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今月の雑誌から:分断から結束へ、対立から協調への課題に挑むバイデン新政権

投稿日 : 2021年01月27日

 

 厳戒態勢下の首都ワシントンで、1月20日、民主主義の勝利を掲げて国民に結束を呼びかけ、ジョー・バイデン氏が第46代米国大統領に就任した。バイデン新大統領は、即座に温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰に署名し、国際協調を再生する姿勢を示した。トランプからバイデンへの政権移行で何が変わり、何が変わらないのか、日本はどう対応するのか。主要月刊誌2021年1月号及び2月号から、ポピュリズムの挑戦を受ける民主主義や米中対立で不安定化する国際社会の今後についての識者の分析と見解を紹介する。

 

 

■「『トランプ時代』から教訓を探る トライバリズムを民主主義は克服できるか」(『中央公論』1月号)で、渡辺靖慶應義塾大学教授は、今回の選挙で7300万票を獲得、得票率を47.2%に上昇させたトランプ大統領の強さを「最も印象的」だと述べ、米社会から疎外された政治に無関心な人々を、政治の回路に参加させたことで「民主主義の健全さを体現した」としながらも、コロナ対策でのマスク着用やBLM運動を巡る二大政党の対立が「米国の分断」の象徴となり、それが民主主義の象徴である選挙によって助長されるという逆説を「第三世界のようだ」と嘆く。分断の背景の一つには、ポピュリズムの台頭による党内主流派への不信の増大と求心力の低下があり、これは大統領一人代わっただけで解消できる問題ではないとみる。

 

さらに、渡辺氏は、米民主主義のモデルである啓蒙理念を否定し暴動や暴力で社会秩序の破壊を唱える過激な団体の動きに着目し、これを二極・分極化を超える政治的な「トライバリズム(部族主義)の状態に近い」と分析する。そして、トライバリズム克服のカギは米民主主義の原動力である自由な選挙や市場にこそあり、多様化する米国の人口構成において、社会正義に敏感なミレニアル世代が有権者、消費者として台頭し、政党や企業にとって無視できない存在となる楽観的シナリオと共に、AI・ロボット等の普及による生産性向上が格差拡大を招き、失望した人々が現状破壊を掲げる「救世主」を求める悲観的シナリオを提示している。

 

 

■「ポスト・トランプ状況と国際協調の行方」(『世界』1月号)で、古城佳子青山学院大学国際政治経済学部教授は、2008年の世界金融危機以降、国際自由主義秩序の三つの価値である自由主義開放経済、民主主義、多国間主義を揺るがすような「懐疑」、すなわち、①格差拡大によるグローバル経済への不信、②民主国における自国中心・排外主義的傾向の増加、③多国間の枠組みの非効率性や意見対立、が顕在化したことから、社会の分断を煽り、自国第一・排外主義、多国間枠組みからの離脱を主張するトランプ政権が有権者の支持を得たと分析する。この点を踏まえてバイデン新政権における変化について考察するが、外交では民主国の連携による共通課題への対応=多国間主義の重視を打ち出す一方で、国内世論も含めて自由主義開放経済ルールの遵守を求める強硬な対中姿勢は変わらないと見る。

 

米国が多国間協調を主導して実効性をあげるには、コロナ抑制策、経済再生、分断修復など国内優先課題で実績をあげて支持を獲得できるかどうかにかかっていると述べつつ、日本が国際協調の安定に貢献するには、第一に、格差や財政赤字の拡大、低成長経済が続く状況で、日本は自由主義開放経済の中でどのような社会をめざすのか議論を深めること、第二に、多国間枠踏みのルール作りに主導的に関わり、米中対立に翻弄されず、「共通の利益」を共有できる国家間での合意を形成し、国際協調につなげていくことだと提言する。



■ 日本経済新聞コメンテーター秋田浩之氏は、「対中劣勢を挽回する準大国の役割」(『Voice』 1月号)の中で、コロナ危機によって決定的な亀裂が生じた米中関係について、米国がハイテクや海洋をめぐる中国の行動だけでなく、共産党の統治体制そのものへの不信感を強めていることから、バイデン政権下で対立はむしろ深まると予想する。また、国内の分裂や格差ゆえ米国が世界への指導力を取り戻すにはかなりの年数がかかり、覇権の行方を左右する軍事とデジタルの勢力圏争いで米国は中国に敗れつつあると指摘する。日本は、自身の防衛力と日米同盟の大幅な強化に加え、「自由で開かれたインド太平洋」構想を土台に、日米豪印にベトナム、インドネシア、フランス、イギリスなども加えた安全保障協力網の構築に注力すべきと説く。さらに、デジタル覇権のカギを握る海底ケーブルのパラオへの敷設をめぐる日米豪、シンガポールとの連携を成功例に挙げ、「現状秩序を保つためには、準大国の役割がより大切になる」と結んでいる。



■「『まだら状』の米中対立に揺れる世界」(『Voice』2月号)で、川島真東京大学大学院総合文化研究科教授は、コロナ禍で激化し、関税から軍民両用の先端技術、民主や自由など価値を巡る問題へと拡大した米中対立は、全面的ではなく選択的で、争点が時間軸に即して変化し多様であり「まだら状」だと考察する。トランプ政権は貿易問題に拘泥したが、バイデン新政権は気候変動問題などで中国との協力を図る面があると指摘する。他方、中国は、習近平主席が提案する「衝突せず、対抗せず、相互に尊重しあって、協力してウィンウィンである新型大国関係」を米新政権との間で維持できるのか、そして「核心的利益」である台湾、チベット、新疆などの主権に関わる領域が尊重されるのかを重視している、と分析する。米国にとって民主や自由などの価値を巡る問題が、中国には核心的利益への挑戦と映る点に着目する。

 

また、米中がそれぞれ他国に働きかけて多数派工作をすれば、多くの国が米中によるデカップリング(離間)に悩まされるかもしれないが、各国別のスタンスや観点は異なり、単純に世界が二分されるわけではないと述べる。米国の同盟国でありながら、隣国中国と経済的結びつきの強い日本は、安全保障面で米国側に立つのは大原則だが、中国との経済関係も踏まえて、是々非々で対応すべきであり、他国と連携して米中対立の過度な進行を防ぐと共に、自国の安全安定と発展を維持すべく米中とたゆまず「取引」していくことになろうと示唆する。

 


※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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