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こじれた日韓関係の出口

投稿日 : 2019年11月13日

主要月刊誌2019年9月号では悪化の一途を辿る日韓関係が大きく取り上げられたが、いまだに関係修復の兆しは見られず、韓国内では日本製品の購入や日本旅行を避ける動きが続いている。9月時点の韓国での日本製乗用車の売り上げは前年同月比で60%減、同月の訪日韓国人は58%減の状況である。

 

主要月刊誌11月号は、『文藝春秋』が「日韓相克―終わりなき歴史戦の正体」、中央公論が「韓国という難問」、VOICEが「日米韓の断層」といったように、一斉に特集記事を掲載。こじれた日韓関係を修復するための出口を探す識者の対談や論調が目立っている。

 

 

■『中央公論』11月号、特集「韓国という難問」より

「日韓は1965年、98年の取り決めに立ち返れ」佐々江賢一郎 日本国際問題研究所理事長(聞き手:田原総一郎)

 

こじれた日韓関係を良好に戻すには、原点に立ち返るべきで、「日韓が国交を正常化した1965年、あるいはその後の98年、その時の取り決めを振り返るべき」、と佐々江氏は強調し、徴用工問題に解決が見いだされれば、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も輸出管理問題も解決はそんなに困難ではないと見る。韓国政府が原則的な取り決めを飲まないと、前には進まないので、まず韓国が1965年の国交正常化の立場に返ること、そして、日本においては、訴えた人たちの気持ちに何か添えることはないかと考えることはありうると指摘する。

 

さらに佐々江氏は、総理と大統領とで会談する機会もありうることも念頭に置きながら、日韓の事務レベル、閣僚レベル、政治家レベルで広く対話する必要があると主張する。国と国との良好な関係を築くうえで、個人的な体験や交流が大事であり、交流が弱まると疎遠になり、とげとげしくなっていくので、そうならないよう、日本は原則を踏み外さないようにしつつ、どうやって韓国に理解してもらいながら協力する関係にもっていくかが大きな課題だと結んでいる。

 

 

■『外交』(9/10月号)

「日韓関係の出口はどこにあるのか」西野純也 慶應義塾大学教授

 

西野教授は、冷戦後に地域パワーバランスが変化する中で、朝鮮半島の「脱冷戦」プロセスを進めることを最優先する文在寅政権の日韓関係に対する認識について、二つの見方が存在すると指摘する。一方には、ベトナム戦争などにより東アジア冷戦が激化した1965年に国交正常化した点に重きを置き、米国の要請があったために、「日韓和解」はなされずに不十分かつ不公平な形で関係が築かれたとする考えがある。他方で、確かに「1965年体制」は歴史問題も含め多くの課題を抱えたままスタートしたが、今日に至るまでの54年の歩みの中で紆余曲折を経ながらも発展してきたとの見方もある。教授は、「文在寅政権内にも両者がともに存在すると言えるが、現在の対日政策は前者の認識に支配されつつある」と見る。

 

西野教授は、もはや冷戦期の枠組みの延長線上で日韓関係を捉えることはできず、「21世紀に向けた新たなパートナーシップを交わした1998年の日韓共同宣言こそ、今日そして今後の日韓関係を考えるにあたり参照されるべきである」とし、その後の状況変化にかんがみて、同共同宣言の精神を継承しつつも、現状を踏まえた「新たな関係」をつくっていくことが、今後の日韓の進む道であると結論づけた。


■『文藝春秋』11月号、「特集:日韓相克 終わりなき“歴史戦”の正体」より

対決か協調か 【徹底討論】 橋下徹 元大阪市長・弁護士  ×  舛添要一 前東京都知事・国際政治学者

 

橋本氏は、元徴用工への補償問題について、本来は、被害を被った国民はすべて補償を受ける権利があるが、加害国が補償を行うのではなく、被害国が被害を受けた自国民に補償を行うのが原則であると指摘する。徴用工問題解決の糸口の一つは、日韓両政府がこの原理原則を実践していくことであり、両国で、「戦時被害についての一般補償法」を成立させ、過去に遡って自国民に対する補償をやっていくしかないという。これに対し、舛添氏は、補償法をつくるとなると関係省庁は大反対する、とその実現性に疑問を呈した。

 

舛添氏は、日韓両政府と訴えられている日本企業の三者からなる財団を設立し、そこの拠出金から賠償金を支払うというスキームを提案する。徴用工については、日本企業にも責任の一端があり、ジェスチャーとしてでもいいので企業はお金を出すべきで、韓国政府は、その企業に、賠償金と同額分だけ免税措置を与えるという方法もあると述べる。橋本氏は、同案は、いったんは日本企業が支払うが、税優遇で損害が出ない、結局は韓国政府が韓国国民に補償していることになるが、それを見えにくい形にするという知恵だと理解を示しつつも、そのような交渉をするにしても、日本国内の韓国企業の資産の差し押さえをやってプレッシャーをかける必要があると主張した。

 

両氏とも、徴用工問題を最終的に解決するには、国際司法裁判所(ICJ)に持ち込んで決着をつけるしかないと言明する。橋本氏は、ICJが「個人の請求権は消滅せず残っている」と認めるであろうと予想するが、自国政府が自国民に補償するという原理原則を徹底し、相手国側への請求は退けると判断する。両氏とも、ICJで元徴用工個人の請求権だけでも認められれば、日本の空気もガラッと変わるだろうと予測している。橋本氏は、国民全体で大前提の共有ができた後は前向きに話を進めていくことができると結んでいる。

 

 

■『Voice』11月号、総力特集「日米韓の断層」より

「韓国を『敵陣営』に回してよいのか」中西輝政 京都大学名誉教授

 

中西教授は、GSOMIAの破棄により東アジアの安保問題にまで発展した「「日韓の対立がここまで深まった」と危機感をあらわにした。韓国を一気に中・朝の側へと追いやって、在韓米軍という日本の安全保障にも不可欠な支柱を揺るがすことになるかもしれないリスクが浮上していると見る。

 

同教授は、韓国の言い分に対しては、反論すべきは断固かつ理路整然とはねつけるべきであるが、それでも、現在のように安保にまで繋がるような応酬への発展は何としても避けるべきだったと主張する。そして、対馬海峡を「38度線」にしないためにも、日本は、目先の利害や感情に支配されず、慎重のうえにも慎重に考え、日本の安全保障について、「自前」「自力」「自立」をキーワードとして、日本外交の再起を図るべきだと結んでいる。 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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