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台湾危機の行方と日本の備え

投稿日 : 2022年10月26日

 台湾海峡が緊迫の度合いを深めている。8月上旬、米国のナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問を受けて中国が大規模な軍事演習に踏み切ったことから、日本のメディアは、台湾への中国の武力行使の可能性が深刻に懸念される事態となったと報じた。

 

また、10月16日から22日にかけて開催された中国共産党第20回大会で国家主席として異例の三期目入りが決まった習近平国家主席が、同大会において、最大の誠意と努力を尽くして平和的な台湾統一の未来を実現しようとしていると述べる一方、決して武力行使を放棄せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残すとも述べ、台湾統一のためには武力行使も辞さないという強固な姿勢を示したことについても注目が集まり、多くの日本メディアによって報じられた。

 

台湾海峡における危機をめぐる問題についての昨今の論壇の議論を(1)台湾統一のシナリオと台湾防衛、(2)日本の役割と危機への備え、という2点に整理し、考察する

 

 

1.台湾統一のシナリオと台湾防衛

 

議論の前提として、ペロシ米下院議長の訪台以降続いている台湾海峡周辺における緊張はすでに常態化しており、さらに中国が今後も軍事演習を定期的に繰り返すという可能性も否定できないことから、もはや「これまでの現状」は失われ、「新常態」と呼ぶべき事態となっているとの共通見解が示されている。そのうえで、中国が台湾に侵攻するリスクについては、目下のところ、2020年代後半や2030年代にもありうるという見方と、武力による統一の可能性を最後の手段として残しつつも、習近平国家主席は可能な限り平和的な統一を目指すとの見方が併存している。

  

松田康博東京大学教授は、「むしろ中国は時間をかけて大軍拡を進め、米国が内向きになる瞬間を待ってその介入を抑止し、戦わずして台湾を屈服させようとするだろう」とし、自らが「強制的平和統一」と呼ぶそのシナリオを「真に警戒し、抑止すべき」と主張する。(『外交』9・10月号、「ペロシ訪台で顕在化した台湾海峡のリスク」)。

 

他方、台湾の国家政策研究基金会・掲仲(けいちゅう)副研究員は、「2030年から2035年にかけて」が「中国が速戦即決で台湾侵攻を遂行する能力が整えられる時期」だとし、「米軍は最終的には軍事介入する」とみる。(『文藝春秋』11月号、「台湾危機「自衛隊は一緒に戦って」)。

 

米国の台湾に対する防衛方針は、1979年の台湾関係法に基づく「戦略的あいまいさ」を特徴としてきたが、最近に至りバイデン米大統領が、たびたび台湾防衛について踏み込んだ発言を行っていることに加えて、米国内には、有事における米軍の介入につき「戦略的明瞭さ」に舵を切るべきとの議論もある。このような中、米上院外交委員会は914日、台湾への軍事支援の強化と、中国が台湾に対し敵対行為に出た場合の対中制裁を盛り込んだ台湾政策法案を可決した。

 

米国のバイデン政権における政策の意図について、国際政治学者のジョセフ・ナイ氏は、「アメリカが軍事的に介入する可能性を残すことで中国の台湾進攻を抑止しながら、アメリカが介入しない可能性を残すことで台湾の法的な独立も抑止」する「二重の抑止」だと説明する(『Voice11月号、「米国が中台に効かせる二重の抑止」)。

 

 

2.日本の役割と危機への備え

 

日本政府は、台湾をめぐる問題は中台間の直接の話し合いを通じての平和的な解決を期待するとの公の立場を変えてはいない。しかし、8月上旬の中国の大規模な軍事演習では5発の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)に落下しており、台湾有事は日本有事につながるとの危機感が広がっている。このため、日本の防衛力強化や台湾への後方支援、また在留邦人を含む国民保護などの危機対応を事前に遅滞なく準備しておくべきとの議論が多い。

 

秋田浩之日本経済新聞コメンテーターは、「日本は(台湾海峡の)現状維持を望む立場をより鮮明にする。そのうえで、台湾統一のシナリオにも備えることが肝心」だと明言する(『Voice11月号、「『台湾消滅』が招く現秩序の瓦解」)。墓田桂成蹊大学教授も、「日本が果たすべき役割は、日台の良好な関係を維持し、第三国も交えてこの関係を多国間でも発展させることに尽きるだろう」と主張する(『Voice11月号、「インド太平洋と台湾―許されざる戦略の空白」)。松田康博東京大学教授は、「中国に『強制的平和統一』を先延ばしさせるためには、台湾、米国、日本などが、中国に武力行使の高いリスクとコストを強いる必要がある」と述べる。

 

台湾有事の際の国民保護・邦人保護につき、佐藤正久参議院議員(前自民党外交部会長)は、「日米両政府と台湾政府との間で、この件に関する事前調整はどうしても必要だ」と強調し、この年末に改定される「戦略3文書」の焦点となるとみる(108日付nippon.comインタビュー記事)。



※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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