スピリチュアル・ブームに新しい流れ – 震災後、生き方や社会を見つめ直す日本人(2011年10月14日)
投稿日 : 2011年10月14日
【ウォッチ・ジャパン・なう vol.8/FPCJ】
2011年10月14日
スピリチュアル・ブームに新しい流れ - 震災後、生き方や社会を見つめ直す日本人
東日本大震災から7か月。未曾有の大災害は、人々の心や価値観に大きな影響を与えました。日本人の多くが、生きることの意味、本当に大切なものは何かを探り、自分自身や社会を見つめ直しています。また人と人とのつながりである「絆」や、喪失や挫折から回復するための「癒し」が、より一層強く求められるようになりました。
人々が目に見えないスピリチュアルなものに頼ろうとする、いわゆる「スピリチュアル・ブーム」は、大震災前からの不安定な世相を背景に、メディアや観光業界もからんで、人々の中に広がりを見せてきました。伊勢神宮や出雲大社、高野山等は、いわゆる「パワースポット」と呼ばれ、若い女性を中心に、人々を惹きつけています。震災後、このブームにも変化が見られます。
●写真左:高野山(大塔と僧侶)
真言密教の祖で816年に「高野山」を開いた空海(弘法大師)の言葉が、注目を集めています。解説本は版を重ね、大手書店で特設コーナーが置かれるほどです。また、今年9月末まで東京国立博物館で開催されていた「空海と密教美術展」には、一時は入場制限が行われるほど、多くの人が集まりました。高野山真言宗総本山である金剛峯寺(こんごうぶじ) 宗務総長公室の薮邦彦課長は、「空海が説いた教えの中でも、『人は皆、仏としてこの世に生まれ、その人にしかできない仏としての働きが託されている。起こってしまったことはあるがままに受け入れよう』という考えが、今を生きる人々によって求められているのだと思います。」と述べています(読売新聞2011年8月9日)。
東京では2007年から、都心で気軽に世界遺産・ミシュラン三ツ星の高野山(和歌山県)を体験できる年一回の「高野山カフェ」というイベントが、高野山真言宗総本山金剛峯寺と南海電気鉄道(株)によって開催されています。今年は、9月1日から11日までの11日間にわたって丸の内で行われ、若い女性を中心に、約7,000人が来場しました。くしくも会期中最初の週末には、台風12号が紀伊半島を中心に甚大な被害をもたらしましたが、「高野山カフェ」には、昨年以上の関心が寄せられたようです。
南海電気鉄道(株)東京支社兼事業推進室の渡邊浩伸課長によると、「高野山カフェ」一番の人気は、美しい装束の高野山の僧侶指導による、写経体験と瞑想体験とのこと。写経とは精神修養の行(修行)で、尊い経典を心をこめて丁寧に書写することで仏様に願いを届け、仏様の功徳を頂きます。また自身の心身の健全化をはかり、悩みや苦しみを和らげることはもとより、まわりの人々にも幸せを巡らす、と説かれています。昨年も今年も連日数時間待ちの行列ができ、最終的な写経体験者は、昨年の1,600名を上回って2,000名を超えました。体験者の一人は、「書き終えた後は、爽快な気持ち。リフレッシュ効果に、驚いています」と語っていました。近代的なビルの一角で、毎夜11時まで、多くの人々が熱心に精神修養に励みました。 ●写真右:写経の様子
更に初日と最終日に行われた声明(しょうみょう)ライブは、それぞれ300名と500名が集まるほどの人気でした。声明とは、お経に旋律をつけて唱える仏教音楽です。写経指導の時とは異なる、鮮やかな刺繍が施された袈裟(正装)や美しい朱色の履物を身にまとった僧侶たちの姿を目にするだけでも圧巻ですが、ミラーボールが輝くフロアに迫力のある声が響き渡ると、都会の真ん中に非日常の幻想的かつ神々しい異空間が現れ、お言葉の意味は理解できないながらも、宗教を超越した聖なるパワーに包まれた心地になります。 ●写真左:声明ライブ
「高野山カフェ」について渡邊課長は、「昨年から会場を丸の内に移した結果、働く女性やビジネスマンをはじめ、交通の便がよいことから年配層も多く訪れるようになった」と述べています。スピリチュアル・ブームが、幅広い層に広がっていることが伺えます。また今後については、「今のところ高野山が開創1200年を迎える4年後の2015年までは、“敷居を低く、でも本物志向”のコンセプトのもと、新しい要素を取り入れながら続けたい」としています。
想定外の巨大地震、大津波、原発事故、そして台風被害を経験した後、日本人は自然に対する畏敬の念を思い起こし、一部の人々を犠牲にした大量エネルギー消費社会に、疑問を持つようになりました。そして自分自身や社会に向き合い、仏教の教え等を心の拠りどころとして、これからの生き方や社会の在り方を模索しています。スピリチュアル・ブームは、メディアや観光業界によって作り出された一過性のブームに終わらずに、教えを真摯に学ぼうという流れが出て来ているように見受けられます。
写真提供:南海電気鉄道(株)
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