高速増殖炉「もんじゅ」廃炉へ
投稿日 : 2016年10月04日
朝日:無責任体制と決別を
産経:「シンもんじゅ」を目指せ 核燃料サイクルは国の生命線だ
日経:もんじゅ抜きの核燃料サイクルの展望示せ
毎日:サイクルの破綻認めよ
読売:核燃料サイクルを揺るがすな
写真:ロイター/アフロ
政府は9月21日の原子力関係閣僚会議で、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉を含めた抜本見直しを行い、年内に結論を出すことを決めた。もんじゅは、原子力政策の根幹である「核燃料リサイクル政策」の柱で、使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出し再利用する中核施設。しかし事故や不手際が相次ぎ、1968年の建設計画から半世紀で「廃炉」になる見通しだ。
■ 「廃炉」を当然視
全国紙5紙の社説では、産経が18日付、朝日、読売が22日付、毎日が23日付、日経が24日付でこの問題について論じた。
朝日は、もんじゅの廃炉について「遅すぎたが、当然の決断だ」と評価した。その理由について、1995年のナトリウム事故以来20年間ほとんど稼働していないこと、事業費は総額で1兆円に達し、年間200億円もの維持費によって“延命”されてきたが成果は出ていないことを挙げ、「ずるずると事業が続く無責任体制と決別しなければならない」と強く主張した。
朝日はまた、閣僚会議が核燃料サイクル政策を堅持し、新たな高速炉の開発に向けた会議の新設を決定したことについて、「もんじゅの二の舞いになる危うさをはらむ。広く国民が納得できる原子力行政をめざすべきだ」として、核燃料サイクル政策全体の見直しを求めた。
最も厳しい論調だったのは毎日で、「廃炉は当然だ」とするとともに、「決断を先送りしてきた政府の責任も、厳しく問われなければならない」と指摘した。また、政府が核燃料サイクル政策と高速炉の研究開発を維持する方針を示したことについて、青森県六ヶ所村に建設中の核燃料再処理工場が相次ぐトラブルで完成時期の延長を繰り返している事例を挙げ、「政府はもんじゅ廃炉を機に、核燃料サイクル政策の幕引きに踏み切るべきだ」と論じた。
■ 核燃料サイクル政策は堅持
産経はもんじゅは税金の浪費になるとして、「廃炉を視野に入れた検討が進むのは当然だ。遅きに失したといえる」と、政府の姿勢を厳しく批判するも、核燃料サイクル政策の継続を主張した。
読売も、「核燃料サイクルは日本の原子力政策の要だ。頓挫させてはならない」と強調し、もんじゅについても「新たな高速炉開発により、その歩みが確かになることが、もんじゅを廃炉にするための条件だろう」と、廃炉はあくまでも同政策の堅持を担保するものでなければならないとの立場を鮮明にした。
日経は、もんじゅ延命の「見直しは当然」として、「核燃料サイクルの意義や実現性、コストなどについても改めて点検するときだ」と求めた。特に、核燃料サイクルを堅持するには、目的意義や実用化の時期と経済性の見通しの説明、官民の役割分担や人材育成などの計画提示が必要としながら、現実的には「プルトニウムをウランとともに通常の原発で燃やすプルサーマル計画の着実な推進が不可欠になる」との認識を示した。
■ 仏共同研究と日米原子力協定の見通し
今後の原子力政策の進め方については、フランスが建設中の新型高速炉計画「ASTRID」との共同研究、日米原子力協定との関係の2点から論じられた。
産経は仏新型高速炉計画について「共同開発も選択肢の一つ」としたが、読売はフランスの計画について「まだ基本的な設計段階であり、実現性には不明な点もが多い」として慎重な姿勢をみせ、毎日も「順調に進む保証はない」とした。
一方、2年後に協定更新が迫っている「日米原子力協定」(1988年発効)について、産経は、米国がもんじゅ廃炉を核燃料サイクルからの撤退準備と受け止めれば、「日本の原子力政策の将来は根底から揺らぐ。廃炉だけが前面に出がちな議論は、極めて無防備で稚拙である」と安全保障面からの配慮を求めた。
読売も、日本が取り出したプルトニウムは現在約48トンに上ると指摘、「核兵器に転用可能なプルトニウムの保有量が減らないと、国際社会の視線は厳しくなろう」とするともに「高速炉を実現する能力がないと判断されれば、協定維持は難しい」との認識を示した。
毎日は、政府部内に将来の核保有の選択肢として同協定継続を求める声があることについて、「日本が核保有を選択すれば、世界から孤立する。現実的議論ではない」と批判した。
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