首長による情報発信

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富岡市 岩井賢太郎市長 (2014年6月)

投稿日 : 2014年06月22日

掲載候補写真「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産に登録されました。製糸場のある群馬県富岡市の岩井賢太郎市長に、世界遺産の維持・発展のための今後の取り組み、またそれを生かした街づくりについて伺いました。(聞き手:FPCJ理事長 赤阪 清隆)

【写真1:岩井賢太郎市長】

 

 

  

 

~世界の宝をお預かりするということ~

 

-世界遺産登録に対する率直なお気持ちをお聞かせください。

東繭倉庫正面念願であった世界遺産登録は素直にうれしいです。そして、関係者への感謝の気持ちでいっぱいです。登録までの道のりを振り返ると感慨深いものがあります。まず、明治5年の創業から140年以上経った今でも、当時と変わらない状態で残っているというのはすごいことだと思います。片倉工業株式会社という会社が昭和62年3月に操業停止してから約20年もの間、細心の注意を払って管理をしてくださいました。そして、平成17年に富岡市へ譲っていただき、平成19年に世界遺産暫定リストに載せることができました。正式に世界遺産へ登録された今、世界の宝をお預かりするという責務に身が引き締まる思いもありますが、改めてありがたいことだと感じています。

【写真2:東繭倉庫正面(富岡製糸場による画像提供)】

 

-富岡製糸場の価値と魅力を最大限に引き出すための具体的な取り組みは。

文化庁の指導の下、今後30年にわたり約100億円をかけて保存修理する計画です。また7年前から有名大学の教授らをメンバーに含む、保存修理委員会を立ち上げて活動しています。日本における文化財保護手続きは非常に慎重で、時間がかかるところもありますが、保存修理の過程も見学できるようにするなど、建物の価値を伝えながら整備を進めていきたいです。また、来場者からは繰糸機が動いている姿が見たいという要望があるため、動態保存、動態展示も喫緊の課題です。繰糸機を動かすためには、繭の確保や人材の育成なども必要ですが、養蚕・製糸・絹織物まで、川上から川下までの蚕糸絹業システムを構築していきたいと思います。そして、産業遺産は解説が重要な役割を担います。より多くの来場者に対応できる体制を整え、さらに理解が深まるよう、ガイドの育成や、多言語音声ガイド機の導入等、解説方法の改善も進めていきます。

 フランス式繰糸器   自動繰糸機   9[1]

    【写真3:フランス式繰糸器】            【写真4:自動繰糸機】     【写真5:繰糸場内部(富岡製糸場による画像提供)】

 

~富岡シルクブランドを世界へ~

 

-今後世界との交流の輪をどのように広げていこうとお考えですか。

「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、生糸の大量生産を実現した「技術革新」と世界と日本との間の「技術交流」を主題とした絹産業遺産で、一部の特権階級のものであった絹を世界に広め、生活や文化を豊かにしました。この世界遺産としての価値を根底に置いた交流を進めていく必要があります。そこで、世界遺産登録を契機に、“富岡シルク”のブランド化を図り、世界中の人々に使ってもらうことが大切だと考えます。これまでも、フランス・リヨンの商工会議所で開催される絹取引(販売・展示)のイベントに参加し、富岡で作った繭を使用した製品である“富岡シルク”を富岡シルクブランド協議会として出展させてもらっています。

  リヨンシルクマーケット内部   リヨンシルクマーケット関連パーティ   リヨン市民と交流会

   【写真6:リヨンシルクマーケット内部】   【写真7:リヨンシルクマーケット関連パーティ】     【写真8:リヨン市民と交流会】

 

 

-富岡市にはフランス人の国際交流員が在籍されており、製糸場設立時にフランス人技師が貢献した縁から日仏交流が盛んなようですね。

ブリュナ一行はい。富岡市からもこれまでに2名の職員をそれぞれ2年間、地域の国際化のために幅広い役割を担う一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)のパリ事務所へ派遣しています。パリ事務所がフランスの自治体(コミューン)へ配る広報誌に、富岡市に関する記事を職員が執筆したほか、製糸場の建設指導者であったポール・ブリュナの出身地で講演なども行いました。

【写真9:ポール・ブリュナ一行】

 

リヨン絹織物装飾美術館館長と日仏関連の歴史的な研究も進んでおり、私自身も日本人の建築家と共に、かつて絹織物取引の中心地として栄え、現在は繊維の街であるリヨンを訪れ、1週間ほど滞在して建物の保存方法、修理の仕方を見せていただくなど、交流を深めています。今後は、シルクのみならず「食」という切り口からも交流ができないか、ということで市内にマルシェの開設を検討しています。富岡の住民が食を通じて日仏のマリアージュ商品を開発する「上州富岡フレン家(chi)」という活動も始まりました。また、商店の後継者の中には、世界遺産登録を契機に街の活性化や地域の振興のために何かしよう、という人もいます。市では、お店を直す場合、5年間に限り最大300万円の補助を出すという施策も行っており、世界遺産登録が具体化してから、申請数が増えました。市民の意識も少しずつですが、外に向いてきているように感じます。

【写真10:リヨン絹織物装飾美術館館長と共に】

 

-富岡の魅力をお聞かせください。

富岡市には、富岡製糸場の他にも、古くから文人墨客が訪れた日本三奇勝の妙義山や、全国有数の趣向を凝らした装飾の唐門を有する国指定重要文化財の妙義神社、千余年を経た古木に包まれ、参道を下ったところに社殿のある全国でも珍しい構造の国指定重要文化財の貫前神社(ぬきさきじんじゃ)など、歴史の重みが感じられるものがたくさんあります。こんにゃく製品の製造販売をする会社もあり、中には製糸場見学者に試食を提供するなど、観光客に人気を博しているところもあります。色々あると名物になりませんので、「富岡といえばこれ!」というものを作ろうと飲食店組合とも協力して模索している最中です。

      妙義神社      貫前神社

              【写真11:妙義神社】                       【写真12:貫前神社】

※写真は、富岡市および富岡製糸場にご提供いただきました。

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