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安倍「歴代最長政権」の秘密

投稿日 : 2019年11月29日

安倍晋三首相は、2019年11月20日、憲政史上最長の在任記録を打ち立てた。通算在職日数が2,887日で約8年に及び、佐藤栄作、伊藤博文、吉田茂などの長期政権を超えたばかりか、過去の最長期政権だった桂太郎を抜いた。

 

なぜこれほどまでの長期政権が可能となったのか、主要月刊誌12月号及び同日付新聞各紙社説は、その要因の解説を試みると同時に、自民党総裁としてあと2年の任期を残す安倍首相の今後の課題を分析している。

 

 

 

『文藝春秋』、安倍「最長政権」の秘密:失敗が私を育てた(安倍晋三、聞き手:田﨑史郎 政治ジャーナリスト)

 

安倍首相は、「2012年12月に第2次政権が発足した時に国民の皆さんが求めていたのは政治の安定だったと思う。やるべきことをやるのは当然ですが、政権を安定させるために、日々緊張しながら、全力を尽くし、今日まで来ました」と述べ、経済最優先の政治に取り組んだこと、TPP11、日EU経済連携協定、日米貿易協定など締結、平和安全法制などを実績として挙げた。

 

第一次政権では、特に人事について様々な批判を受けたことから、第二次政権では、麻生副総理と菅官房長官、二階自民党幹事長などを礎石に、人事を大事にしたと強調する。第一次政権の1年間とその後の5年間は激しい批判を受けまさに臥薪嘗胆の時期だったが、「それは故なき批判ではなかった。しかし、失敗の経験から学ぶことは、次のチャレンジにとても有効です」と、前政権の失敗が現政権では大いに役に立っていると述懐している。

 

なぜトランプ大統領とゴルフを重ねるのかとの問いに、「ゴルフは相手の性格を知ることができるスポーツ。トランプ大統領とはゴルフを通じて、本当に率直にモノが言える関係を築くことができた」と応じている。日朝関係については、すべての拉致被害者を取り返すことが使命であり、日露の領土問題も島民が元気なうちに解決したいとの意欲を語っている。

 

内政の政策課題としては、憲法改正について世間ではその具体的な中身を巡る議論は低調だが、「今こそ、自民党が世論を喚起する役割を果たすことで、そのムードを変えていくことができる」と意欲を示している。急速に進む少子高齢化に伴う社会保障改革が日本にとって最大のチャレンジであり、幼児教育・保育の無償化、来年4月からの高等教育の無償化など全世代型社会保障に取り組んでいると強調した。

 

 

『文藝春秋』、安倍政権は「桂園時代」に似ている(対談:御厨貴・東京大学名誉教授、片山杜秀・慶應義塾大学教授)

 

御厨氏は、歴代政権は、国民世論の”最大公約数”を探してその上に乗っかろうとしたために、その変わり目が政権の変わり目となり、2,3年に一度変わったが、安倍政権は、最大公約数を最初から求めていず、むしろ“右”を抱える前衛であり、リーダーシップの取り方が今までと違うと分析する。

 

同氏は、世論調査でも、安倍政権の主要な支持理由は、「前の民主党政権よりいい」とか「他に人がいないから」というもので、安倍首相を熱烈に支持しているわけではないとし、就職率も改善していて、若者の支持率が高いのも「今の政治が自分の生活を邪魔するようなものでなければいい」ということだろうと推測する。リスクを伴うことをやらないからこれだけ続いているという不思議さがあり、”右“をコントロールできる安倍首相の後継者がいないため、彼が辞めたら亀裂が生じるので辞められないと述べる。後継者が不在のまま、政権が長期に続いているのは、安倍首相自身が年齢的に若いということも大きいと付け加える。

 

片山氏は、安倍政権は、桂太郎(約8年)と西園寺公望(約4年)の「桂園時代」と似ていて面白いという。桂政権を支えたのが官僚で、西園寺政権を支えたのが政党(政友会)であったが、安倍政権は党と官僚を上手に手なずけていて、「桂園時代」を一人でやっている感じだと述べる。平成期の政治改革が建前として「二大政党による政権交代」を目指していたのに、今や影も形もなく、残ったのは、強力な「官邸主導」の長期政権だけだと指摘する。

 

 

 

新聞各紙も11月20日付社説で本件を取り上げ、安倍長期政権の実績を評価するとともに、今後の課題につきそれぞれ注文をつけている。

 

『読売新聞』、惰性を戒め政策で結果示せ


読売新聞の世論調査では、65%が安倍首相の仕事ぶりを評価しているが、これはアベノミクスにより景気を回復軌道に乗せたことや、安全保障関連法を成立させ日米同盟を強化したことなどの実績が国民の支持につながったのだろうと評している。

 

首相の自民党総裁としての任期は21年9月までだが、どのような政策を手掛けるのか考えを明確にし、戦略を立てて臨むことが重要と指摘する。内政の懸案として、社会保障制度の見直し、賃上げによる経済の好循環、外交面では、北朝鮮の非核化のための米国との緊密な政策協調、韓国との元徴用工問題を挙げた。憲法改正のためには、まずは、国会での憲法論議を活性化させることが大切だと論じている。

 

 

『日本経済新聞』、最長政権に恥じない改革の総仕上げを

「(安倍首相は)企業利益や雇用情勢の好転を追い風に安定政権を築き、国際社会で日本の存在感を高めた。一方で成長力底上げや財政健全化への取り組みは遅れており、首相は改革の実現に指導力を発揮すべきだ」と提唱している。アベノミクスで足元の企業収益や税収は回復したが、生産性向上や規制改革といった成長戦略はなお道半ばで、社会保障制度の抜本改革も腰が定まらないと懸念を表した。外交では、世界で自己中心主義的な動きが目立つ中で、自由で公正な貿易ルールを重視する姿勢を示した意味は大きいと評価し、懸案解決に向けて中国やロシア、北朝鮮と粘り強く交渉していく責任があり、韓国とも関係改善の道を探るべきだと主張している。

 

 

『朝日新聞』、『安定』より際立つ弊害

「これだけの長期政権に見合う歴史的な成果は心もとなく、年を追うごとに弊害の方が際立ってきた」と断じた。「確かに、アベノミクスの下で株高が進み、企業収益や雇用の改善につながった。しかし、賃金は伸び悩み、国民が広く恩恵を実感できる状況にはなっていない。また、安定した政治基盤を活かして、少子高齢化などの難問に、正面から切り込んできたとも言い難い」と論じた。残る2年の自民党総裁としての任期期間中に、個人的な信条から、長期政権のレガシーを、強引に憲法改正に求めるようなことがあれば、政治の混乱を招くだけだと警鐘を鳴らした。 



※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

 

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