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今月の雑誌から:中国という難問、日本はどう向き合うか

投稿日 : 2021年07月30日


本年7月1日、中国共産党は創立100周年を迎えた。月刊誌『文藝春秋』8月号は、「世界は14億人「強権帝国」に吞み込まれるのか 中国共産党の『野望と病理』」と題する総力特集を組み、9本の記事を掲載している。また、月刊誌『Voice』8月号も、「中国という大難題ー中国共産党100年、『異質の大国』はどこへ向かうのか」と題して総力特集を組み、8本の記事を掲載している。こうした多数の記事の中から、日本の対中政策を論じた4本の記事を紹介する。 

 

 


■「日本の国益のためベストを尽くす」垂秀夫 駐中華人民共和国特命全権大使インタビュー(『Voice』8月号)

 

垂氏は冒頭、日中関係は、日本にとって安全保障、経済関係上もっとも重要な二国間関係の一つであり、感情的な要素を排して、よりドライで「普通の関係」を構築すべきと力説する。「隣国である以上、日中間にはさまざまな懸念や立場の違いがあることも正常なこと」であり、「互いに『引っ越し』できない関係にあるからには、自国の国益に基づいて主張すべきは主張しながらも、協力できるところは積極的に協力する。こうして安定的で建設的な関係を構築する以外に選択肢はありません」と言いきる。

 

同氏は当面の最重要課題として「邦人保護」と中国に進出する「日系企業支援」を挙げ、「日本の技術や製品のすばらしさや地方の魅力が伝わり、日本という国そのものをプロモートできれば」と抱負を語る。着任してまだ半年であり、成果が出るのはこれからだという。

 

尖閣諸島をめぐる問題については、「中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは断じて受け入れられず、引き続き毅然とした態度で、かつ冷静に対応していきたい」とした。また、新疆ウイグル自治区の人権状況への深刻な懸念を示しつつ、香港における一連の出来事が、「民主的・安定的発展の基礎となる言論の自由や報道の自由にもたらす影響を心配」しているとし、いずれも引き続き国際社会と緊密に連携して、中国側に働きかける意向を表明した。また、「台湾問題に対する日本の立場は1972年の日中国交正常化以降、一貫しており、日中共同声明に示された立場に今も変わりはありません」と明言した。

 

垂氏は、日中が積極的に協力していくべき分野として環境や気候変動問題を挙げ、国際社会がめざす目標達成に、ともに取り組みたいと述べた。中国でも大きな課題の少子高齢化については、医療技術や介護サービスなどで日本に一日の長があり、中国も高い関心を示しているとし、「がんをはじめとする慢性疾患の治療技術や優れた医薬品・医療機器、そして高齢者の在宅生活を支える介護用品など、日本の医療関係者や企業の知見や経験が中国でも活かされていくことを強く期待します。そのほかでも知的財産保護や食品、観光など日中両国が協力できることはたくさんあり、日本大使として大いに後押ししていきます」と、締めくくった。 



■「徹底討論:習近平と「ウイグル大虐殺」阿古智子 東京大学教授、富坂聰 ジャーナリスト・拓殖大学教授(『文藝春秋』8月号)

 

阿古氏は、6月のG7サミットが、新疆ウイグル自治区や香港における人権問題に加え、台湾にも言及した首脳宣言を採択し中国を強くけん制したのは評価すべきとし、いまや一国だけで対抗するのが難しい中国に対し、G7や日米豪印戦略対話「クアッド」のような国際的枠組みを充実させていくべきと主張する。これに対し富坂氏は、アメリカのバイデン米大統領はしきりに中国への危機感を煽っているが、各国の間で温度差があり、インドや韓国のように民主主義国家の中から「反中クラブ」を抜け出そうとする動きが相次いていると述べ、いま日本に求められているのは、中国に対する姿勢をあいまいにしながらも、「気がついたら得をしていた」という状況をいかに作り出すかであると反論する。これに対し、阿古氏は、あいまい姿勢によって、中国はウイグルや香港に専制主義的な傾向を強めてきたとし、日本は中国に対してしっかりと声を上げていくべきと応酬する。

 

富坂氏は、ウイグルの人権問題について確実な情報はなく、不正確な情報をもとにした中国批判には日本は慎重たるべきで、いたずらに中国を批判して刺激することは国益につながらないと主張する。これに対し阿古氏は、日本が制裁を科すべきとまでは思わないが、ウイグル問題に限らず香港についても、譲れない価値については政府としてしっかり表明していくべきであると述べる。そして、いま批判の声を上げなければ、人権問題だけでなく、政治や経済を含めて、世界が中国の価値観に支配されてしまうと反論する。これに対し富坂氏は、ウイグルと香港は中国の内政問題であり、内政不干渉の原則を侵すリスクをきちんと計算しなくてはならないと応じる。

 

富坂氏は、いま武力衝突の可能性が現実に高まっているのは台湾であり、もし台湾が決定的に離れていく気配がある場合、中国が何もしないことはありえないと述べ、アメリカが日本に求めている中距離ミサイルの配備は、日本も否応なく戦争に巻き込まれるリスクを伴うとし、日本は台湾には慎重な対応を取るべきと強調する。これに対し阿古氏は、台湾はG7共同宣言でも言及されており、極東における民主主義国家の砦とも言え、しっかり守っていくべきと反論する。

 

富坂氏は、中国だけでなく特定の国との決定的な対立は避けるべきで、揺れ動く国際情勢の中で、利益と損失を計算し、巧みに判断しなければ他国に利用され、次の世代に大きな負の遺産を押しつけてしまうと懸念する。阿古氏も、次の世代に負の遺産を残すべきではないとの点には同意した。

 

 

■「『グラデーション型』安保に向き合え」神保謙 慶應義塾大学総合政策学部教授 (『Voice』8月号)

 

神保氏は、バイデン米新政権の対中政策は、隙のない戦略的競争で、トランプ前政権で形成された対中競争政策を引き継ぎ、さらに人権問題に対する厳しい姿勢を加えてより強硬になったと見る。また、この戦略的競争路線は、同盟国・友好国との連携を重視することによって、さらに広域に展開しているとする。

 

同氏は、グローバルなパワーバランスの変化を牽引してるのが中国の台頭であると述べ、中国の台頭の規模と速度が、米国と日本及びその周辺国では段階的に異なることを指摘し、これを「グラデーション型」のパワーバランスの変化と表現した。中国との国防費の比較において、2005年時点で、米国は中国の12倍と圧倒的優位、日本も103%で拮抗していたが、2030年には、米国は1.6倍、日本は12%となり、インド、韓国、ASEAN、オーストラリアも状況は悪化するとの予測を紹介している。このように、「米国と中国との『長期的な戦略的競争』は、こうした中長期にわたる米国の優位性に対する比較的緩慢なペースの挑戦として位置付けられている」が、「アジア諸国にとって中国とのパワーバランスの変化は、短期的かつ急速な変化として位置づけられなければならない」と同氏は主張する。特に日中関係のパワーバランスは、25年間で1対1が1対10まで変化するスケールとして捉えなければならないと断言している。

 

同氏は、仮に同盟国が十分な国防予算を確保せずに米国への依存を強めることとなれば、米国民の同盟国に対する不満は増大するが、この点はバイデン政権でも変わらないと予想。日米同盟については、「米側の視点では日本がどれほどの自律的な責任を果たしているかが重視される。とりわけ尖閣諸島を中心とする離島防衛や、東シナ海および南西諸島の防衛体制を抜本的に強化することは必須」であり、「日本国内で十分に議論が成熟していない「敵基地攻撃能力」も、いまや中国との戦略的競争のなかで考えるべき時がきている」と主張する。

 

他方、日本を含む多くの米国の同盟国にとっては、中国は最大の貿易相手国であり、対中投資の集積もあるとし、「米国が『安全保障の価値は経済を上回る』という戦略性を掲げたとしても、中国経済からの切り離し(デカップリング)への支持は限定的なものにとどまらざるを得ない」と同氏は見る。米中が共存できない領域を増やせば、「米中二兎を追う」同盟国の選択肢は制約される。「日本が推進する経済安全保障は、日本独自の戦略的競争の概念を前提としなければならないだろう」と結論づけている。

 

 

■「凄惨な弾圧を招く『外』への負の感情」平野聡 東京大学大学院法学政治学研究科教授(『Voice』8月号)

 

平野氏は、今日の中国の物質的「発展」一辺倒のとりわけ深刻な弊害として、少数民族、宗教信仰、香港(潜在的には台湾)をめぐる問題を挙げる。「いまや、中国が経済発展して外界といっそう結びつけば結びつくほど、中国の内部においては、価値観を異にして『外』とつながる人々を過剰に警戒し、凄惨な弾圧が起こりやすくなった」と指摘する。そして、中国は、新疆、チベット、南モンゴルの人々に中国の主流社会への順応を強く迫り、異論は徹底的に排除する方針がとられている、とする。

 

同氏は、少数民族や非主流派への抑圧の根本的な背景には、中国ナショナリズムの「外」に対する負の感情があり、19世紀半ば以降列強によって塗炭の苦しみを余儀なくされたとの認識が抜きがたく存在する限り、外国や外来の事物への疑心暗鬼は決して晴れないと見る。そのうえで、中国で真の調和と和解を実現するためには、この弱肉強食型ナショナリズムが、真摯な対話により克服される必要がある、と主張する。

 

中国現代史に「抵抗のナショナリズム」を見出し美化してきた日本の思想状況自体が、日本にとって致命的な誤りの繰り返しであった、と平野氏は言う。欧米に対するコンプレックスや社会主義的「進歩」への憧れ、過去への痛烈な反省などから、中国の「抵抗」と「発展」に協力することをもって、自らの道徳的優位を確認し、利益を得るのが日本の「親中で」あった。しかし、中国ナショナリズムの内に潜む残酷さが克服されない限り、逆にそのような思い入れは中共の暴力に手を貸し、日本への圧迫という禍を招くばかりではないかと問う。

 

いまはグローバリズムの時代であり、中国が協力を求めてきても、「アジアだから」という理由で中共に配慮する時代ではない。日本は、中国が開かれた社会に変わるまでは幻想を抱かず、自身の問題を解決して魅力を高め、自由な価値観を共有する国々との連帯を広めるべきである、と同氏は締めくくっている。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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