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実施日 : 2023年10月30日

開催報告:2023年度第1回FPCJ国際ウェビナー

投稿日 : 2023年12月06日

生成AI時代のメディアの役割と読み手のリテラシー

~外国メディアの特派員と考える報道の未来~

(2023年10月30日、後援:外務省、日本経済新聞社)

 


 

1.本ウェビナーの開催目的及び参加者

米国OpenAI202211月にChatGPTを公開して以来、世界で様々なコンテンツを生み出すことができるAI(生成AI)の利用が急速に広がっています。日本では少子高齢化による深刻な人手不足を背景に、各業種で業務効率や生産性の向上が迫られる中、AIやロボティクスはすでに人間にとって不可欠な存在となっています。

 

本ウェビナーでは、モデレーターとして当センターの評議員でもある池上彰氏、パネリストとして欧米メディアの日本特派員、国内メディア関係者並びに有識者の方々にご登壇頂き、AIの技術革新がジャーナリストの仕事に与える影響や、今後求められる仕事について議論しました。さらに、情報の受け手である読者・視聴者はどのような心構えを持って報道に接したらよいか、ChatGPTのデモンストレーションもまじえながら議論しました。

 

本ウェビナーには国内外から230名の申し込みがあり、130名が参加視聴されました。

 




2.プログラム/各チャプター(上記動画)へのリンク

00:00:00

開会挨拶

00:04:20

第1セッション(冒頭発言、自由討議、総括)

00:52:40

第2セッション(自由討議、総括)

01:38:56

質疑応答

01:54:29

全体総括

02:03:00

閉会挨拶

 

3. 登壇者紹介

※開催案内、登壇者略歴はこちらからご覧いただけます。


【モデレーター】

池上 彰  名城大学教授、東京工業大学特命教授、フリージャーナリスト、FPCJ評議員

 

【パネリスト】

外国メディア:

 Tim Kelly ロイター通信東京支局 上級特派員

  Reed Stevenson ブルームバーグ東京支局 シニアエディター

日本メディア:

 生川 暁 日本経済新聞社AI量子エディター

有識者:

 林 香里 東京大学理事・副学長、大学院情報学環 教授

 

【司会】

兒玉和夫 FPCJ理事長

 

 

4. セッションのまとめ

(1)生成AIの利用は不可避であることを認めた上で、AIが決して代替しえないジャーナリスト(人間)が制作した記事の付加価値とは何であるかを見極めること、(2)メディアは、生成AIが作成したコンテンツかどうかを読者に明示すること(透明性の確保)、(3) 生成AIを使って制作される情報(特に映像)が偽情報として拡散される潜在的リスクは極めて大きいので、市民社会が健全に生成AIを使用できるよう、開発者(企業)の責任ある情報公開を確保すること(民主主義を守る意味)、(4)情報の受け手である読者は生成AIを利用して制作された情報を鵜呑みにするのではなく、そのリスクに踊らされないクリティカル・シンキングを身に着けること、などの重要性(論点)が明確になりました。

 

<第1セッション「メディアでのAI利用と留意点」>

 

生川氏は、自社(日本経済新聞社)の生成AIの活用状況について、ChatGPTに類するものをすでに導入しており、調べものやアイディア出しに活用していること、精度の点から生成AIが作成した記事をそのまま報道には使っておらず、データ分析のためのAI活用を試行錯誤していると説明しました。続いて生成AIの利用について、記事の品質を担保する観点から新聞社はAIの利用に慎重であるべきと考える一方、技術の進歩による恩恵を享受するために活用すべきと述べました。また、日本では人手不足が深刻なため、AIによる自動化で生産性を向上させるのは報道機関を含めて大切だと説明しつつ、他方、事件事故の現場に足を運び、人に話を聞いて記事を書くことは人間にしかできず、いま紛争が起きている地域に人間が直接赴き、争う双方の話を聞いた上で、人間(ジャーナリスト自身)が感じたことを伝えることに、ジャーナリストとしての価値があるのではないかと述べました。

 

ティム氏は、ロイター通信は設立以来新しい技術を導入してきた歴史があり、現在の生成AIの利用状況について、簡単な英語記事を日本語に翻訳する際に使用した際、人間による翻訳チェックを行わないこともあると紹介しました。同社では、記事作成にAIを使用した際は必ずその旨を記載し、読者に対して透明性を確保していると説明しました。そして、AIの活用は課題でもあり機会でもあると述べ、AIを文字起こしなどで活用できることは非常にありがたい一方、現時点では、調査報道に必要な「小さな出来事が大きな何かにつながっている」といった発想や信憑性の確認など、人間にしかできないものや、AIが持たない緊張感を人間は持って仕事をしていると指摘しました。

 

リード氏は、冒頭、ブルームバーグでは数年前からプレスリリースの要約や見出しの作成などに生成AIを活用していると説明しました。生成AIが確率を利用したシステムであることに起因する質の低さに懸念を示しつつも、文字起こしや文章の要約などツールとしては強力であり、今後は、AIが進化してフェイクニュースの作成者がAIであるかなど内容の真偽をチェックするツールとしての役割も期待できると述べました。そしてジャーナリストの大きな役割は、人間の脳の中にあるデジタル化されていない情報をインタビュー等で引き出し、取材を通して得た点と点をつなぎ、世の中に出ていない情報を報道することであると述べました。さらに、日本のメディアの人事異動のサイクルの速さに触れ、その関連性について正確には分からないとしながらも、任期が短いと記者が得られる情報は限定的になり、それが要因で、日本語で読める海外ニュースの量と質が低いのではないかと指摘しました。その解決のためにAIを積極的に活用し、海外メディアのニュースを日本語にすることも考えては如何かと提案しました。

 

林氏は、生成AIは様々な人手の代替になりうるため、ジャーナリストのプロフェッショナリズムとは何か具体的に考える必要があること、私企業が開発しているChatGPTの技術を政府、企業、学校など様々な機関が頼るようになると、それ自体が大きな権力を持つようになるため、生成AIの技術に詳しいジャーナリストを育てる必要性があると指摘しました。さらに、取材を通して聞いた声が反映された、人間の息吹が伝わるような報道に触れたいと述べました。そして生成AI時代のプロのジャーナリストに求められる仕事を実現するには、日本のメディアは数年での異動や、従来の校閲の体制の見直し、グローバルなネットワークの構築など構造から変えていく必要があるのではないかと指摘しました。

 

<第2セッション「AIはメディアをどう変えるか ~未来のメディアと報道~」>

生川氏は、インターネットの登場により「ニュースは無料で読める」という消費者にとってメリットとなる価値観が広まったが、コストをかけて現場に出向き、事実を検証し、適切な表現などに配慮して発信している報道機関にとって、(かかる取材活動への)対価が支払われないとその維持が難しいと述べました。さらに、健全な民主主義国家にとって質を保った報道は必要であり、さらに生成AI時代には画像や音声のフェイク情報も注意が必要であると指摘し、その利活用には技術の進化に関するリテラシーを身に着けることも重要であると付け加えました。

 

ティム氏は、人間は他者にインスパイアされて創作をすることはあっても盗作をしないという線引きができるが、他方、AIにとってそれは難しいのでないかと指摘しました。続いて報道機関は読者(視聴者)から信頼を得るため、自社の基準やルールに沿った報道をしていると説明した上で、読者(視聴者)に対して情報源が明らかでないSNS上のニュースを簡単に信じるのではなく、報道機関を信頼して欲しいと述べました。今日では誰もがSNSを通じて情報発信ができるためフェイクニュースを防ぐことは難しいが、信頼できる情報源をあたって欲しいと述べました。

リード氏は、ある媒体が所有する情報を基にしたChatGPTのようなシステムが今後も新たに開発されると予測しました。そして生成AIで記事を作成する際には、明確に情報の信頼性や制限を示すことが重要であると同時に、読者(視聴者)自身も一定の責任を持つべきだと考えると述べました。早い段階から、人々に情報の適切な入手方法や見極めるスキルセットを教育の一環として提供することを提案しました。

 

林氏は、著作権の保護・強化は情報へのアクセスを難しくし、公共の利用を妨げる可能性があること、また、情報は一つの権力であり、女性などマイノリティが情報発信者として不足することで、その存在が忘れられていると指摘しました。情報には意図や目的、そしてコストがかかることを認識するクリティカル・シンキングが必要であると指摘しました。最後に生成AIは公共財としての性格を持つため、国家や企業の富の格差を考慮して適切に利活用する必要があり、得られた知識や失敗を共有するプラットフォームの構築が望まれると述べました。

 

モデレーターである池上氏は、ChatGPT側が出典を明記することは著作権保護に関して一定の解になりうるのではないかと述べ、セッションを総括しました。

<質疑応答>

全体総括の前に参加者からの質問を受けました。一部を紹介すると、①人間がチェックした事実をAI に与えた場合、AI は記者と同等の質の記事を書けると思うか、②急速に進化する AI の外国語翻訳や教育能力は日本にとって非常に大きな価値を持つ可能性があることへの見方、③それによりもたらされる恩恵とは何か、などの質問が挙げられました。

 

<総括>

各登壇者は次のように発言し、ウェビナーを締めくくりました。

リード氏は、生成AIのような新しい技術やツールに期待しており、それを利用することによってジャーナリストの存在価値が明確になり、また仕事の効率が向上することが期待されると述べました。仕事の流れが改善されることで、読者や視聴者にとっても情報の入手、処理、理解がより効率的・効果的になるのではないかと期待感を示しました。

 

生川氏は、人類は高度な言語能力と文字により文明を築いてきたが、(人間以外に)これほどまでに言語を操る存在は生成AIが初めてであり、人間の役割や価値が再考される状況に直面していると述べました。報道機関やジャーナリズムもその影響を免れない中、その役割や存在意義が問われており、ジャーナリスト11人が今の時代において自らの役割を考え、生成AIとの共存を模索していく必要があると感じると締めくくりました。

 

ティム氏は、AIはツールであり、有益か有害かは使い方がポイントであること、そしてルールを決めることが非常に大切だと指摘しました。

 

林氏は、情報やデータが今後より一層権力と金に結びつく傾向が強まり、権力や金が情報やデータを支配する関係が強化されるのではないかとの懸念を示しました。さらに、新しいテクノロジーは私たちの意識にまで影響を与える可能性があることから、ジャーナリズムや教育などのプロフェッショナリズムが我々の人間性を取り戻していくところに希望を感じると述べました。今後はこの構造を保ち続けることが課題であり、(生成AIを活用した上での)失敗や間違いから得た教訓を、(社会全体で)共有することが重要であり、人間による日常の言語空間や、ジャーナリズムでいえば人の頭の中のものを引き出すという、オリジナリティが私達の希望になるのだろうと述べました。

 

池上氏は、阪神タイガースのファンにとってAIが書く阪神優勝記事と、熱烈なファンの記者が書いた記事には大きな違いがあり、人間ならではの感情や熱意が伝わる記事が重要だと感じると述べました。今後はプロのジャーナリストが持つ専門知識や洞察力が今まで以上に重要になり、ジャーナリストの道を選んだのなら、他に置き換えられないような存在とはどうあるべきなのかぜひ考えていただきたいと指摘しました。そしてGoogleのアルゴリズムや生成AIがブラックボックス化しており、その中で何が起きているかが理解しづらいため、専門の記者が必要であったり、生成AIによる新たな権力を監視する役割がますます重要になってくると総括しました。

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