実施日 : 2019年07月30日 - 31日
報告:岩手プレスツアー
投稿日 : 2019年09月20日
9月に開幕するラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会の開催地となる岩手県釜石市など、復興に力強く取り組んでいる岩手三陸沿岸部へのプレスツアーを実施しました。参加した記者たちは、被災地の復興の現状や、津波の記憶と教訓を国内外に伝える取り組み、復興に果たすスポーツの役割のほか、震災をきっかけに地域を活性化し新しい三陸を創造しようと取り組む挑戦者たちを取材しました。本ツアーには、米国、スイス、デンマーク、ドイツ、バングラデシュ、台湾のメディアに日本国内で発行されている英字ウェブメディアを加え、計7名の記者が参加しました。
※本プレスツアーは三陸防災復興プロジェクト2019実行委員会が主催し、フォーリン・プレスセンターが企画・運営しました。
※ツアー案内はこちら。
【1日目】
<津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」>
東日本大震災当時、釜石東中学校3年生で「釜石の奇跡」の避難を経験した菊池のどかさんより、震災の津波による釜石の被害や釜石市の子供たちが震災前から受けていた防災教育の内容、菊池さん自身が実践した避難行動について説明を受けました。記者からは、震災当時の菊池さんを含む子供たちの避難行動に関する質問が多数挙がり、取材後には菊池さんの被災経験を直接聞くこができ貴重な機会だったとの感想が多く寄せられました。
<釜石鵜住居復興スタジアム>
W杯の会場となるスタジアムを訪れ、釜石市ラグビーワールドカップ2019推進本部事務局の長田剛さんより、W杯開催に向けた地元の準備状況や、開催に込められた地元の思いを聞きました。長田さんは、「震災当時、世界中の人が釜石を助けてくれたが、それに対してお礼を言えていない。W杯を開催し、このスタジアムを満員にして盛り上がることで、釜石はこんなに元気になりました、ありがとう、と世界中の人たちに伝えたい」と、W杯本番への期待を語りました。記者たちは、開催に向けた現在の準備状況やW杯後のスタジアムの活用策について尋ねながら、美しい自然に囲まれたスタジアムを撮影しました。
<旅館 宝来館>
根浜海岸に立つ旅館「宝来館」を訪れ、女将の岩崎昭子さんから、地域住民を高台に避難誘導している最中に津波にのまれた時の経験や、ラグビーW杯誘致への取り組み、根浜海岸の活性化への思いを聞きました。また、東京から釜石に単身移住し岩崎さんと共に活動する細江絵梨さんからは、根浜海岸を世界の人びとが防災の知恵を学び合う場にする計画など、この地域の活性化に向けた挑戦について説明を受けました。記者からは、岩崎さんの被災当時の体験のほか、根浜地区が震災前と同じ海が見える高さの防潮堤を復旧することを選んだことなどについて質問がありました。
<山崎秀樹・釜石市副市長>
釜石市役所を訪問し、山崎副市長より釜石市の復興の現状やW杯開催に向けた地元の思いについて説明を受けました。記者からは、2020年東京五輪による復興工事への影響、ラグビーW杯で期待される地元への経済効果やW杯終了後にスタジアムが「負の遺産」となる懸念、外国人観光客への釜石のアピールポイントなどついて次々に質問が挙がりました。
【2日目】
<三陸鉄道株式会社>
東日本大震災で大きな被害を受けた三陸鉄道の本社(宮古市)を訪れ、中村一郎社長にインタビューしました。中村社長は三陸鉄道の復興のあゆみを説明した上で、「今後は地域のみなさまの足としての役割とともに、地域の振興につなげるため国内外からの観光客に乗ってもらえるようにしたい」と述べました。記者たちは、鉄道の復興に向けた海外からの支援や、利用客を増やすための取り組みなどについて質問したほか、震災から8年ぶりに今年3月に運行を再開した宮古~釜石間の一部に乗車し、車窓からの風景や車両を撮影しました。
<共和水産株式会社>
宮古市の水産加工会社・共和水産の工場を訪れ、若手経営者の鈴木良太さんから震災後の同社の復興のあゆみについて話を聞いた後、イカソーメンなどの加工の現場を視察しました。鈴木さんは震災以来、自らを「イカ王子」と名乗り国内外へのプロモーションの先頭に立つことで宮古の水産業を盛り立ててきました。記者からは商品のラインナップや今後の海外展開、人手不足への対策などについて質問があがり、鈴木さんが釜石のラグビーW杯会場に同社の人気商品タラフライを使ったフィッシュ&チップスを出店すると話すと、記者団からは歓声があがりました。
<株式会社コーポレートインパクト>
東京などからスキャンして送られてきた文書の校正・チェック作業が行われている大槌町のオフィスを訪れ、同社を経営する福田久美子さんから話を聞きました。東京でIT企業を経営する福田さんは震災後、ふるさとの大槌町に雇用を生み出すために、校正・チェック作業の一部を同町内で行うことを決意。現在、大槌町のオフィスでは15名を雇用しており、今後はそれを拡大したいとのことでした。また、同社は被災地では珍しいIT系企業として、三陸の水産業のスマート化にも取り組んでいます。取材では、同社が開発した海上の養殖場の遠隔モニタリングシステムについて説明を受けたほか、大槌の新鮮な魚介も試食しました。
<岩手県立大槌高等学校復興研究会>
震災の教訓を次世代に繋げるために活動している復興研究会の生徒たちから会の活動について説明を受けるとともに、町の復興の様子を写真に残すために続けている「定点観測」作業の実演を見学しました。記者からは生徒たちに、将来も大槌町に残りたいかどうかやラグビーW杯釜石開催への思い、海外にアピールしたい大槌町の魅力などについて質問があがり、中には「被災地の自分たちが東京などから忘れられていると感じるか」、「あなたたちが大人になるころには、日本社会の女性差別はなくなっていくと思うか」といった質問もありました。
◆本プレスツアーに関連する報道の一部をご紹介します(タイトルはFPCJ仮訳)
Dagens byggeri(デンマーク/雑誌)
8月1日「Olympiske byggerier stjæler mandskab og materialer fra tsunami-projekter(オリンピックの建物が津波プロジェクトから人材と資材を盗む)」
Prothom Alo(バングラデシュ/新聞)
8月5日「রাগবি বিশ্বকাপ ঘিরে বিধ্বস্ত শহরে নবচাঞ্চল্য(ラグビーW杯が破壊された街に新たな希望をもたらす)」
南ドイツ新聞(ドイツ/新聞)
8月11日「Mauern vor dem Meer(海の前の壁) 」
9月17日「Und Japan bewegt sich doch(そしてまだ動いている) 」
Japan Today(日本/ネット)
8月12日「Kamaishi: True Japanese hospitality, and some of the freshest seafood around(釜石:真の日本のおもてなし、そして新鮮な海鮮)」