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今月の雑誌から:新しい資本主義が目指すもの

投稿日 : 2022年01月28日

 岸田首相が提唱する「新しい資本主義」に、日本のメディアが注目している。岸田首相も「何を目指しているのか、明確にしてほしいといったご意見を少なからずいただく」と、『文藝春秋』2月号に緊急寄稿を載せた。先月の関連記事とともに紹介する。

 

なお、新聞紙上でも資本主義をめぐる議論が展開されているが、110日付「日本経済新聞」社説は、国家の介入を重んじる「大きな政府」には弊害も多く、「国家の賢い支出と市場の機能を活かす規制改革などを組み合わせながら、成長と分配の二兎を追うのが望ましい」とし、岸田政権には市場と国家の均衡がとれた資本主義を目指し、強権的な権威主義体制とは一線を画してほしいと注文をつけている。

 

 

■<緊急寄稿>「私が目指す『新しい資本主義』のグランドデザイン」岸田文雄 内閣総理大臣(『文藝春秋』 2月号)

 

岸田首相は、資本主義は、市場を通じた効率的な資源配分と、公害など市場の失敗がもたらす外部不経済との微妙なバランスを常に修正することで進化し、長く世界経済の成長の原動力となってきたと説明。他方で、市場や競争に任せれば全てがうまくいくとの新自由主義の考えは、グローバル化が進むに伴い、格差や貧困の拡大、気候変動問題、危機に対するサプライチェーンやインフラの強靭性(レジリアンス)の喪失など顕著な弊害ももたらしたと指摘する。

 

岸田氏は、市場や競争任せにせず外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から資本主義に埋め込み、分断や格差を乗り越える資本主義を日本が実現し、世界をリードしたいと意気込む。それができる理由として、世界に誇るべき協働・絆を重んじる文化と伝統があるとし、明治・大正期の実業家・渋沢栄一の「道徳経済合一説」や江戸時代の近江商人の経営理念である「三方よし」を紹介。企業は株主だけでなく、従業員や顧客・取引先、地域社会など多様な利害関係者の利益を考慮すべきとする、マルチステークホルダーの考え方だと言う。

 

岸田氏は、「モノから人へ」を第一の、「官民連携」による成長戦略を第二の、「地方」を第三のキーワードとし、それぞれ次の施策を打ち出している。①人的資本への投資の抜本的強化に、3年間で4千億円規模の施策パッケージを創設、②今後5年間の研究開発投資目標を、政府全体で約30兆円、官民総額で約120兆円とし、世界最高水準の研究能力を持つ大学形成のため、10兆円規模の大学ファンドを本年度内に運用開始、③デジタル技術を活用して地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現するため、デジタル基盤を公共インフラとして整備し、遠隔教育・医療やICTオフィスなどの取り組みを応援する。岸田氏は、これからグランドデザインを深めていき、2023年の日本でのG7サミット開催を見据えて、今夏には工程表を明示したうえで実行計画を策定する方針だとの決意を示している。

 

 

■「新しい資本主義と渋沢栄一」渋澤健 コモンズ投信取締役会長(『文藝春秋』新年特別号)

 

渋澤氏は、明治・大正期の実業家、渋沢栄一の玄孫で、岸田首相が設立した「新しい資本主義実現会議」の有識者メンバーでもある。渋澤氏が考える「新しい資本主義」とは、人的資本の向上を目指しており、成長して得た利益を広く分配し、それをさらなる成長につなげるという好循環を、社会全体で維持することだと説明する。

 

同氏は、現在の日本は新しい成功モデルを構築すべき時代だからこそ、混沌とした幕末・明治を生き抜いた渋沢栄一の理念が注目されているのではないかとし、経営哲学がつまった渋沢の著作「論語と算盤」は、道徳と経済活動の合致を説くもので、新しい資本主義を考えるうえでも示唆に富むと指摘する。また、企業は利益追求だけではなく社会的責任を果たすべしとの栄一の考えは、皆が豊かになること(インクルージョン(包摂性)」も含むとしつつ、「富の平均的分配は空想」と明言した栄一が追い求めたのは「結果平等」ではなく、「機会平等」であったと言う。

 

渋澤氏は、成長と分配の好循環を生み出すため日本に求められているのは、「グリーン関連技術の研究開発への投資」、「グローバルヘルス(国際的な公衆衛生)」、そして「人的資本の向上」であり、渋沢栄一のように、自分たちの手で社会を変革しようという情熱が必要と力説している。

 

 

■「アベノミクスをアップデートせよ」岩田規久男 前日本銀行副総裁 / 学習院大学名誉教授(『Voice1月号)

 

岩田氏は、アベノミクスで失業率の大幅な低下(2012年の4.3%から2019年の2.4%へ)や実質賃金の上昇、趨勢的な正規社員の減少に歯止めがかかるなど、雇用の改善があったと評価する。また、中小企業の利益率上昇、所得格差の縮小をデータで示しつつ、日本の等価可処分所得(ジニ係数)が、2009年の0.283から2019年には0.274まで低下し、G7で最も平等な国となったとしている。

 

他方、岩田氏は、2%の物価安定目標が達成されていないのは、1995年からほぼ19年間デフレだったため、人々の間にデフレ予想が強固に定着したからと説明する。金融超緩和政策を採用しても緊縮財政政策を採ったためデフレ脱却が阻害され、賃金上昇に不可欠な労働生産性引き上げに必須の第3の矢(成長戦略)がまったく飛ばなかったことも問題だった、と指摘する。

 

岩田氏は、岸田政権の日本経済強化にアベノミクスの「3本の矢」は重要な政策であり、それらを正確に飛ばしたうえで、第4の矢としての「所得再分配政策」があると見る。また規制改革より成長投資に重点が置かれているが、成長産業を支援した昭和期の政策に成功例はほとんどなかったと注意喚起している。

 

賃上げ政策については、デフレ脱却と雇用需要の拡大で人手不足経済をつくり出す一方で、競争を維持して企業自体が労働生産性の向上に努めるような環境づくりが正当な政策である、と岩田氏は力説する。基本的手段は規制改革であり、また所得再分配政策の個人も対象にすべきで、中小企業に対する保護や補助金支給は、その新陳代謝を遅らせ、補助金が無駄になる可能性が高いと警鐘を鳴らしている。  

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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