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史上初の米朝首脳会談、実現へ――日本が取るべき姿勢とは?

投稿日 : 2018年04月03日

日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。

 

朝日新聞:米朝の対話 拙速戒めつつ前進を

産経新聞:米朝首脳会談へ 完全な非核化は譲れない 拉致被害者の即時解放を迫れ

日本経済新聞(日経):米朝のトップ会談で着実な非核化を促せ

毎日新聞:米朝首脳会談を開催へ 核放棄の確約こそ肝要だ

読売新聞:米朝首脳会談へ 非核化の真意見極めが先決だ

 

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談が5月末までに開かれる見通しとなった。訪米中の韓国特使が3月8日明らかにしたもので、全国紙は同10日付の社説で、米朝首脳会談実現を歓迎しながらも、北朝鮮の非核化が本当に実現するのか、圧力維持で連携してきた日米韓3カ国の足並みの乱れは生じないのか、日本はどう対応すべきかなど今後予想される課題について論評した。

 

■ 首脳会談に向けた各紙の評価

 

朝日は、米朝首脳会談が実現する見通しになったことについて、「朝鮮戦争以来続く敵対の歴史の節目」として「米朝が少しでも緊張をほぐし、和平へ向けて直接対話を進めるのは望ましい」と歓迎した。その上で、北朝鮮の非核化が最大の目標だとしながら、「北朝鮮が考える非核化の範囲や、どんな行程で実現するかなど肝心なことは何も見えていない」と交渉過程を慎重に見極めるように求めた。

 

毎日も、「北朝鮮核問題は大きな転換点を迎えた」として、「北朝鮮の非核化を確かに実現し、東アジアに平和と安定をもたらす会談になるよう期待したい」と歓迎した。

 

これに対し、読売(拡大版)は米朝首脳会談実現について、「北朝鮮が対話路線に出たのはトランプ政権が軍事的圧力と経済制裁の強化を継続しているからだろう」と評価し、「核保有を宣言し、日本や米国などを挑発してきた北朝鮮が、本当に非核化へ動くのか。その真意を見極め、核とミサイルを放棄させる戦略と態勢をしっかり整えることが重要である」と強調した。

 

産経(拡大版)も、北朝鮮の方針転換について「(北朝鮮が)非核化に触れるようになった。日米など国際社会が制裁などの圧力を科してきた成果にほかならない」と主張し、今後の展開については「楽観するのは禁物である。米朝首脳会談に成果は約束されていない。不首尾に終わった場合、危機がより高まるかもしれない」と釘を刺した。

 

日経も、「会うからには、北朝鮮の着実な非核化を促す協議にしてもらいたい」と注文を付けるとともに、韓国特使の説明だけでは北朝鮮の非核化や核開発・ミサイル発射実験の凍結の約束について「具体的な道筋は全くみえない」と指摘した。その上で、「歴史的な米朝首脳会談が実現すれば朝鮮半島情勢が一気に緊張緩和に向かうような印象だが、やはり油断は禁物だ」と慎重に見極めるべきであると強調した。

 

■ 米トランプ政権の交渉態勢への懸念と日本の立場

 

読売は、トランプ政権が「最大限の圧力」の継続を表明したことを当然視しながら、「米政府で駐韓大使や北朝鮮担当特別代表などのポストが空席のままなのは気がかりだ。米朝協議の経験者も乏しい」と指摘し、米政府に対北朝鮮交渉態勢の整備と長期戦略構築に向けた陣容を早急に固めるよう求めた。日本の役割についても、安倍晋三首相が4月に訪米し、日米首脳会談で北朝鮮の動向に関する「最新の情報と交渉戦略の共有」が不可欠であると強調した。特に、「北朝鮮が米本土に到達する核ミサイルの開発を放棄しても、日本を射程内に収める中距離弾道ミサイルの脅威は残る」として、「米韓両国に拙速な交渉と妥協を戒め、冷静な対処を促すのが日本の重要な役割だ」と主張。日米韓3カ国の多層的な協議によって〝足並みの乱れ″を回避することが不可欠だと指摘した。

毎日も、米政権内で「北朝鮮対応の人事さえ固まっていない。いきなりのトップ交渉というプロセスには疑問と不安を禁じ得ない」と懸念を表明するとともに、トランプ大統領が米朝首脳会談に前向きである点は評価しながらも、「自らの交渉能力を過信するのは禁物」と注文を付けた。当面の日本の対応については、米朝首脳会談で日本に不利益な合意が交わされないように今後1カ月余りは米国との緊密な意見調整が不可欠だと指摘した。

 

産経も、安倍首相がトランプ大統領との電話協議で「北朝鮮が具体的行動をとるまで最大限の圧力をかける」という双方の立場を確認したことを歓迎し、「完全な非核化が実現するまで維持すべきものである」とするとともに、日本人拉致被害者問題は最重要課題であり、この解決がないままに「制裁解除などに日本が応じることはできない」と主張した。

 

日経も、米政権に対し北朝鮮の真意を冷静に見極め、「今度こそ着実で不可逆な核放棄を金委員長に促していく必要がある」と主張。米側に、日米韓3カ国の連携と制裁圧力の継続を改めて促すとともに、拉致問題の早期解決への協力も求めるべきだとした。

 

朝日も、米政権が「いまだに包括的な朝鮮半島政策を練る態勢ができていない。国務省の東アジア担当官も、北朝鮮政策の実務専門官もそろっていない。その異常な状態を解消するのが必須条件である」と指摘した。しかし、日本の対応については、米韓と比べ「北朝鮮の対話攻勢に懐疑的な姿勢を崩していない」と分析し、「圧力一辺倒で突き放すだけでは、北朝鮮と米韓が直接向き合う今の情勢に対応できない。米韓の対北交渉に日本も当事者意識をもって積極関与する柔軟さが求められている」と強調した。

 

写真: AP/アフロ

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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