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今月の雑誌から:岸田新政権の課題

投稿日 : 2021年11月25日

10月4日に岸田文雄新政権が誕生し、同月31日の総選挙を経て、岸田新内閣の内政・外交面の課題が浮き彫りになってきた。岸田首相は「新自由主義からの脱却」「新しい資本主義の実現」や「成長と分配の好循環」、「国民との車座対話」といった「岸田カラー」を打ち出しており、『Voice』11月号が「どうなる!岸田新内閣」と総力特集を組んでいるほか、ほかの月刊誌も政権が抱える課題についての記事を掲載している。「聞く力」を自分の持ち味とし、就任以来、国民との対話を重ねている首相が、それをどのような政策につなげるのかが注目されている。

 

 

 

「岸田総理に『聞く力』を聞く」阿川佐和子 作家・エッセイスト(『文藝春秋』12月号)

 

大ベストセラー「聞く力」の著者である阿川氏に、いつから「自分の持ち味は聞く力」というようになったのかを尋ねられた岸田氏は、昨年の総裁選前から持論としてあったとし、政治家は聞く方ではなくしゃべる方で競い合うが、自分は国民の声をしっかり聞いて議論したいと述べた。また岸田氏は、記者会見の質疑応答でほとんどメモを見ずに答えるのは、対話の雰囲気が出た方が真剣勝負の感じが出ていいと思うからだと語る。

 

岸田氏は、日本長期信用銀行勤務時に取引先の倒産や夜逃げなども担当し、世の中には理不尽なことがたくさんあると実感し、また小学生時代には父親の転勤先ニューヨークで人種差別を受けたことなどから、政治の世界で理想社会実現のために人生を賭けてみようと思ったと語る。

 

成長戦略について岸田氏は、アベノミクスは経済成長面で大きな成果を挙げたが、その恩恵が所得の低い人にまでゆきわたらなかったので、低所得層や中間層への分配にも目配りし、民間企業の給与引き上げ、賃上げ税制の抜本強化、看護師や介護士などの収入改善に取り組み、消費を拡大することで次の成長につなげたいと言う。また、グリーン、人工知能、量子、バイオなど先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行い、日本発のイノベーションで国際競争をリードし、成長につなげていきたいとの抱負を語る。

 

 

「『新しい資本主義』の鍵はデジタル化、シェアリング化だ」竹中治堅 政策研究大学院大学教授(『中央公論』12月号)

 

竹中氏は、岸田首相の課題として、外交・安全保障面では日米同盟の強化と「自由で開かれたインド・太平洋」構想の推進が予想されるが、そのほかの分野では、(1)新型コロナウイルス感染症対策、(2)成長策としての経済のデジタル化、シェアリング化促進のための規制緩和などの改革、(3)与党との政策調整、の三点を挙げた。

 

経済面では、岸田首相が「新しい資本主義」と「成長と分配の好循環」の実現を目指していることから、成長政策として(1)科学技術立国、(2)デジタル田園都市国家構想、(3)経済安全保障を柱とし、分配政策については、(1)企業経営の改革、(2)中間層の拡大、(3)看護師、保育士などの公的賃金の引き上げを図ると竹中氏は予測する。また、岸田政権は、担当相を設けたことから、経済安全保障を重視すると見る。首相は同分野での国家戦略の策定や推進法案の準備を打ち出しており、国家が重要な産業や技術開発を主導する産業政策復活のねらいが読み取れるという。

 

コロナ対策について竹中氏は、第6波への対応が課題となるとし、3回目のワクチン接種を急ぎ、感染拡大時は先手を打ち移動制限に踏み切る必要があると指摘する。またコロナ禍で即効性が期待できる経済政策はデジタル化とシェアリング化を促す政策の推進であり、ライドシェアの全面解禁、民泊やオンライン診療などでの規制緩和の必要性を強調する。

 

竹中氏は、岸田首相がコロナ対策を効果的に進めながら、経済政策でも成果を上げ、来夏の参議院議員選挙で与党を勝利に導けば、2025年の参院選まで国政選挙がないということも考えられるとし、長期政権が視野に入ってくると展望している。

 

 

「台湾危機という外交試練への覚悟」山内昌之 東京大学名誉教授/ 武蔵野大学特任教授(『Voice12月号)

 

岸田政権の外交面の最大課題として、山内氏は中国問題を挙げる。同盟国アメリカが、アフガニスタン撤退以降も中東問題に足を引っ張られる可能性が高く、それゆえに危機感を間近で抱いている日本が、主体的な責任意識で危険・危機の緩和に努力してしかるべきと主張する。中国は、その触手を台湾にまで伸ばそうとしているが、「香港人の人権をあれほど乱暴に扱った中国が、台湾に寛大な姿勢を示すとは到底思えないというのが常識」と言う。

 

また山内氏は、地政学的かつ経済的、心情的にも重要な地域である台湾をめぐって日本は外交的試練に直面しているため、岸田首相は直々に音頭を取るつもりなのではないかと推測する。首相の背後には所属母体・宏池会の伝統的な中国人脈とともに、安倍元首相や麻生副総裁といった対中強硬派も存在し、持続的なバランスの取れた大局観外交がとれると見る。

 

岸田首相の所信表明演説は新自由主義からの脱却が注目を集めたが、山内氏は、新中間大衆を社会の核に取り戻す姿勢に共鳴するという。 現在の日本は、安定的終身雇用制度の破壊と非正規雇用推進政策などのため中間層が減り、両極分解しているとの問題意識から、岸田首相は新自由主義からの脱却や「成長と分配」を掲げているのではないかと見る。しかし首相が 「成長と分配」を掲げても、人々が問題を政府の責任にするのではなく、自分の義務に真摯に取り組むことが市民社会の強化と国力増大につながるのであり、アフガニスタンの崩壊が兵士の国家への忠誠心と市民の職務への責任感の欠如からもたらされたという教訓を日本人も重く受け止めるべきである、と締めくくっている。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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