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オンラインインタビュー 第二回『米国・ニューヨークタイムズ紙 セス・バークマン記者』

投稿日 : 2020年06月17日


~新型コロナパンデミック、世界はどう乗り越えるか~



第二回『米国・ニューヨークタイムズ紙 セス・バークマン記者』

 





         



シリーズ第二回目のインタビューは、米国「ニューヨークタイムズ」紙 レギュラー・コントリビューターのセス・バークマン記者です。同記者は、2016年にFPCJ創立40周年記念シンポジウムのパネリストとして来日し、「日本の女性アスリートの現状」「2020東京オリンピック・パラリンピック」をテーマに取材を行いました。インタビューを実施した2020年6月8日は、ニューヨーク市が経済活動を再開した日と重なり、記者は、当地の生活状況やコロナ収束後の展望について話しました。また、日本のコロナ対策や、日本人の生活様式への米国人の関心や認識についても言及しています。州内の感染状況、感染防止策は、在ニューヨーク日本国総領事館ホームページ(外部サイトにリンク)を御参考下さい。



 ※動画の一部にノイズが含まれます点、予めご了承下さい。



【インタビュー全文(FPCJ仮訳)】

 

Q1. 日本の新型コロナウイルス感染症への対応をどのようにご覧になりますか。

 

(バークマン記者)

日本の対応は、世界の他の多くの国々のものとは矛盾しているように見えます。日本人がマスクをしているのは当たり前のことで、特別なこととは思われていません。歴史の長さをみてみると、おそらく、日本人の日常生活にマスクをすることが浸透しているのがパンデミックへの対応に役立っているのでしょう。米国ではこれまでマスクをすることがなかったので、我々と日本の反応は違っていたかもしれません。

 

初期の日本からの報道の多くは、日本の対応が遅いというものでした。ダイヤモンド・プリンセス号で起きたことを見ても、発生した事案を処理するスピードが十分でなく、4月に入ってからも、バーや公共のスペースが他の国よりもずっと長く開いたままであったことや、日本が社会的距離を取ることを実施するのが少し遅れているという報道を読みました。4月中旬に東京に住んでいる友人が日本で話題になっている動画を送ってくれました。それは、歌手と安倍首相が映っており、首相は犬を抱いていました。人々は首相を嘲笑したようでしたが、これは怒りと言っていいのかわかりませんが、日本政府の対応の遅さへのフラストレーションを発散させる反応だったのかもしれません。

 

日本のコロナウイルス感染症への対応を明確に伝える情報が無いことで米国人が日本の対応に好奇心を持ち、未知の部分があると思うことにつながっているのではないでしょうか。日本で何が起き、なぜ他の国々と比較して大流行が抑えられているのかちょっと謎です。

 

米国では市民の自由が侵害されていると考えると、それを守るために非常に情熱的になる人たちがいるという話を聞いたり、読んだりしたことがあります。彼らは政府の干渉に反対であり、日本や他のアジア諸国では政府の命令に従うことを好む人が多いと主張する人もいるかもしれません。ここにいる人たちは必ずしもそれを事実として受け止めているわけではないと思いますが、そのような論点を持ち出すときには気をつけなければならないと考えます。人々をひとくくりにしてはいけないということです。

 

一ヶ月前を振り返ると、米国では日本とコロナウイルス感染症に関する最大のニュースは、米国のスポーツリーグや世界中のスポーツは、シーズンを延期したり、キャンセルしていた最中に、東京オリンピックがまだ今夏に予定されていたことを中心としたものでした。夏のオリンピック開催を判断するのに長い時間がかかり、日本にも言い分はあったと思いますが、日本でなぜ集会を開催しない、オリンピックを延期する、社会的距離を取るといったことを実行するのに少し時間がかかったのかといったところは、米国人の好奇心に拍車をかけたかもしれません。

 

コロナウイルス感染症が流行している間に日本の文化的な出来事について興味深く読みました。日本の男性はこれまで家事の大半を女性に任せていたがここ数ヶ月の間に手伝うようになり、男性が家事をすることに慣れてきているという記事です。それから、日本でどのくらい大きな話題になったのかは分かりませんが、サイズが小さ目の布マスクの配布の混乱です。米国では、連邦政府が全国民にマスクを配布する計画はありませんでした。ニューヨーク市でも、自分からマスクをもらいに行ったり、公園に行けば配られたりしていましたが、政府が一丸となって住民一人一人に配布していたわけではありませんでした。

 

私を含め多くの人々は、日本のコロナウイルスへの対応に多くの関心と好奇心、そして不確実性を持っていて、時間が経てば日本がウイルスと戦うためにしてきたことや決定的な要因があるかどうかを知るのは興味深いことだと思います。マスク着用の習慣がおそらくその一つの理由であったでしょう。社会的な距離感を保つというような他の方法は日本では進みませんでしたが、米国の人々、ジャーナリスト、住民は、日本だけではなく、世界の他の国々がこのウイルスと本当によく戦ってきたので、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを確認しながら、引き続き爆発的流行やクラスターに対応していくでしょう。

 

 

 

Q2.新型コロナウイルス感染症は、ニューヨークにどのような生活や生活様式の変化をもたらしましたか。

 

(バークマン記者)


【6月8日、ニューヨーク市の日常生活が再開】


東京の生活は、人口の多さや人のせわしなさ、公共交通機関への依存度の高さなど、私が住んでいるニューヨーク市の生活と似ているところがたくさんあるといつも思っていました。ニューヨークでの生活はゆっくりと再開しています。今日(6月8日)は、ニューヨーク市で日常生活が「再開」した最初の日でした。 ニューヨーク州では、州全体が複数の地域に分けられ、ガイドラインを満たした地域から経済活動が再開されます。ニューヨーク市はこのガイドラインを満たした最後の地域で、今日から再開の第一段階が始まりました。これにより、工事が再開され、小売店は通常のようにお店に入って買い物をすることができませんが、前もって注文した物を受け取りに行くことができるようになりました。統計によると、少なくとも40万人以上が今日職場復帰したということです。米国の失業率は20%を超え、 4月と5月には毎週600万人が新しく失業申請をしていました。

 

今日ニューヨーク市は経済活動再開の第一段階に到達しましたが、この2ヶ月から2ヶ月半の間は、医療関係者やエッセンシャルワーカー(社会に必要不可欠な労働者)以外のここで暮らす全ての人の生活は違っていました。自分が暮らしている住まいを中心に全てが回ったのです。ZOOM会議を介して仕事をし、仕事は全てコンピューターとつながっていました。私は子供がいないですが、それを難しくしたのが全ての学校の閉鎖です。生徒はホームスクーリング、コンピューターを介した自宅学習をしなくてはなりませんでした。家にパソコンを持っていない生徒や 無料のWi-Fiサービスを持っていない生徒がいたため、その生徒は学校をやめたか、教師や校長が生徒を手助けしなくてはなりませんでした。

 

 

 

【ロックダウン下での暮らし】


ニューヨークでのロックダウンは、昔から黒人やヒスパニック系米国人、貧困ライン以下の人々の人口が多い地域が大きな影響を受けました。近隣に病院が無い、またはあっても公立病院で、資金力のある民間病院はありませんでした。米国に国民皆保険制度はなく、民間部門と公的部門に分かれていて所得によってどのような医療を受けられるかの目印になっています。コロナウイルスは間違いなく高所得者と低所得者の間の格差に光を当てました。3月に人々がトイレットペーパーがなくなるのを心配して買い占め、スーパーやドラッグストアの棚から消えたことがありました。同じことが除菌シートでもありました。除菌シートは多くの人にとって金のように大切にされ、アマゾンや他のウェブサイトで市場の5、6、7、8倍の値段を払って買う人もいました。

 

私は4月の大半をアパートで過ごしました。ワンルームのアパートに住んでいますが、それは大変でした。在宅で仕事をすることには慣れていますが、実際にアパートから出ないというのは少し違います。4月に2回食料品の買い出しに行き、ニューヨークのアパートの多くには洗濯機と乾燥機が設置されていないので、コインランドリーで洗濯をし、階下の郵便受けに郵便物を取りに行くか、外出はそれだけでした。残りの時間はアパートで過ごしたので、無気力になること、閉じ込められていると感じたこともありました。

 

4月、5月に入り外に出て、例えば朝ランニングをすると、精神的にも肉体的にも気持ちの持ち方に違いが出てきました。30分でも、1時間でも、外に出たり、散歩に出たりして、アパートや家に閉じこもらない時間を持つことが大切だと思います。大家族や、自宅学習をする子どもがいて、かつ親も仕事をしている人にとって家に籠るのは本当に大変なことです。学校の勉強のため、仕事ために誰もが家でインターネットに接続しているので、容量超過で機能停止してしまうのではないかと心配されていました。

 

私は朝6時に起床し、ジョギングをして、読書し、仕事関連のメールをチェックします。それから自分を含めて多くの人が午前11時30分から行われるクオモ・ニューヨーク州知事の記者会見を見ます。クオモ知事は、会見で最新の死者数、挿管数、検査数を発表します。知事が発表する棒グラフは慰めになりました。感染者が減少し始めると、棒グラフに反映され、実際に変化が起きているのを目で見ることができたからです。

 

午後は仕事をして、夕食をとり、一日が終わります。家の中に閉じ込められているのは、多くの人にとって本当に大変なことでした。人が亡くなることもありますし、社会的な距離感を保つ観点から老人ホームや病院にいる愛する人を見舞うこともできません。直接の知り合いにはいませんでしたが、亡くなった両親に会えなかったり、最後の別れを告げられなかったと聞きます。結婚式が延期になった人を何人か知っています。仕事を失うだけでなく、精神衛生上の問題や心配事など、コロナウイルスが多くの人に影響を与えました。

 

 

 

【人種差別への抗議運動ーパンデミックから得られた教訓】


ビデオ通話は、人々の安否を確認するという点では、頼りにできるものでした。毎晩午後7時から人々が医療従事者のために手拍子をすることがありました。コロナウイルス感染症との戦いは2ヶ月目、3ヶ月目に突入していますが最近の出来事の中で最も興味深いのは警察の横暴や人種差別に対する抗議行動だと思います。先週、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたジェナ・ウォータム記者による記事はパンデミックの中で人々がどのように生きているのか書いており印象に残っています。アメリカ人の誰しもがこの3か月間、同記者のいうところの警戒心が強く、不安な状態で、不確実性、恐怖、脆弱性などの感情に立ち向かっていました。これらは、黒人の米国人が日常的に経験していることです。数週間前にジョージ・フロイド氏が亡くなりましたが*、コロナウイルスへの心配や恐怖のために家に閉じこもっていた全ての米国人が経験した感覚や感情をこの国の黒人やマイノリティが日常的に経験しているということをやっと理解することができたのかもしれません。このため多くの人々が抗議運動に参加し、警察の残虐な行為や行動に対して積極的で声高になっているのかもしれません。コロナウイルスがもたらした最大の収穫は、これをどのように発展させ、どのように振り返るかです。この恐ろしいコロナウイルスのパンデミックから得られた教訓としてこの国で長い間行われてきた組織的な不公平に目を覚まし、変化をもたらす。変化が今後も続いたら素晴らしいです。

 

*2020年5月にアメリカのミネソタ州ミネアポリスで、警察官に膝で首を押さえつけられ死亡した黒人男性


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<ニューヨークタイムズ紙>
1851年創設の日刊紙。米国高級紙の一つ。
メディア:https://www.nytimes.com/

記者プロフィール: https://www.nytimes.com/by/seth-berkman

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