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今月の雑誌から:コロナ禍からの出口戦略

投稿日 : 2021年10月26日

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言は9月末をもって解除され、その後感染者数も急激に減少を続けている。このような状況を反映して、月刊誌11月号の多くは、コロナ禍からの出口戦略を論じる記事を掲載している。コロナ感染の新たな波への備えとしては、ワクチンの義務化、医療制度の改革などが、また社会経済活動の再開については、ワクチンパスポートの発行、行動制限を緩和する指針などが、主な議論の的となっている。

 

なお、今月の記事の中で刮目(かつもく)すべき記事は、矢野康治財務事務次官の「財務次官、モノ申すこのままでは国家財政は破綻する」(『文藝春秋』11月号)であろう。最近のバラマキ合戦のような政策論議に憤慨し、このままでは国家財政の破綻を避けられないという気骨ある進言だ。その中で矢野氏は、コロナ対策として一時的に財政収支の悪化が生じることはやむを得ないとしても、コロナ禍が終わっても赤字拡大を続けるようでは日本国債の格付けに影響が生じかねないと警告。さらに、コロナ対策の窮余策としての一時的な消費税の引き下げにも、強い反対の意見を展開している。

 

 

■「コロナ出口戦略を急げ!」 新浪剛史 サントリーホールディングス社長、武藤真祐 祐ホームクリニック理事長(『文藝春秋』11月号)

 

新浪氏は、日本における目下の課題は感染防止と経済活動をいかに両立させるかであり、閉店や倒産の相次ぐ飲食業界の惨状を目の当たりにして、すぐさま飲食や旅行などの制限を大幅に緩和し、経済を回す必要があると強調する。行動制限の緩和にあたり、行政はルールや基準を決めるだけでなく、それらが順守されるよう指導すべきとして、抜き打ち検査を実施している山梨県の「やまなしグリーン・ゾーン認証」を好例として挙げた。

 

これに対し武藤氏は、制限緩和にあたっては、デルタ株の毒性や感染力の強さに十分注意する必要があること、ワクチン証明書の偽造や証明書を持たない人への差別などの問題が起きる可能性にも留意すべきとクギをさす。ワクチン接種の義務化は難しく、海外のように一定規模以上の企業や、警察官、消防士など特定の職業にだけ義務化するなど、リスク・ベネフィットを考えて個別に進めるほうが現実的と述べる。ワクチンパスポートを厳密に運用するならば、出入国前にPCR検査もし、抗体量も測定するべきと主張する。

 

出口戦略を考える上では、「オンライン診療」も積極的に進めていくべきとする新浪氏に対し、武藤氏は、その有用性は認めつつも、患者数などの把握、医療従事者の確保、治療薬の供給などが十分整っていない状況下でオンライン診療だけを進めても機能しないと指摘。通常診療との両立の問題や診療報酬などの課題を解決し、既存の医療体制にうまく組みこむことで、初めてオンライン診療の価値も最大限に生かせると言う。

 

新浪氏は、今後の出口戦略として、家計の貯蓄約20兆円と、昨年度の政府予算繰り越し30兆円余りの合計約50兆円を経済効果が表れるように使うこと、社会保障改革に取り組むことの2点を提案した。武藤氏は、出口戦略で重要なのは、コロナを感染症として改めてどう捉えていくかだと言う。今後は感染者数ではなく、いかに重症者を救う体制を作れるかにシフトしていくとし、ワクチンを接種して重症化しない仕組みをきちんと作れば、インフルエンザよりも被害を抑え込めると示唆するデータがあり、こうしたデータに基づいた議論もしていくべきと語る。

 

 

■「菅政権がコロナに敗北した理由」 尾身茂 新型コロナウイルス感染症対策分科会会長(『中央公論』11月号)

 

尾身氏は、分科会では、毎日、感染症のデータを見て、科学的、客観的に現状を評価し、信じるところを政府に提案してきたが、政府はその提案のほとんどを受け入れてくれたものの、どうしても譲ることのできない「硬い」ところがあり、それが国の景気対策「Go Toキャンペーン」と「東京五輪」だったと明かす。東京五輪について、政府が開催したい理由について説明責任を十分に果たさなかったことが、菅首相を退陣に追い込んだと思うと語る。


分科会は、93日に出口戦略を出し、同月8日に緊急事態解除の考え方を示したが、元来は逆の順序で提言を出すことを考えていたと尾身氏は語る。緊急事態宣言中に出口戦略が示されると、誤ったメッセージが国民に伝わるのではないかと心配していたからだという。しかし、政府には、緊急事態宣言下でも規制を緩めたいという思いがあって、その点では、分科会は政府と少し考え方が違っており、政府は出口戦略について前のめりであったと述べる。分科会は、出口戦略については、緊急事態宣言解除後の感染対策と社会経済活動を両立させるため、接種証明か陰性の検査結果により行動制限を緩和する「ワクチン・検査パッケージ」を提案し、制限が緩和される行動の例として、入院患者や施設入所者らとの面会、県境を越える旅行や出張、大規模イベント、大学での対面授業などを挙げた。


尾身氏は、出口戦略を分科会がまとめるにあたって、政府に「行動制限を緩和し、社会経済活動を再開するのは11月以降、緊急事態宣言を解除して落ち着いていることが条件で、そこだけはまちがわないようにしてください」と伝えたと言う。

 

 

■「ワクチン義務化は政府の責務」 黒木登志夫東京大学名誉教授(『Voice11月号)

 

黒木氏は、インフルエンザのように、外来で簡単に診断でき、ワクチンがあり、飲み薬の特効薬ができたときにコロナと共存できるであろうが、その実現までには早くてもあと23年はかかるであろうし、ワクチンは、その有効性に照らし、毎年打つようになろうと見る。

 

同氏は、ワクチン接種がなければ、感染、医療圧迫、緊急事態宣言を繰り返すことになるので、医学的事情で接種できない人を除き、ワクチン接種を全員に義務化することに明確に賛成であるとの立場をとる。既往症や体質的な理由でワクチン接種ができない人には、カクテル療法などのワクチン以外の方法や、週に一度のPCR検査を義務付けるなどの措置を講じるべきと主張する。


ワクチンパスポートは、ワクチンが行き渡った20221月の時点から発行すべきで、これが日本経済を回復させる決め手になるはずと語る。さらに、新総理には、ワクチンの義務化とワクチンパスポートの発行に加えて、医療制度の改革、そして情報発信方法の見直しに尽力願いたいと同氏は言う。医療体制については、急性期の患者に対応する病院を作り、パンデミックや、水害・震災といった自然災害の際に対応できる施設を各都道府県で持っておくこと、また情報発信については、総理自ら、ワクチンの効果と安全性をデータをもとに説明し、ワクチン接種を国民に熱意をもって訴えてもらいたいと熱っぽく語っている。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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