の沿岸部で長きにわたって地域のニュースを伝えてきた地域メディアにも大きな被害を与えました。今回は、そのような困難にもめげず、岩手県の沿岸部で奮闘している地域メディアの活動をご紹介します。

 

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東日本大震災発生まで、岩手県北部沿岸地方には日刊夕刊紙「岩手東海新聞」がありました。釜石市、宮古市、大槌町、山田町をエリアとし、半世紀以上にわたり地元住民の大切な情報源となっていました。しかし、2011年3月11日に発生した津波によって、輪転機が水没し、同紙は休刊。地域の住民が身近な情報を最も必要としているときに、それを発信する担い手がいなくなってしまったのです。

 

釜石市に隣接する大槌町は、「岩手東海新聞」の休刊により住民が情報不足に陥った自治体の一つ。それに加えて、大槌町の場合は地勢も災いし、情報が町の外に出て行かず、甚大な被害にもかかわらず、支援や人が十分に集まらないという問題にも直面しました。

 

そうした中で、大槌町の情報を町の内外に発信することで復興を支えるため、2012年9月、「大槌みらい新聞」が創刊されました。発行しているのは、「NewsLab ♡おおつち」。ソーシャルメディア時代の新しい情報発信のあり方を切り開こうとしている「日本ジャーナリスト教育センター」と、ボランティア情報を発信しているNPO法人「ボランティアインフォ」が、大槌町の情報発信拠点として設立しました。活動資金は、インターネット上のファンディングサイト「ReadyFor?」や、三菱商事の復興支援財団などから寄せられました。

 

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「大槌みらい新聞」の大きな特徴は、紙とソーシャルメディアの「ハイブリッド」での発行であること。月1回発行の紙媒体の方は、被災者自身が元気の出るような話題を中心に掲載し、48カ所の仮設住宅を含む町内の全戸に無料配布(発行部数5000部)。ソーシャルメディアの方は、町の中でも外でも、いつでも誰でも閲覧できることを念頭に、被災者の「津波証言」など、紙媒体に載せきれないものも含め、ほぼ毎日コンテンツを更新しています。現地責任者を務める松本裕樹さんによれば、当初はもっとネット中心の事業を予定していたそうですが、大槌町の住民の多くがインターネットを使っていないことから、現在のような形になったとのことです。

 

現地の指揮を執る松本さんは、茨城県の地方紙「茨城新聞」の元記者。同紙のメディア事業部長として公式サイトの管理者、ツイッター管理者などを務めていましたが、地域メディアを失った大槌町のことを知り、情報発信を通して復興を支えたいと、昨年7月に大槌町に移住。2名の常駐スタッフや、学生インターンとともに、奮闘されています。

 

「大槌みらい新聞」のもう一つの大きな特徴は、町の住民が自らが主体となって大槌の現状や魅力を発信しているということ。松本さんらは過去60回以上も町民向けに写真講習会などを開催するなど、情報発信の楽しさを伝える取り組みを続けており、現在は30名程度が「町民レポーター」として新聞に写真や記事を投稿しています。先月には、町民のみなさんが撮影した写真を紹介する写真展が、大槌町のほか、東京と横浜でも開催され、地元のおじいちゃん、おばあちゃんが撮った被災地の『今』として、注目を集めました。松本さんは、「大切な写真を津波ですべて失い、二度と写真を撮りたくないという人もいた。でも、中には写真撮影が生きがいになったと言ってくれている人もいる」、「『大槌みらい新聞』がいずれは、町民自らが運営し、情報を発信するメディアになって欲しい」と話してくださいました。

 

震災から2年となる今年3月、過去の「大槌みらい新聞」の掲載記事をまとめた電子書籍がKindleストアで出版され、なんと英語版もあります。インターネットで「大槌みらい新聞」の活動を知った国内外の方々がボランティアで翻訳を担当されたということで、インターネットとソーシャルメディアの力を痛感させられます。

 

 

大槌新聞第21号

大槌町には、震災後の情報不足のなかで新たに立ち上げられた地域メディアがもう一つあります。「大槌新聞」です。大槌のまちづくりのためにいろいろな事業を展開している一般社団法人「おらが大槌夢広場」が、町の業務委託を受けて、2012年6月から毎週月曜日に週1回発行しています。

 

「大槌新聞」のターゲットは、あくまでも大槌町民。町民の情報不足を補い、住民参加型のまちづくりにつなげることがねらいです。町の復興計画や生活再建策がどうなっているかといった、町民が本当に必要としている情報が、行政の資料では分かりづらいため、それらをかみ砕いて、町民目線でわかりやすく伝えているとのことです。仮設住宅を中心に無料配布しているほか、町外に避難している元町民などからの郵送希望にも対応しています。これまではA3両面刷りだった紙面を、間もなく4ページに増やすとのことでした。

 

 

 

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最後にご紹介するのは、釜石市の「復興釜石新聞」。「岩手東海新聞」の元記者らが中心となって、同紙の休刊から3カ月後の2011年6月に、新たに立ち上げた地域新聞です。毎週水曜日と土曜日の週2回発行で、仮設住宅を含む釜石市内の全世帯に無料で配布され、復興に向けて市民が必要としている、地域に根差した情報を届け続けています(発行部数は計2万部)。

 

「復興釜石新聞」の特徴の一つは、発行に要する経費を全額釜石市が負担していること。震災前まで市民向けの広報を「岩手東海新聞」に依存していた同市は、同紙の休刊により、必要な情報を市民に提供する手段がないという問題に直面しました。そのため、「岩手東海新聞」の記者だった川向修一さん(現・復興釜石新聞編集長)に、野田武則市長自ら地域紙の復活を打診。「市の広報誌を兼ねる」という形で、「復興釜石新聞」が創刊されることになりました。

 

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「復興釜石新聞」の発行を支えているのは、川向さんなど「岩手東海新聞」の元従業員を中心とする、総勢13名のスタッフ。釜石市内の民家の2階にある事務所は、編集用のパソコンやバックナンバーなどで、足の踏み場もないほどです。さらに、広い釜石市の全戸に届けるため、市の行政連絡員を含む計140名からなる配達網を敷いています。

 

川向さんは、「何とか週2回の発行に間に合わせている状況だが、週2回と少ないがゆえに読者がかえって紙面を隈なく読んでくれているようで、評判は上々だ」、「市の委託事業ということもあり、あくまで釜石市民への情報提供だけを考えているのだが、メディアなど外部からの問い合わせが後を絶たない」とお話しくださいました。

 

(Copyright 2013 Foreign Press Center/Japan)

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