注目の日本報道

一覧に戻る

衆議院議員総選挙、日本は「安定」を選択

投稿日 : 2021年11月11日

注目すべき海外メディアの日本報道

(10月30日~11月2日)



衆議院議員総選挙、日本は「安定」を選択

 

 

 

 



【総括】

  10月31日に投開票が行われた衆議院選挙の結果について、海外メディアは、自民党が単独で過半数(絶対安定数)を確保し「予想を上回る勝利」を収めたとの見出しを掲げて速報し、英Economist紙、Financial Times紙、インドThe Hindu紙は「有権者は安定を選択した」と伝えた。米Wall Street Journal紙は、岸田首相が長期政権を築き、中国や北朝鮮による安全保障上の脅威に対抗するための安定した基盤を構築したとの見方を示した。

 今回の選挙の特徴として、初の5野党共闘での統一候補の擁立についても、各メディアが取り上げた。英FT紙は、意義ある政策協議もなく統一候補を組織することにのみ終始し有権者から信頼を得られなかったとの識者の見方を伝えた。一方で、議席数を4倍に伸ばした日本維新の会にも焦点が当てられ、英Guardian紙は、もはや保守層の支持政党は自民党だけではないとしつつ、「憲法改正の観点で自民との連立はあり得るかもしれない」との識者の見解を伝えた。韓国中央日報も「維新の会と組む『オプション』ができた」と論じた。

 新型コロナウイルスの感染拡大後、初めての国政選挙となり、感染第6波を見据えた今後のコロナ対応や経済対策などが主な争点となる中、岸田首相が公約として掲げる「新しい資本主義」については、意図や計画が曖昧(米AP通信、New York Times紙)、投資家と労働者のどちらの”声を聞く”のか(英BBC)といった指摘があったほか、英E紙は「その評価は来夏の参院選で問われる」と断じている。

 今回の選挙結果がもたらす外交・安全保障政策への影響については、英Times紙は「その継続性が確保され、日本は引き続き米国や西側の同盟国と連携し、中国に対抗していくことになるだろう」と論じた。豪Sidney Morning Herald紙も「(中国への対応を強化するうえで)独自の考えに基づいて政治を行うことができることになる」と報じた。他方、韓国メディアは、韓日関係における強硬路線は続き、すぐに改善される可能性は少ないとの見通しを示した。

 

 

【英国】

Financial Times紙は、「与党 自民党が総選挙で勝利を収める」(Kana Inagaki 東京支局長、Leo Lewis記者)で、自民党の10年に及ぶ政権掌握疲れが全国に広がる中、岸田首相は予想を超える大勝利を収め、投資家の政権安定への見通しが高まり、市場が上昇したと報じた。野党は有権者の自民党への不満を梃子に「共闘」に出たが、意義ある政策協議もなく統一候補を組織することに終始したため、有権者から信頼を得られなかったとする識者の見方を伝えた。また「岸田首相、批判を覆し、野党を制す」(Kana Inagaki 東京支局長)では、岸田首相は「政権への信任を頂いた」との宣言に充分な議席を獲得して与党の座を維持したとし、コロナ対応と経済対策の功罪が問われるかと思われたが、投票率は戦後史上3番目に低く、慎重な有権者は安定を選択したと報じた。自民党の勝利については、「共産と連携した立民への不信を自民が巧妙に利用」「自民および共闘5野党への不満票が維新に流れた」「岸田政権が信任を得たとの判断は時期尚早。今回は傑出した候補者や政策もなく、”顔のない選挙”が低投票率を招いた」など複数の識者の見解を紹介した。

 

The Economist紙は、「日本の与党、また一つ選挙を制す」で、投票率の低さについて、結党以来ほぼ一党優位体制を続けてきた自民党は、有権者の無関心さの恩恵を受けているとし、コロナ対策が与党の議席減の原動力となる一方で、岸田首相の支持率の低さにもかかわらず、野党が議席を失い、自民党が最大野党の倍以上の議席を獲得したことから、有権者は安定を選んだと論じた。岸田首相はコロナ後の経済再生に取り掛かり、まずは曖昧な公約の「新資本主義」の具体化を迫られるが、その評価は来夏の参院選で問われると結んだ。

 

The Guardian紙は、「岸田文雄率いる与党、衆議院選挙で快勝」(Justin McCurry東京特派員)で、コロナからの経済再生を試みる岸田首相への弾みとなるだろうとする一方で、首相は世界第三の経済としてより詳細な政策を提言するため、そして感染第6波により巧く対応できる医療インフラを整備するための圧力に晒されるだろうとの見方を示した。また、防衛予算は平和憲法の下でGDP比1%枠を維持してきているが、どんな試みにせよこの象徴的な障壁を突破すれば、国内世論の抵抗と中国の反発を招くだろうと警告した。また、「衆議院選挙、大阪で右派政党が圧勝」(同特派員)で、日本維新の会は、自民・公明に幻滅した保守層と社民・共産を含む共闘5野党に流れなかった票を取り込んで成功したとし、自民党とは防衛予算増額や対中・北朝鮮強硬路線への意欲を共有していると分析。但し、国政選挙勢力としての維新の会の台頭は、もはや保守層の支持政党は自民党だけではないことを岸田首相に喚起したとした上で、維新は「新資本主義への抵抗勢力となる」「憲法改正の観点で自民との連立はあり得るかもしれない」との識者の見解を伝えた。

 

The Times紙は、「日本の首相は議席を失ったが、党が握る権力を強化した(Richard Lloyd Parry東京支局長)で、コロナ対応で支持率が低下した中、予想をはるかに上回る結果となったとし、外交・安全保障政策の継続性が確保され、日本は引き続き米国や西側の同盟国と連携し、中国に対抗していくことになるとの見方を示した。岸田首相は今後数ヶ月の間にどのような政策を打ち出そうとも、国民の支持を得られることを党内に示さなければならない、或いは就任1年で退陣した菅氏のような運命が危ぶまれると論じた。

 

BBCは、「岸田首相、自民与党の勝利宣言」で、予想に反した単独過半数獲得は就任直後の岸田首相の大勝利であり、週明けの市場の反応は景気対策案の国会通過への期待の高まりを示したと報じた。また、「岸田首相は新資本主義をどのように約束するのか」では、所信表明で分配を強調した岸田首相は、アベノミクスの踏襲如何に拘らず、問題は労働者層の不満にどう対処するのかだとした上で、日本の成長は所得配分に至るほどではないので、課税により企業の現預金を投資に回し成長を促すべきとする投資家の見解を紹介しつつ、当初の金融所得課税の主張を和らげた首相は今後投資家と労働者のどちらの”声を聴く”のかが政策立案のカギとなると報じた。

 

 

【米国】

The Wall Street Journal紙は、「日本の与党、選挙で過半数を維持」(Peter Landers東京支局長)で、岸田首相が長期政権を築き、中国や北朝鮮による安全保障上の脅威に対抗するための安定した基盤を構築したと伝え、防衛費をGDP比2%に増額するとの公約について、エマニュエル次期駐日大使候補は「日本にはより大きな脅威があり、果たすべきより重要な役割があると自覚していることの表れ」であり「日米同盟に必須だ」と述べたと報じた。他方、「日本の選挙、女性の議席増に失敗」(Megumi Fujikawa記者では、当選した候補者の内、女性は10人に1人にも満たないとした上で、今回の総選挙では衆院465議席のうち女性は僅か45議席(9.7%)となり、法制化など女性議員増加の試みに反して変化は遅く、初当選者の多くは引退した高齢の男性議員の息子や男性後継者であると報じている。

 

  CNN「自民党安定多数を維持し、岸田首相、予想を覆す」(ロイター電)で、自公連立による過半数必至との予想や出口調査に反する意外な結果だが、就任一か月の岸田首相にとって大勝利となる単独過半数を確保したと報じた。これにより首相は難しい党運営における足場を固め、カリスマ性がないとのイメージ払しょくへの弾みとなりそうだと見る一方で、大阪を席捲した日本維新の会が保守層の要として台頭し、経済格差の解消を謳う新資本主義に対する抵抗勢力となるだろうとの識者のコメントを引用して伝えた。

 

The New York Times紙は、「日本の総選挙は、与党が眠っていたにもかかわらず、通常より接戦だった」(Motoko Rich東京支局長、Hisako Ueno記者、Makiko Inoue記者)で、岸田首相の選出という賭けにでた自民党は地方票が犠牲になる接戦を強いられたが単独過半数は維持、一方で経済対策やコロナ対応に対する国民の不満から、党幹部を含む議席を失ったと報じた。また、岸田首相の台頭は自民党の権力が日本に定着していることを強く反映しているとしつつも、提唱する「新資本主義」は選挙戦を経て曖昧になったと指摘した。 

 

AP通信は、「日本の岸田首相の連立は、議席を減らすも過半数を維持する」(Mari Yamaguchi記者)で、岸田文雄首相の連立政権は、議席を減らしたものの過半数を維持、最大野党の立憲民主党や共産党の議席が後退し、維新の会が大幅な議席増となったとの結果を伝えた。また、今回の候補者のうち女性は僅か17%であったことを指摘し、ジェンダーの専門家は「女性のいない民主主義」と呼んでいると触れた。同日付「日本の岸田氏、信任を得るが、経済政策は不透明」(Yuri Kageyama記者)では、岸田首相は、「新しい資本主義」を掲げ、世界第3位の経済が停滞するのを防ぐにはより平等な富の分配が必要だと語るが、”キシダノミクス”の意図するところは不明であるとみる向きが多いとし、ある経済専門家は「日本の持続可能な成長のために必要なのは規制緩和とより自由な労働市場だが、自民党にとって既得権益層を揺るがす政治的リスクがある」と話している、と報じた。

 

Washington Post紙は、「与党は過半数を維持するが、コロナ対策の負の結果として議席を失う」(Michelle Ye Hee Lee東京支局長、Julia Mio Inuma記者)で、自民党は465議席の過半数を獲得する見込みであり、コロナ対策に不満を持つ有権者の票を野党に奪われ議席数を減らすことになるだろうが、1955年の結党以来築いてきた日本政治の牙城を維持すると報じた。落選した甘利氏の「コロナ禍で有権者の不安や不満が溜まっていた」とのコメントや投票率の低さにも触れ、今回投票率が僅かに上昇した要因として、経済・コロナ対策を不満とする活動家が若い有権者の投票を促そうと啓発に努めた、と説明した。

 

 

【韓国】

中央日報紙「261議席の力を得た岸田氏、韓日関係の強硬路線は続く見込み」(イ・ヨンヒ特派員ほか)では、「(岸田首相の)就任から1か月後の総選挙において、自民党の保守路線に対する国民の支持を再確認したことで、韓日関係における強硬路線も続く見通しだ」と述べ、韓国政府にとっては韓日関係の改善に向けて困難な状況が続くと論じた。また、「日本の選挙、真の勝者は強硬右翼『日本維新の会』・・・第三党に躍進」(キム・ヒョンキ東京総局長兼巡回特派員)は、衆院選で大幅に議席を増やした日本維新の会について、「『慰安婦は必要だった』(2013年)という発言で物議を醸した橋下氏の性向のように、強硬な政策が多い」と紹介。「自民党としては『平和主義』を掲げる連立与党の公明党とあえて手を組まなくても、日本維新の会と組む『オプション』ができた」と論じた。

 

朝鮮日報紙「『自民党単独過半数確保』・・・議席数は30ほど減る見込み(チェ・ウンギョン特派員)は、自民党が単独過半数を確保したことを速報しつつ、日本では来年7月には参院選が控えており、日韓関係には「当分の間、大きな変化を期待しにくい」との見通しを示した。「林芳正氏・小渕優子氏…「知韓派議員」も世代交代」(同特派員)では、「これまで韓日関係のために力を尽くしてきた」二階俊博氏の自民党幹事長退任と河村建夫元官房長官の引退に触れた上で、今回当選した議員のうちで「韓国に対して強硬な姿勢になった日本政界において、韓日関係のために立ち上がってくれると期待を集めている」政治家として、自民党の林芳正氏と小渕優子氏の名前を挙げた。

 

東亜日報紙過半数を守った岸田氏、韓日関係の突破口より『管理モード』予想」(パク・ヒョンジュン特派員ほか)は、岸田首相は徴用工問題について、まず韓国側が解決策を示すことを求めており、岸田政権との間で両国関係がすぐに改善する可能性は低いと指摘。少なくとも来年の韓国大統領選までは岸田政権は両国関係を「管理モード」で行く可能性が高い、との韓国の外交消息筋による見通しを伝えた。

 

 

【シンガポール、豪州、インド】

The Straits Times紙「自民党にとって予想を上回る結果となった衆院選後、岸田総理は有権者の信頼を勝ち取ったと述べる」(Walter Sim記者)で、「有権者は与党に投票することで、安定した政治の下で、この国の未来を作り上げてもらいたいとの民意が示された」との岸田首相の発言を紹介し、優先順位が高い政策として、大規模経済対策や国家安全保障戦略の改訂を挙げた。また、自公合わせて293議席は改選前から微減だが、日本の政治が不安定化するとの市場の懸念を払しょくするものとなったと報じた。


Sidney Morning Herald紙「首相(自民党)が過半数を確保した日本は中国へのタカ派姿勢を維持」で、与党自民党は、中国への対応を強化するうえで、平和主義の政党と連立政権を組まざるを得なくなるとの予想を振り払い、独自の考えに基づいて政治を行うことができることになると報じた。また、岸田首相は外相時代には、「自由で開かれたインド太平洋」を推進し、対中政策については、台湾海峡が次の大きな問題となるとの考えで、防衛予算を対GDP比2%へと倍増する政策を支持していると紹介した。


The Hindu紙は社説「安定への一票:日本での岸田文雄の勝利について」で、過半数維持のため公明党との連立に頼らざるを得ないとの選挙前の大方の予想を裏切り、自民党が圧勝したとし、今後の喫緊の課題として、パンデミック対策、経済、安全保障面での対中関係を挙げた。それほど高い世論の支持もない岸田首相は、防衛費の大幅増を求める党内保守勢力の要求に留意していかざるを得ないだろうと指摘。今回の選挙では、安定した政治への信任票が投じられ、国内政治における自民党の比類なき優位性を再確認することとなったと結論付けた。


(了)


FPCJとは
取材協力
取材に役立つ情報
活動の記録
外国への情報発信