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今月の雑誌から:菅政権への提言

投稿日 : 2020年12月11日



本年9月に菅新政権が発足して3か月が経過した。安倍前政権の政策を継承するとしつつ、規制改革やデジタル庁の新設、地方経済の活性化など独自色も打ち出した菅首相。主要月刊誌12月号から、菅政権の経済・デジタル政策、少子化対策、官僚制度について、各界からの提言を紹介する。

 

 

 

「スガノミクスを占う 経済大論戦」と題する特集を組んだ『中央公論』は、その中で「需要喚起のアベノミクスから企業活性化のスガノミクスへ」と題し、新浪剛史サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長と伊藤元重学習院大学教授との対談を掲載している。


新浪氏は、「ウィズコロナ時代にできること、なすべきことはデジタルを中心とした生産性革命」であるとし、デジタルは、地方分散化の基盤となるインフラを「早期に」整備するための肝であり、民間投資や優秀な人材の移動を促すと主張する。また、同氏は最低賃金の引き上げが企業のDXを進めることになると述べる。

 

伊藤教授は、アベノミクスは需要喚起で有効だが、サプライサイドでは限界があったと指摘。サプライサイドで生産性を上げるのはデジタル技術であるとし、スガノミクスには、サプライサイドの技術革新を阻害しないよう規制改革も期待すると述べる。

 

 

『Voice』は、「菅政権、五つの課題」と題する特集の中で、菅政権の目玉政策の一つであるデジタル庁の設置について、高木聡一郎東京大学大学院情報学環准教授の「デジタル庁成功の鍵は「横断的主導力」にあり」と題する論文を掲載。高木准教授は、デジタル・トランスフォーメーションには政治的なリーダーシップが重要であり、菅首相がデジタル政策を最優先課題に掲げたことには大きな意義があると評価。その上で、デジタル庁が民間企業のように、顧客である国民へのタイムリーな情報提供や、各種申請・給付手続きの簡素化などによる、「顧客志向のサービスへの転換が求められている」と指摘する。

 

「無形の資源を守る有事の経済政策」と題する論文で飯田泰之明治大学准教授は、コロナ危機の特徴は、大規模災害や過去の疫病とは異なり、「(一)業界により、または個々の企業によって深刻さが大きく異なる、(二)物理的な資産の毀損を伴わない、(三)需要減少ショックである」と指摘する。そして、このような中、経済政策として一律給付を行っていくには限界があり、必要な企業に必要な額を供給するという体制を作るために期待されるのは、返済の優先順位が低く、倒産時の支払い順序が後回しにされる「資本性ローン」であると主張する。

 

 

『文藝春秋』は、2人の企業経営者、古森重隆富士フイルムHD会長と南場智子DeNA会長へのインタビュー「どうする日本のデジタルトランスフォーメーション」を掲載。


古森会長は、「コロナ後の世界」の条件の一つは世界で感染症に対する予防ワクチンや治療薬を準備すること、もう一つは、今後同様のパンデミックが発生した時に備えて、今回の対応を反省し、対応マニュアルを作ることだと述べる。また、菅首相には、コロナ対策、地球温暖化対策、少子高齢化対策など喫緊の課題を先送りしない、結果に拘る政治を期待すると述べる。

 

また、南場会長は、日本経済を活性化させる肝は、「人材の流動化」による多様性の促進と、「スタートアップ企業の質と量を格段に拡大すること」だと指摘。そして、政府は、徹底した規制改革により、イノベ―ジョンの力を最大限に引き出すべきだと述べる。

 

 

少子化問題について、山田昌弘中央大学文学部教授は、上記『Voice』特集の中の「欧米モデルの少子化対策から脱却せよ」で、日本の少子化のロジックは、若者は、「自分たちの親よりも生活水準が落ちるリスクがあるような結婚、出産はしようとしない」ことだと分析する。その上で、菅政権が不妊治療の健康保険適応、結婚後の住宅入居支援などを打ち出したことを評価しつつも、コロナ禍で浮き彫りとなった将来不安を解消するための「思い切った、かつ若者に対してインパクトのある政策プラン」として、男女交際の活性化への支援や奨学金返済の半額免除、第二子以降の大学授業料無償化、子育て世帯には最低保証収入を設定し政府が不足分を出すことなどを提案している。

 

 

■ さらに、上記『Voice』特集は、菅政権の政策実現を担う官僚の制度について、飯尾潤政策研究大学院大学教授の「調整型官僚から政策立案型官僚へ」と題する論文を掲載。飯尾教授は、安倍内閣は官邸官僚主導の側面が強く、政治家が国民と対話しながら政策の大枠を決め、官僚が具体的な政策に落とし込み、有効な政策を展開するという、政治主導が目指した姿ではなかったと指摘する。政治家と官僚の関係において達成すべき3つの規範のうち「統制」以外の「分離」と「協働」の実現が大きな課題であり、官僚の政治的中立性や独立性を保障する新たな制度的措置の構築が必要だと述べる。また、新型コロナ対応が、新たな政策の実施能力の低さを露呈したとし、政策実施過程を適切に管理できる官僚が求められていると論じている。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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