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定年後の働き方

投稿日 : 2019年07月22日


公的年金だけでは老後2,000万円不足するという金融庁の有識者会議の報告書をめぐっての議論がかまびすしい。ますます長くなっている老後に備えての資金形成も大事だし、何より「生きがい」を求めて定年後も働き続けることを望む高齢者は多い。無報酬のボランティア活動ならば様々な機会が見つけられるかもしれない。問題は、自分が本当にやりたいことを適度な報酬を得つつやれるような職場をどうやって探し出すかだ。

 




『中央公論』7月号(特集: 定年消滅――人生100年をどう働くか)

 労働政策研究・研修機構研究所長の濱口桂一郎氏は、「高齢者を活かす雇用システム改革とは」の記事で、日本型雇用システムは基本的に年齢にもとづくもので、定年となれば一律に正規雇用から非正規雇用に移行させるやり方だと指摘する。65歳を超えると、労働者の個人差はますます拡大する。「なおかくしゃくとフルメンバーとして活躍できる人もいるとすると、そういう個人差に対応したシステムを構想する必要はますます高まる」とし、個々の労働者の能力に応じて職務と賃金を決定する欧米やアジア諸国と同様のジョブ型人事管理にしていく必要があるのではないか、としている。

 

ただ、60歳を超えたとたんに個人の従事する職務に応じた給与にするというのは制度的に難しく、「少なくとも壮年期以降の賃金制度は、中長期的には生活給的な年功賃金制度から、個々の労働者の従事する職務に応じた職務給の方向に移行していかざるをえない」と見る。そのためには、職務にもとづいて会社を変わっていく労働市場の形成が不可欠となるが、一朝一夕に作り上げられるものではない。このため、当面活用する値打ちがあるのが、労働者派遣システムだという。どのような派遣形態が高齢者の就業ニーズにふさわしいのかについて、政労使と派遣会社との間で検討が進められるよう、提言している。

 

廣瀬通孝・東京大学大学院教授は「ITが変える!? シニアの就労環境」の記事で、高齢者が自らの要望にあった仕事を見つけやすくするためのITを活用した「モザイク型就労モデル」を提案している。これは、労働力を、都合の良い時間帯、スキル、空間の要素に分解して、いったんモザイク化し、雇用側のニーズに合うようにコンピューター上で再構成するものである。ネットワークを介して複数の高齢者を結集させ、時間、スキル、空間のそれぞれのモザイクをうまく組み合わせることで一つのバーチャルな人格を立ち上げて、労働力にしてしまうというわけだ。人材マッチングをある程度自動化するコンピューターやAIを駆使してこのモデルを具体化することによって、高齢者の定年退職後の選択肢を広げることができると主張する。

 

それはいずれ、高齢者に限らず就労システム自体に変化をもたらし、「例えば、定年を延ばすといったアプローチではなく、50歳くらいでリタイアして、新しい世界にふみ出すという働き方が広まるかもしれません。一周目では生活の基盤を作るためにフルタイムで働き、早めにリタイアして二周目は好きな仕事や、社会的な使命を果たせるようなことに打ち込む、体力が落ちてきたらパートタイムで働きながら徐々にフェードアウトしていくというような働き方も考えられる」とし、そのような就労モデルができれば、日本人の人生設計も大きく変わると見ている。

 

経済評論家の勝間和代氏は楠木新・神戸松蔭女子学院大学教授との対談「定年後を輝かせる働き方、マネー、人間関係」で、現役のうちから給料の2割を自主的に天引きして貯蓄や投資に回し、それを事業の開業資金や万一の時のバッファにして定年後に備えることを提案している。人間関係についても、女性もそうだが、特に男性が定年前からやるべきなのは、会社以外の居場所を持ち、利害のない人たちと楽しく過ごせるようにすること、例えば、ボランティアやPTAの役員、社会人大学院などで、多様な人びと、とりわけ若い人たちと交わることが大事で、特に男性には、自立した生活をするためにも、料理をすすめたいという。「だいたい40年にわたって主体性を出さずに来た人が、いきなり転換するのは難しい。会社に勤めながら少しずつ準備を進めることが重要」と強調している。

 

 

Voice7月号(特集:令和の幸せな働き方)

カリフォルニア大学バークレー校のスティーヴン・K・ヴォーゲル教授は「日本型長期雇用の強みを活かせ」の記事で、「多くの日本の高齢者は健康で、働くことをいとわないように見える」と述べ、労働力を増加させるには、女性、移民を活用するとともに、定年を引き上げて、高齢者の再雇用を促すことだと指摘しつつ、政府は高齢者が継続して働くことができるようにサポートする社会保障や福祉政策を打ち出すべきと示唆している。

 

アメリカのように、パイロットなど特定の職業を除いて定年制を撤廃することもいいが、アメリカ型の労働モデルでは、会社は労働者の訓練に投資せず、労働者個人が自らを鍛え、会社はその人の市場価値に見合った給料を払う。ヴォーゲル教授は日本企業に対し、アメリカ型モデルを模倣するのではなく、労働者に大きな投資ができる長期雇用という制度のアドバンテージを利用せよ、と助言している。

 


■『日本経済新聞』6月19日付コラム

 日本総合研究所理事長の翁百合氏は日本経済新聞のインタビューで、「70歳まで働ける環境を」と提言している。「70歳まで働くことができれば所得の上昇につながる。公的年金は(現役時代の所得に対する年金の水準を示す)所得代替率が今後5割になると示されている。年金だけでは現役時代の生活は続けられないと国民はうすうす感じている」と述べ、人生100年時代となった今、国民が抱える老後の経済不安緩和のため、高齢でも働きたい人は働ける環境の整備を政府に求めている。また、個人が備えるべきとしては「退職金をもらって初めて運用を考える人が圧倒的に多いが、それでは遅い。若いうちから人生のキャッシュフローを考え、貯蓄や投資、個人年金制度などをよく知って活用すべきだ。同時に健康に注意して長く働けるようにすることが大事だ」とアドバイスしている。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

 

 

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