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被災ペットを救え!福島で奔走する米国人女性の取組み(2012年8月24日)

投稿日 : 2012年08月24日

【ウォッチ・ジャパン・なう vol.33/FPCJ】

2012年8月24日

 

福島県猪苗代町にあるドッグ・ラン・カフェ「Club Lohas」。その一角で、東日本大震災で被災したペットのためのシェルターを営んでいるアメリカ人女性がいます。今号では、彼女の活動を中心に、福島県の被災ペットを巡る現状をご紹介します。

 

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2012年6月某日、NPO法人JAPAN CAT NETWORK(以下JCN)で代表を務めるスーザン・ロバーツさんは、ボランティアの仲間と共に、東京電力福島第一原子力発電所から北西に約25キロ離れた浪江町津島地区に入りました。昨年の原発事故で避難した住民からの依頼を受け、置き去りを余儀なくされたペット達に餌を与えるためです。 

 

ロバーツさんは、こうした計画的避難区域における給餌活動を定期的に行っているほか、飼い主不明の犬や猫を見つけた際には、猪苗代のシェルターで保護し、元の飼い主や里親探しを行っています。

(写真:ロバーツさん(右)。震災一周年に東京・お台場にてチャリティーイベントを行った。)

 

米ミシガン州から彦根、そして福島へ

米国ミシガン州出身のロバーツさんが来日したのは1993年。当初は滋賀県の彦根市で英語教師をしていましたが、沢山の野良猫が放置されている日本の現状に驚き、同市にJCNを設立。「野良猫による近隣への被害や不要な殺処分を減らすためには、適切な繁殖抑制が必要」との立場から、苦痛を与えない方法で野良猫を捕獲し(=Trap)、避妊・去勢手術をし(=Neuter)、元の場所に返す(=Return)という活動(TNRプロジェクト)を行ってきました。

 

そうした中、2011年3月11日に東日本大震災が発生。ロバーツさんは、22日には被災地に入り、動物シェルターや避難所にペット用の食料や物資を届けました。当時、原発事故のあった福島県に入ることに躊躇いはなかったとロバーツさんは言います。「正直なところ、(放射能の影響については)考えもしませんでした。避難者の中には、考えあぐねた末、ただペットを逃がしてくることしかできなかった人が多くいましたし、そうしたペット達を助けなければ、多くは餓死するか交通事故に遭ってしまうことは分かっていました。『早急に、できるだけ多くの動物たちを救う』、頭の中にあったのはそのことだけです。」

 

その後、ロバーツさんは、ボランティアによる救援チームを組織。偶然知り合ったClub Lohasのオーナーが施設の一角で被災動物を受け入れることを快諾してくれたことから、JCNの猪苗代シェルターがオープンすることになりました。

 

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(写真:「里親さん募集中」の猫たち。JCN猪苗代シェルターでは、必要なメディカル・チェックを受けた猫は、広いスペースを自由に動きまわれる環境で保護されています。)

 

ペット救済にも影を落とす原発事故

原発事故は、福島県における被災ペットの救済にも大きな影を落としました。福島県動物救護本部の担当者は、自由に出入りができない警戒区域の存在により「動物の保護に支障がある」と話します。ロバーツさんも、福島第一原発から20キロ圏内への立ち入りが禁止された2011年4月22日以降について、「失意の日々だった」と語ります。「警戒区域内へ入るための許可証の発行を自治体に求めましたが、どこの動物愛護団体も許可されませんでした。」

 

それでも、3カ月後の7月には、獣医師のグループとともにJCNを含めたごく一部の動物救護団体の一時立ち入りが認められ、さらに、厳冬期を迎える直前の12月には、複数の民間団体に、自治体の許可を得た上で警戒区域に立ち入ることが認められました。政府レベルでは、環境省および福島県が、昨年の5月に警戒区域内のペットの保護・回収を開始。春の繁殖期を控えた今年3月には、全国各地の自治体の支援も受けて一斉保護を行い、2012年7月末までに保護した動物の数は、犬428匹、猫322匹に上ります。

 

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(計画的避難区域にて。※写真提供JCN)注:「警戒区域」では、撮影機材を含め、ペットの保護に必要な器具機材以外の物品の持ち込みは禁じられています。

 

今後の課題は、猫の繁殖抑制とシェルターの長期維持

福島県動物救護本部によれば、「未だ警戒区域内で保護されていないペットは数百頭いる」と推定されています。特に、猫は繁殖のスピードが早く、同救護本部担当者は、繁殖抑制の検討も視野に、猫の適切な管理の必要性を訴えます。「警戒区域内に無許可で入る愛護団体があり、餌を与えています。動物愛護の観点からは賛同できるとしても、猫の増加が著しく、一部町村とのトラブルが生じています。」

 

こうした現状への対策として、ロバーツさんは、前述のTNR(捕獲の上、去勢・避妊手術をし、元の場所に返す活動)の有効性を強調します。「東京都の千代田区では、ボランティア団体が中心となってTNRの活動を進めた結果、公園に何百匹もいた猫はごく僅かな数まで減少しました。TNRは、もっとも効果的で人道的な方法なのです。」

 

ロバーツさんは、さらに、「避難区域でのTNRの早期実施が必要です。それにより、猫は徐々に、しかし確実に減らすことができます。ある地域で一度に沢山の猫を捕獲すると、残った猫が通常よりも多くの子どもを産んでしまうという研究結果もあります。もし、行政が対応を遅らせたり、猫を一気に捕獲しようとしたりするなら、状況は悪化するだけです」と警告します。

 

また、福島県では、シェルターの長期的な維持も大きな課題です。福島県動物救護本部によれば、「原発事故による被災のため、長期にわたるシェルター運営が必要となることが考えられる一方、ボランティアの数や寄付は震災当時と比べて減少している」のが現状で、同救護本部やJNCなどの民間団体は、ボランティア、寄付、里親の申し出等、長期的な支援を求めています。

 

人も動物も助ける

「なぜ『人』のニーズに応えることでなく、動物の救済に焦点をあてるのか」と質問されることが度々あると言うロバーツさん。彼女は、「人も動物も助ける」ことがJCNのモットーだと強調します。「『動物を救うことを通じて、人も助けている』と、はっきりと言いたい。自分たちのペットを探し出して欲しいと私達に頼む人たちは必死でしたし、泣きながら感謝されることもありました。被災した飼い主に代わり、家族であるペットの面倒をみること、それも『人』のニーズの一つなのだと思います。」

 

<関連リンク>

ジャパン・キャット・ネットワーク(JCN):http://japancatnet.com/ja/
問い合わせ全般:info@japancatnet.com
ボランティアに関する問い合わせ:volunteer@japancatnet.com
福島県動物救護本部:http://kyugo-honbu.fva.or.jp/

 

(Copyright 2012 Foreign Press Center/Japan)

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