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「韓国」という難問

投稿日 : 2019年09月09日

この一年、日韓関係は悪化の一途をたどっており、改善する気配が見られない。慰安婦問題日韓合意への文在寅政権の否定的な対応、韓国大法院(最高裁)による日本企業に対する元徴用工への賠償命令判決(2018年10月)、韓国海軍駆逐艦から海上自衛隊のP-1哨戒機(厚木)への火器管制レーダー照射事件(同年12月)、日本の輸出管理上の優遇対象国リストからの韓国除外(2019年7月)、これに対抗した韓国による優遇対象国リストからの日本除外(同年9月)、韓国による日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄(2019年8月)と、立て続けに悪材料が積み重なり、韓国内での日本製品不買運動の動きや訪日観光客の減少も報じられている。

 

主要月刊誌9月号等は、この日韓関係を大きく取り上げ、その背景を探るとともに、日本がいかにこの問題に対峙すべきかを論じている。

 

 

■『文藝春秋』9月号、菅義偉 官房長官 × 小泉進次郎 衆院議員<初対談>令和の日本政治を語ろう 

 

菅氏は、慰安婦問題に関しては、日韓は2015年12月に最終的で不可逆的な解決で合意したはずだが、韓国側が合意を覆す可能性もゼロではなかったので、アメリカ政府に歓迎する声明を出してもらい、“証人”になってもらうことにしたとの裏話を紹介し、「日本と韓国、どちらがゴールポストを動かしているか、“証人“のアメリカもよくわかっているでしょう」と述べる。元徴用工の請求権の問題についても、1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みとの立場を堅持し、「国同士で約束したからには、裁判所などを含む全ての国家機関は順守しなければならないというのが国際法の大原則。韓国の歴代政府も解決済みの立場をとってきました。それを今になって「違う」と言っているわけですが、日本政府としては、国際法の原理原則で行くしかない」と強調した。

 

一方、小泉氏は、「政治というのは、感情と論理、どちらかだけで動かすのは無理なんです。外交も同じでしょう。国民感情もあるのだから、論理的な話だけでは済まされない。ただ難しいのは、感情的なアプローチはコントロールできないところまで行ってしまうことがあるという点。そうした中で、いかにして感情を理解しながら、論理を組み立て、国際世論を味方につけ、日本の利益を守っていくか」と応じている。

 

 

■『中央公論』9月号、「慰安婦問題」の轍を踏まない対応を 「韓国という難問」をいかに解くか(浅羽祐樹 同志社大学教授)

 

浅羽教授は、日本は韓国に対して「ともに合意を誠実に履行しよう」と呼びかけているのに、韓国は、合意の前提になった事情が根本的に変わり、そのまま合意を履行すると公正さに著しくもとる場合は、履行しなくても構わないという別の法原則を援用していると指摘。文大統領を含む韓国進歩派は、「より善い、正義に見合った合意」に変えるべしとする心情が強いと主張する。

 

浅羽教授は、慰安婦問題が日韓の歴史認識問題を超えて争点化したのは、「紛争下の女性の普遍的な人権問題」として理解されるようになったからだと指摘。また、世界のオーデイエンスの「心」に訴求するには、論理や証拠、エピソードを組み合わせていくことが重要だが、日本は、「手続き的公正さとしての正義を重視するあまり、サブスタンス(内実)としての正義の現状変革の潜在力を見誤る」ところがあると分析。そのうえで、過去の問題が法的に解決済みならなおさら、「今日的課題としてどのように取り組むのかについて、むしろ自ら打って出るような姿勢、『積極的平和主義』が求められる」と強調する。最後に同教授は、到底共感できない相手に対してこそ、彼らはなぜそのような行動を選択し、主観的にはどのように意味付けられているのかといった「他者の合理性への理解」なしには「韓国という難題」は解けないと主張する。

 

 

■『文藝春秋』9月号

― 日韓基本条約を踏みにじる「歴史の恨」(黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
― 徴用工判決は「李氏朝鮮」への回帰である(宮家邦彦 キャノングローバル戦略研究所 研究主幹)

 

『文藝春秋』のこれらの記事は、韓国がなぜこのように日本人には不可解な行動を選択するのかについて、それぞれの説を展開している。黒田氏は、1965年の国交正常化は、結論の出ない対立点は棚上げやあいまいにしたまま、現実的な国家利益のため妥協した結果だった、と指摘する。「しかし韓国人にとっては、かくも豊かな国になり「日本何するものぞ」との自信がつけばついたで、過去に現実的利益のためないがしろにした“自尊心”がうずく」とし、韓国人には日本に対し根深い「歴史的ハン(恨)」がある、と主張する。同氏は、1945年8月の韓国の日本支配からの解放は、日本の敗戦によっていわば“たなボタ”式にもたらされたもので、自力で勝ち取ったものではなく、韓国人にとっては限りなくやるせなく、その“鬱憤晴らし”が今なお続く反日現象である、と分析している。

 

宮家氏は、韓国の振る舞いの本質は「歴史」という視座を持つことによって見えてくる、という。同氏は、歴代中国王朝に朝貢した高麗や李氏朝鮮など朝鮮半島の王朝は、「『振り子』のように、周辺の強国の間を行ったり来たりしながらバランスを取り、生き延びる外交をおこなってきた」と解説する。冷戦構造の崩壊後、中国の台頭、北朝鮮の核保有、米国主導の世界秩序にチャレンジする動きなどは、「韓国から見れば、東アジアにおいて主体性を取り戻すチャンス」であり、「北朝鮮と統一し、ふたたび李氏朝鮮時代の姿に戻って振り子外交を繰り広げ、強国の間でバランスを取りながら東アジアで存在感を発揮する」とのシナリオが現実味を帯びてきたと見る。すなわち、韓国は中露同様に米国主導の世界秩序に対する「現状変更勢力」に転じたと見なすべきで、「現状維持勢力」の日本とは議論がかみ合うはずがないとする。宮家氏は、日本に有効な外交手段は少ないとしつつも、「韓国をあまりにも日本から遠いとことに行かせないようにすることが重要です」と締めくくっている。

 

 

■『Voice』9月号、歪んだ報道が韓国を暴走させる(細川昌彦 中部大学特任教授)

 

細川特任教授(元通産省安全保障貿易管理課長)は、こじれる日韓関係の「元凶」は、輸出管理制度の本質を理解していない国内メディアであり、韓国が事実を理解しないまま、日本の報道を受けて過剰反応していると見る。今回の措置は、韓国向けの輸出について、許可の手続きを包括許可から、本来の原則の「個別許可」に運用を変更するという手続き・運用の見直しにすぎず、本来、その影響は限定的で、冷静に見極める必要がある、と強調する。

 

細川氏は、ホワイト国にする前提である緊密な意見交換について、ここ3年韓国が応じていないとし、「輸出管理の信頼関係が崩れている」のならば、ホワイト国から外すのは当然だ、と主張する。また、「EUが輸出管理のうえで特別優遇しているのは、日本を含め8か国で、これに韓国は入っておらず、今回の措置はEU並みに手続したともいえる」と付言している。

 

細川氏は、メディアが「安全保障と通商を絡めている」と批判するが、輸出管理とはそもそも両者が重なり合う領域に属するもので、その制度の本質を理解せずに批判するのはまったく的外れだと強調する。同氏は、「明らかに韓国の主張は日本のメディアの歪んだ報道と軌を一にしている。しかもそれらは輸出管理制度への無理解からくるものだ。その結果、本来単純なことが不必要に複雑になり、日韓関係をますますこじらせているのではないだろうか」と結んでいる。

 

■毎日新聞(8月24日付)「論点」、日韓安保協力に亀裂 (渡部恒雄 笹川平和財団 上級研究員)

 

渡部氏は、韓国による日韓軍事情報包括保護協定の破棄は残念だが、致命的ではない、これから日本政府がとるべき行動は「善意の無視」で、「何もしない」ということだ、と主張する。これ以上、日本が対応をエスカレートさせても無益であり、将来の韓国の政権交代に備え、冷静な対応に徹し、「この政権はおかしい」と考えている韓国の人に「日本は結構冷静だな」と思わせるのも大事だという。長期的な安全保障のためにも、これ以上韓国を北朝鮮の側に追いやってしまわないためにも、今後は何もしないことを政策だと考えるべきだ、と提言している。

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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