今月の論壇から

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アジアにおける新しい国際秩序と日本

投稿日 : 2019年03月06日

■佐々江 賢一郎  『外交』 Vol. 53(2019年1、2月号)

 

日本国際問題研究所理事長の佐々江賢一郎前駐米大使は『外交』のインタビュー「インド太平洋の新しい国際秩序と日米中関係」で、米中対立が高まり自由貿易体制が揺らぐ中で、日本は原則に立ち返った粘り強い外交を展開すべきであると論じている。特に、「自由で開かれたインド太平洋構想」(FOIP)について、佐々江氏は特別に目新しいわけではないが「自由で開かれた」というのは「日本外交の原則、常に立ち返るべき場所(standing)だ」と定義づける。原則とは民主主義、市場経済・自由貿易、国際規範としての「航行の自由」や「ルール・オブ・ロー」の確立などで「日本の立ち位置を改めて確認するという意味で、FOIPの意味は非常に大きい」と強調した。佐々江氏はまた、FOIPが対中包囲網ではないかとの懸念についても「中国に対するアンチテーゼではないし、そうあってはならない」と述べた。

 

米中対立の過熱化への懸念でも、佐々江氏は米中貿易交渉自体が“ハイテク覇権争い”であるがゆえに「長期化は避けられない」としながら、市場開放問題では一定レベルの米中信頼関係は進み、ハイテク分野でも全面的に米中が争うわけではなく「ある程度の棲み分けや共存も可能」との見方を示した。ただ中国に対しては、「中国製造2025」などのような国家主導のいわゆる「国家重商主義」を改革する必要があると指摘するとともに、日本としては中国と「粘り強く付き合う」ことが肝要であると論じた。

 

一方、佐々江氏は、トランプ米政権が米国の従来路線から逸脱しているのではないかとの見方についても、米国は貿易や環境問題で多角的でリベラルな秩序からの後退は見られるが、「自由と民主主義、市場経済、人権、法の支配といった原則は揺るがない」との認識を強調する。米国が同盟国へ防衛負担増を求めていることについても、「米国はもはや世界の警察官でない」ことはオバマ前大統領時代から明らかになった米国の役割変化であって、負担分担要求自体は「グローバルな同盟国に対するコミットメントからの撤退を意味するものでない」と明言した。

 

 

■船橋 洋一 『文藝春秋』2019年3月号

 

ジャーナリストの船橋洋一氏は『文藝春秋』の連載コラム「新世界地政学91:黒船としてのアジア」で、19世紀半ば、米国の黒船が日本で200年以上続いた鎖国を終わらせたが、21世紀の今、今度はアジアから黒船が日本に押し寄せつつあると論じている。そして、中国、インド、インドネシアなどの例を挙げ、日本はアジアにおけるイノベーションによって “蛙飛び(リープフロッグ)”で追い越されており、そのことは「黒船のアジア」として日本の将来に大きなガイアツとなっていると警鐘を鳴らしている。特に、船橋氏は中国のモバイル・ペイメントとバイク・シェアリングの例を挙げ、バイドゥ、アリババ、テンセントのような巨大プラットフォーム企業は「“データ総取り”による全産業のゲーム・チェンジを狙っている」と指摘した。

 

船橋氏は、インドのバイオ分野の500社以上を支援するバイオテックプラットフォーム「C-CAMP」も“黒船”的な存在であるとし、インドのGDP(国内総生産)は日本の半分だが、「ベンチャーキャピタルの総額は日本の10倍」と指摘した。インドネシアについても、バイク配車サービスから成長した企業「ゴジェク」はアセアン6億人を対象にした「ライフスタイル全般」のプラットフォームを目指す“黒船”的な存在になりつつあるとしている。

 

振り返れば、日本企業のアジア進出はまず安価な労働力を求め、その後は巨大な市場の開拓として展開されてきたが、現在はイノベーションを求める新段階に突入している。船橋氏はそれを「黒船としてのアジアの登場」と規定する。そして、“蛙飛び”したアジアは脅威ではあるが、「日本の経済と産業と金融のイノベーションに向けてのガイアツとして活用する機会である」と船橋氏は主張し、日本はアジア諸国とともにこれまでの日本の豊富な経験を生かして「アジア発の『世界標準』を構築していくべきである」と述べた。                        

 

 

 

写真提供:Geoscience

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。 

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