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岐路に立つ日本の科学技術力

投稿日 : 2019年10月08日

ノーベル賞がメデイアをにぎわす時期となった。これまで、自然科学分野(物理学賞、化学賞、生理学・医学賞)で、今世紀に入ってから2018年までに受賞した日本人は13人(米国籍の南部陽一郎氏、中村修二氏を除く)で、米国の56人に続いて堂々第2位。しかし、最近、日本の基礎研究分野での予算不足や人材減少、研究論文数の減少などについて懸念する声が高まっている。2019年版の科学技術白書は、「我が国の基礎研究に関する世界的な存在感の低下が懸念されており、我が国は大きな岐路に立たされている」と指摘している。

 


   『中央公論』10月号、特集「崖っぷちの科学立国」より


■「国は未知の新しい分野へ資金を投入せよ」本庶佑 京都大学高等研究院特別教授

 

2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶教授は、一国の科学技術力の重要な指標として研究論文数を挙げ、2004~06年は米国に次いで二位だった日本が、14~16年には、中国、ドイツに抜かれて四位に転落した最大の原因は、1990年代に政府が推進した「オープンイノベーション」(一組織ではなく複数の組織が連携し各々の技術やアイデアを融合して革新的なビジネスモデルや価値を生み出す施策)で大企業が基礎研究を行う中央研究所を閉鎖したため新しい論文が出てこなくなったことだと指摘。さらに、政府の研究費の配分先を短期間に成果が出る研究に絞っていることも問題とし、国が資金を投入すべきは、メドは立っていないが将来性がある早い段階の研究だと述べる。特に、世界的に注目されている研究論文は、国の科学技術力が顕著に表れる生命科学(ライフサイエンス)分野が圧倒的に多いにもかかわらず、日本は、科学技術予算の三分の一しか投資してこなかったため、「科学技術における地位の低下を招いた」と嘆く。

 

また、新しい治療薬や治療方法など日本のアカデミアには素晴らしいシーズが山のようにあるが、それを製品に開発するノウハウがほとんどない、同時に企業は人材が枯渇しており眠っているシーズを見つけることができないと指摘し、「アカデミアと企業とがウインウインの関係で共同研究をおこなうこと」が喫緊だと強調する。

 

本庶教授は、近年、大学院の博士課程への入学者が減少傾向にあることに触れ、若い人が研究者を目指そうと思えない現状も大きな問題であると指摘する。このため、同教授は、若手研究者をめぐる環境を改善すべく、昨年12月、京都大学に「本庶佑有志基金」を設立した。目標額は1千億で、現在、3億7千万円ほど集まっており、利息のみで年間40億円くらいを使えるようにしたいと言う。科学技術における日本の地位はここ20年の間に徐々に低下してきたと言われるが、「国民の資質が低下したとは思いません。能力がある人はいるのです。その人たちにやる気を出させる環境を整える必要があります」と結んでいる。

 


 「科学技術政策に不可欠なイノベーションの視点」上山隆大 内閣府総合科学技術・イノベーション会議常勤議員

 

上山氏は、「このまま何の対策もしなければ、5年も経たないうちに、我が国の学術研究は取り返しのつかない規模でその底が抜ける」と警告しつつ、日本は、国家の学術研究への投資や、大学と企業との共同研究、および民間からの寄付を拡大させながら、独自の科学技術投資の方法を作り出すことだと提言する。

 

加えて上山氏は、中国は、先端分野に巨額の国家予算を投入しており、その結果、AI、ロボテイックス、バイオインフォマティクス、次世代半導体などの、基礎研究とイノベーションが密接に融合した分野での論文数が急増しており、AI(人工知能)と画像処理の論文数では、すでに2008年に米国を凌駕していると指摘する。

 

そして、日本がなすべきことは、デジタル革命の変貌を見据えながら、今後生まれ出る新しい世界秩序形成に対してどのような貢献をなすのか、その国家戦略を独自の科学技術・イノベーション政策で語ることだとし、こうした貢献のために、日本の次世代の若者が、第5期科学技術基本計画が掲げた「Society 5.0」というコンセプトと、AI, IOT, ビッグデータなど、得意とする技術力を駆使して、新しい世界秩序と太平洋経済圏において中枢を担う気概を持ってほしいとのメッセージを伝えている。

 


「日本が世界をリードする4つの科学研究」サイエンスライター 大西光代

 

本稿は、研究論文の産出数とその被引用数などのデータ分析から、世界を牽引すると認められる日本の研究領域における以下の4つの研究内容を紹介している。

 

まず一つ目は、日本が基礎研究から応用研究まで幅広く大きな世界的シェアを持つ「スピントロニクス」は電子のもつ2つの性質、電荷とスピンを利用する研究分野で、特に東北大学に研究者が多く集まる。次に、日本がコアペーパでシェア約4割を占める、地震や津波など地球科学分野の研究領域では、きめ細かな観測網で監視して、すぐに地震を検知することで即時予測が早まった。さらに、腎機能障害を起こす可能性のあるカドミウムの玄米中の濃度を約半分に低下させることに成功した「新機能植物開発学」において日本はコアペーパのシェア約8割をもつ。最後に、人工関節や人工血管など、人体に直接接触する生体適合性に優れた材料である「バイオマテリアル(生体材料)」は、モノ作りを強みとする日本で世界に先駆けて研究が進む。

 

 

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■『東京新聞』2019年3月11日付け朝刊 「日本の研究力が低下している 東京工業大栄誉教授・大隅良典さんに聞く」

 

大隅教授は、昔は自由度が高くて今よりも研究がやりやすかったが、今は研究費の獲得などにきゅうきゅうとして有能な人が能力を発揮できずにいる、ものすごく短期間で費用対効果が問われ、みな疲弊している、と嘆く。その原因は、国からの研究交付金が減り、大学が貧しくなり、すべて競争的資金になって、外部の研究費を獲得することが必須になったからと指摘し「能力を磨いて挑戦しようという人が少なく、博士課程に進む人も激減しています。(中略)日本の将来を支えるには、どれほどの博士が必要かという科学的な見方が大切です。」と警鐘を鳴らしている。ノーベル賞受賞後に財団を作り、基礎科学を支援している大隅教授は、「基礎科学に力を入れれば、いろんな波及効果があります。(中略)すぐ役立つというのではなく、10年後、100年後に思いをはせる長期的な視野を研究者も企業も政府も持つべきでしょう」と訴える。

 


■『週刊ダイヤモンド』2018年12月8日号 「科学技術立国の危機 日本人はもうノーベル賞を獲れない」

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いてきたのは、1980~90年代までの研究環境による成果であって、その後の日本の科学技術政策を鑑みると、これから先はとても期待が持てない―。そう訴える研究者は多いとして、梶田隆章、大隅良典、江崎玲於奈氏など、ノーベル賞受賞者の苦言と警鐘を特集で報じた。

 


※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。


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