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データの世紀に日本企業は生き残れるか

投稿日 : 2019年08月14日

主要月刊誌8月号は、膨大なデータを支配し、ますます巨大化する世界のIT産業に、競争を迫る規制をかけるべきか、あるいは独占を認めて利用するのが良いのか、さらには、このようなデータ経済時代に日本企業は生き残れるのか、といったテーマを数多く取り上げている。

 

 

 ■『中央公論』8月号 特集―GAFA規制の死角、競争か独占か

 

『中央公論』はまず、ジャーナリスト/メデイア・アクティビストの津田大介氏と山本龍彦慶応義塾大学教授との対談記事「『プラットフォーマー帝国』に人文知で対抗せよ」で、巨大化の一途をたどるIT企業への規制の是非をめぐる問題を取り上げている。

 

山本氏は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表される巨大プラットフォーマーへのデータ保護規制について、欧州では個人情報の取り扱いは自分自身で決定するのだという「尊厳」の概念を軸にデータ政策が取られてきたことが2018年のEUによるGDPR施行の背景にあるが、日本には、データ政策を下支えする、尊厳とか自由といった憲法文化がない点を指摘する。

 

そして山本氏は、EUが準備しているプラットフォーマー規則では、検索ランキングの基準の開示を求めているという例を挙げて、プラットフォーマーの流す情報は決して中立的ではなく、イデオロギーや思想が組み込まれており、我々は、その人為的な「世界」の情報を受け取っているにもかかわらずが、多くの人はいまだにその人為性や操作性には鈍感だと説明する。そして津田氏と共に、アマゾンやヤフーショッピングのおすすめ商品も、純粋なおすすめではなく、供給会社の影響を受けているが、AIがアルゴリズムで出したと言われると、ひとは客観的な情報と感じてしまうので、アルゴリズムやAIでいくらでも世論誘導はできると警告する。

 

一方で、米国について、山本氏は「政府からの自由(liberty)を重視する憲法文化がある」とし、津田氏もそれは米国のプラットフォーム事業者の自由度の高さともつながると同調する。

 

中国の強みについて津田氏は、「民間企業も政府も、ネットワーク効果を最大限化するためのデータを、欧米の先進国では考えられない強引な手法で集められる」点にあり、国民が急速なデジタル化を積極的に受け入れているので、AIや音声認識などのテクノロジーが急成長を続けていると見る。山本氏も、データの共有・統合は、「財」を共有しようとする共産主義の考えに通じ、中国の人々は思想的にも受け入れやすいという。

 

これらを踏まえて津田氏は、日本が、米国のような自由至上主義、市場原理の社会か、中国のようにデータを社会の管理や効率化に最大限利用する社会か、それともEUのような、もう少し個人の自己決定権を重視した方向に行くのかーその3方向のどれを今後目指すのか、現状では全く見えてこないと問題提起をしているのに対し、山本氏は、その三方向を調停する「プラグマティズム」が日本の理想かもしれないが、うまくいくかわからないと応えている。

 

加えて、国家とプラットフォーマーとの関わり方について山本氏は、「巨大プラットフォーマーを、現在のように社会インフラ的・権力的存在として存続させ、特別な規制をかけていくのか、それとも、彼らを数多くある民間事業者のひとつとして、多様なプラットフォーム間の競争を促進するか」をこれから考えなければならないと問題提起する。同教授は、「今やデータは「力」なわけで、データをより多く囲い込んだものが「権力」となる。データを自由に流通させることは力を分散させることになるので、自由の実現にもつながる」として、国家の競争政策はやはり重要だと結論付けるが、問題はどこまでの国家介入・干渉を認めるかだという。

 

 

■『中央公論』8月号 データ経済時代に、日本企業は生き残れるか?

 

続いて『中央公論』の特集では、「データ経済時代に、日本企業は生き残れるか?」と題して、岸宜仁経済ジャーナリストと識者とのインタビューを掲載している。

 

及川卓也デンソー技術顧問とのインタビューをまとめた記事「ソフト開発で世界と闘った私が見た、日本の弱点と可能性」では、及川氏は、日本企業もデータの活用方法や組織の構造改革などやり方さえ工夫すれば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と十分に闘えると主張する。

 

同氏は、自動車産業を取り巻く環境が激変しているところ、「変化の主体は産業のサービス化であり、その背景にデータをいかに有効活用するかという技術や、事業化のノウハウがもとめられている」と指摘する。「GAFAは多くのデータを抱えていますが、データだけではものづくりはできません。データをリアルの世界で生かすには、製造業のノウハウや、販売エリアの文化に対する理解などが必要なのです」と述べて、ものづくりで日本企業が独自にもつ競争力を強調している。

 

ただし、日本企業は社内に開発ができるエンジニアを抱えておらず、外部のベンダーなどに丸投げしてしまうのが一般的であるが、この構造を辞めて、ユーザーからの反応をふまえて設計を一部見直すような、素早い仮設検証が可能な組織につくり変えていくことが先決と付言する。このためには、「人」にこそ投資すべきで、GAFAに匹敵するような人材を採るために、採用や人事評価、組織設計や人材育成の改善に取り組んでいるという。

 

識者とのインタビューを総括して、岸宣仁氏は、日本が強いとされた製造業の世界にもデジタル化の波は容赦なく押し寄せてきており、2025年ごろに実現するとみられる完全自動運転が、日本の産業の将来を占う極めて重要な試金石になると強調する。まだ開発段階で、決着はついてはいないものの、GAFA勢が先行しているのは明らかで、彼らの持つ自動運転データに、何らかの規制がかけられなければ、日本企業の多くが彼らの下請けに甘んじるようになる可能性があると警告する。

 

個人情報保護に詳しい慶應義塾大学の山本龍彦教授も、「データが資源になる時代に日本メーカーは厳しい闘いを強いられる」としつつも、「グーグルなどが持つ地図や運転など「場」のデータに対して、日本が培ってきた「モノづくり」のデータを武器に闘えるかが勝負になると思います。つまり、日本のモノづくりデータがどこまで交渉力を持つのか、そこが相手の譲歩を引き出すポイントになるはずです」と指摘している。

 

 

■『VOICE』8月号 GAFAに怯えている場合ではない

 

冨山和彦経営共創基盤代表取締役CEOは、日本のグローバル産業の代表格であった製造業は、平成の半ば以降、文字どおり「敗北の歴史」をたどったが、これは、それまで日本企業が得意としてきた改良的、改善的、漸進的な変化では、グローバリゼーション、デジタルトランスフォーメーションによって起きたいくつもの不連続かつ革命的な変化の波に対応できなかったからだとし、「長らく日本企業の強みとされてきた「一括採用」「終身雇用」「年功序列」といった雇用慣行の有効性は、もはや失われているとはっきり認識すべきである」と言い切る。

 

冨山氏は、人材の新陳代謝を重視して適材適所の人事を行うこと、自社が戦う産業領域において、自社の比較優位と競争優位を見極めることなどが大事で、いつまでもGAFAの襲来に怯えている場合ではなく、「むしろプラットフォーマーとしてのGAFAを利用してやろうくらいの気概が欲しい」と鼓舞する。

 

また、日本の国内総生産の約7割、雇用の約8割を占めるローカル産業では、破壊的イノベーションが起きにくく、時代に合わせて少しだけ改善を続けるという、これまで日本企業が得意としてきたパターンを活かせると指摘する。オリンピックではなく、「市民大会」の優勝を狙えという。ただし、ローカル型産業にも、生産性を挙げることと、従業員の賃金を上げるという課題があると指摘する。

 

 

■『文藝春秋』8月号 「100年企業」が日本を救う

 

宮永博史・東京理科大学教授は、本記事で、日本には創業100年を超える「老舗企業」が、現在、34、394社もあり、そこには、グローバル化、デジタル化の荒波を生き抜くヒントが詰まっていると指摘している。日本に老舗企業が多い内的要因として、(1)経営理念・家訓の存在、(2)経営者(婿養子)の資質、(3)伝統と革新、(4)ピボッティングを挙げている。長く続く企業には、理念のほかに独自の技術やアイデアがあり、それをうまく時代に合わせて更新してきた企業が老舗となる。

 

このような老舗企業の例として、漢方薬で有名なツムラ(創業126年)、物流を基盤としながら物流関連事業へとビジネスを広げる鴻池運輸(創業139年)、および繊維事業からスタートしてカーシートなどへの多角化戦略を展開するセーレン(創業130年)を挙げるとともに、これから「老舗」となる可能性のある企業も紹介している。

 

宮永教授は、「日本の老舗企業は、マーケティングだけでなく、ビジネスモデルや経営全般において、企業を長く発展・成長させるヒントを多く持つ。江戸時代の初期、当時の常識だった「掛売り」から「現金販売」へとシフトした三越の例はよく知られている。しかし、最近は、(短期志向の)欧米流の経営ばかりがもてはやされる傾向がある。長期にわたって事業を継続し、株主だけでなく顧客や従業員の利益を考えるのも企業の大事な責任ではないか」と指摘して、欧米流の経営術より、まずは先達が培ってきた、日本の老舗企業の知恵を見直すときにきている、と主張している。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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