プレスツアー(報告)

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実施日 : 2020年02月26日 - 27日

報告:福島プレスツアー

投稿日 : 2020年03月27日

東日本大震災・東京電力福島第一原発事故から9年。今回のツアーでは、福島第一原発に近接し、復興に向けて厳しい道のりが続く富岡町、大熊町、広野町、浪江町を訪れ、様々なかたちでコミュニティの再生に取り組む人々、地域の課題解決を担う国際人材の育成に挑む教育現場、また市町村の枠組みを超えた住民目線での継続的な情報発信活動などを取材しました。また、これらの取材先は、福島県が推進する、学びの旅「ホープツーリズム」の訪問先にもなっており、今回のツアーは参加記者にとって「ホープツーリズム」についての理解を深める機会ともなりました。

 

ツアーには、ドイツ、フランス、トルコ、スウェーデン、中国、韓国のメディアから7名の記者が参加し、大災害から9年後の福島の復興状況、5カ月後に迫る(ツアー催行時点)「復興五輪」への期待、さらに福島の経験が最近の新型コロナウィルス問題に対して伝え得る教訓といった様々な角度から取材していました。

 

※本ツアーは、福島県が主催し、フォーリン・プレスセンターが企画・運営で協力しました。

※本ツアーは、2020東京オリンピック・パラリンピック延期決定(3月24日発表)前に催行しました。

※取材先の詳細については、こちらのプレスツアー案内をご覧ください。

 



1日目:226日(水)

 

1.「ホープツーリズム」-福島県による説明

 地震、津波、原発事故、風評被害を一度に経験した世界で唯一の場所である福島を訪れ、その光と影、ありのままの姿を見るとともに、復興に挑む人々との対話を通じて、大災害の教訓を未来にどう生かすのか、自分事として考える。福島県が推進している体験学習旅行「ホープツーリズム」の意図や実績、そして今回のツアーの概要について、福島県観光交流課から説明がありました。

 2017年度には20件(うち外国人1件)だったツアーは、18年度には50件(同4件)、今年度は今年2月までで54件(同10件)との説明に、記者からは「外国人はどのような人たちが参加しているのか」といった質問が出ました。

 

 

 

 

2.「ふたばいんふぉ」-8町村の垣根を越えて双葉郡の情報を共有

 民間組織の「双葉郡未来会議」が運営し、双葉郡を構成する8町村の枠を超えて、住民目線での情報を発信することを目的とした施設「ふたばいんふぉ」を訪問し、代表の平山勉さんに話を聞きました。地元の高校を卒業後に上京して20年余り音楽関係の仕事に携わった後、家業のホテル経営を継ぐために同郡富岡町に戻って2年後に大地震と原発事故が発生しました。「富岡は負けん!」。原発事故の5ヵ月後に平山さんが国道沿いの歩道橋に掲げた横断幕のメッセージはNTTのライブカメラで全国に伝えられ、大きな話題となりました。その後も元住民や帰還者の支援、ボランティア活動などできることは何でもやってきたという平山さんから、こうした経験について話を聞いた記者たちは、「避難先から戻ってきた住民たちは住宅や生活費などでどのような公的支援を受けることができるのか」といった質問を投げかけました。

 その後記者は、8町村の情報や特産物などが所狭しと展示された施設内の様子を視察したり、「富岡は負けん!」と書かれた横断幕や、「ふたばいんふぉ」から徒歩数分の場所にある自ら経営するホテルの前で、記者の注文に応じてポーズを取る平山さんの姿をカメラに収めていました。

 

  



3.原発が立地する大熊町、「帰還困難区域」からの再生へ

 福島第一原発の立地自治体である大熊町は、原発事故で町全域が避難指示区域に指定され、11000人を超える住民は県内外での避難生活を余儀なくされました。事故から8年後の20194月に一部地域の避難指示が解除されましたが、3040年はかかるとされる廃炉作業と向き合いながら、再生への長い道を歩み始めています。

 ツアー一行は、復興の最前線である大川原地区復興拠点で昨年5月に業務を開始したばかりの大熊町役場の新庁舎を訪れ、同地区の整備を担う「おおくままちづくり公社」の髙田吉弘事務局長から震災・原発事故以降の状況について説明を受けました。その後、新たに整備された50戸以上の公営住宅などが立ち並ぶ大河原地区内を髙田事務局長の案内で視察しました。美しく整備された街並みに感心しつつも、ほとんど人気のない同地区の様子に「元住民は本当に戻ってくるのだろうか。実際に戻ってきた人々の様子を取材したい」と感想を述べる記者もいました。視察後は再び町役場に戻って、大熊町の担当者も交えて質疑応答が行われました。

 

 

 


4.元東京電力社員が問いかける原発と地域社会

 ツアー初日の最後に一行は、元東京電力の社員で、震災当時は福島第二原子力発電所に勤務、20126月に退職し、一般社団法人AFW(Appreciate FUKUSHIMA Workers)を立ち上げた吉川彰浩(よしかわ・あきひろ)さんとの懇談の機会を持ちました。吉川さんは、「原発事故を社会全体で考えるものにしたい」との思いで作った第一原発のジオラマを記者に披露しながら、東電の元社員でこの地域の住民でもあるという難しい立場や複雑な思いについて語りました。また、原発で働いていたものとして、社会とこの場所をつなぎとめること、そしてこの場所を次の時代に伝え続ける責任について思いを述べました。

 記者からは、「吉川さんがこのジオラマを使って普段どのような説明をしているのか」、「原発事故で発生した汚染水を処理した水を海洋放出することの環境への影響についてどう思うか」など、様々な質問を投げかけていました。また、コロナウィルスの問題の震源地となった武漢の人たちへのメッセージを問われた吉川さんは、正しい情報がどこにあるのかよくわからない状況は原発事故の時に似ているとし、偏見や差別といった困難な状況から脱するには時間がかかると答えました。

 

 



2日目:227日(木)

 

5.復興を担う国際人材を育成、「福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校」

 震災後休校していた双葉郡内の県立高校5校を集約し、「双葉からの新しい教育モデル」を目指して20154月に郡内の広野町に開校(中学校は20194月に開校)した教育再生のシンボルともいえる学校を訪問しました。開校とともに文科省より福島県内で初めてスーパー・グローバル・ハイスク―ル(SGH)に指定された同校の南郷市兵副校長から、設立の経緯や同校が目指す学校像や教育課程の特徴などについて説明を受けました。高校生は1年生で復興の課題を調査し、23年生でその解決策を考え実行に移していくとの実践的な教育方法に、記者も強い関心を示していました。

 続いて、高校一年生の英語の授業に飛び入り参加した記者は、45名の生徒のグループに12名ずつが加わり、生徒の普段の生活や大震災での経験、地域の復興への思いなどについて聞きました。また、東京五輪で金メダルが期待されるバドミントン世界ランク1位の桃田賢斗選手も卒業生(旧富岡中学・高校)であり、同高校の生徒2人が聖火リレー走者に公募で選ばれたとの話を聞いた記者は、オリンピックに期待することなどについて質問していました。

 

 

  


6.大災害の記憶を継承する浪江町(請戸小学校、大平山霊園)

 記者は、3年前に帰還困難区域を除き避難指示解除となったものの、震災前は2万人を超えていた町民の帰還率はまだ10%に満たない浪江町を訪れました。まず始めに地元ガイドの和泉亘さんの案内で、海岸から300mほど離れたところに残る町立請戸小学校の旧校舎を視察、記者はフェンスの外から見る、津波の脅威を今に伝える遺構に向けて盛んにシャッターを切っていました。また、地震発生直後に校舎にいた児童と教職員が助け合い走って1.5㎞先の高台へ避難し全員が無事だったとの話を聞いた後で、その避難先となった大平山霊園に向かいました。廃炉に向けて作業が進む福島第一原発を遥か先に望む霊園に建つ、犠牲となった住民182名の名前を記した慰霊碑を前に、ガイドの和泉さんが「私達は、災害は再び必ずやってくることを忘れてはならない」との碑に刻まれた戒めの言葉を読み上げ、記者は静かに耳を傾けていました。

 

  



7.NPO法人 Jinが挑む「花のまち」                                    

 復興に向けて、「花のまち」として花の一大産地化を目標に掲げる浪江町。記者はツアーの最後に、震災で町から離れた住民を呼び戻そうと、安定した生活ができるように高品質なトルコギキョウ等の栽培に取り組むNPO法人Jinの川村博代表を取材しました。震災前は高齢者や障がい者のデイサービスやリハビリの事業所を運営していた川村さんは震災後、事業所の隣の園で野菜を作ったものの、基準値を上回る放射性物質を検出したため出荷を断念し、風評被害が少なく、収益性の高い花卉に取り組むようになったとの説明を記者は興味深そうに聞いていました。

 最後に同法人で働く2人の女性職員を交えての質疑応答では、震災時の個人的な経験やこれからの生活で期待・希望すること、原子力発電所の必要性、オリンピックに対する思いなど、様々な角度から質問していました。また、オリンピックでメダリストに贈られるビクトリーブーケにJinが栽培するトルコギキョウが使用される予定との説明を聞いた記者は、トルコギキョウのブーケを手にした川村さんたちにカメラを向けていました。 


 


(復興五輪と福島の復興)

 東京五輪開幕まで5カ月のタイミング(ツアー催行時点)で実施した今回のツアーでの記者の最大の関心事として、ほとんどの訪問先で出た質問は、「五輪開催は地域にとって良いことか。復興五輪に何を期待するか」でした。福島の人々からの答えは概ね次のようなもので、その複雑な心境を感じ取ることができました。「個人的には、出場する選手は全力で応戦したいし元気をもらいたい。被災地が五輪開催で注目を集め、現状を理解してもらえることは有難い。ただし、『復興五輪』が終わったら被災地の復興が終わると勘違いしてもらっては困る。五輪後も復興への道のりは長いことを理解してほしい」。

 



◆本プレスツアーに関する報道の一部をご紹介します。(タイトルはFPCJ仮訳)


● Quest-France(フランス)

Le monde va voir notre réalité” : Avant les JO, la population locale de Fukushima divisée

「世界は私たちの現実を見る:オリンピックの前に、福島の地元の人口は分かれた」

https://www.lesinrocks.com/2020/03/06/actualite/monde/le-monde-va-voir-notre-realite-avant-les-jo-la-population-locale-de-fukushima-divisee/

 

Anadul Agency(トルコ)

Büyük Doğu Japonya Depreminin 9 yıl sonrasında Fukuşima Eyaleti”(summary photo publication)

「東日本大震災から9年、福島県」

https://www.aa.com.tr/tr/pg/foto-galeri/-buyuk-dogu-japonya-depreminin-9-yil-sonrasinda-fukusima-eyaleti-/0

 

新華通信社(中国)

“期待奥运,期待重建和疗伤——几个普通福岛人的奥运期待”

「オリンピックを楽しみに、復興と癒しを楽しみにしている — 福島の少数の一般市民のオリンピックへの期待」http://sports.xinhuanet.com/c/2020-03/09/c_1125685001.htm

“Nine years on, Fukushima residents expect Olympics to lift spirits of reconstruction”

9年後、福島の住民はオリンピックが復興の精神を高めることを期待している」

http://www.xinhuanet.com/english/2020-03/09/c_138858837.htm


● 京郷新聞(韓国)

도쿄 올림픽 성화 출발 후쿠시마 마을 “부흥올림픽 구호 공허”

東京オリンピック聖火出発の福島の町、「復興五輪の掛け声、むなしい」
http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?artid=202003032216005&code=970203

 

世界日報(韓国)

①방사능 수치 높아 차창도 못열어… 주민 90% 귀환 안해

「放射能の数値が高く、車の窓も開けられず・・・住民の90%、帰還しない」

http://www.segye.com/newsView/20200302520587 

②후쿠시마 홍보공무원 꿈꾸는 고교생… 꽃 가꾸며 농업재개 도전하는 NPO

「福島広報公務員を夢見る高校生、花を育てて農業再開に挑戦するNPO
http://www.segye.com/newsView/20200302520588


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