注目の日本報道

一覧に戻る

東京2020オリンピック閉幕、大会の評価

投稿日 : 2021年08月21日

注目すべき海外メディアの日本報道

(8月7日~12日)

 

東京2020オリンピック閉幕、大会の評価



 

コロナ禍で1年延期となった東京2020オリンピック競技大会は17日間の日程をすべて終えて8月8日夜、閉幕した。英米主要メディアは、緊急事態宣言下で無観客開催となった異例の大会は、選手や関係者間の感染も抑制され目立った混乱もなく閉会したとして、概ね肯定的な論調で報じた。日本は史上最多となる58個のメダルを獲得し、事前の反対世論も活躍する選手への賞賛へと転じたとする一方で、感染拡大に歯止めのかからない状況について秋の総選挙を控えた菅首相の支持率低下にも触れつつ伝えた。また、今大会を総括して、「唯一無二(like no other)の五輪」、不朽の名作(classic)として記憶される、選手が自らの精神不調を公言した点で画期的などと評価しつつも、コロナ禍の五輪が日本に複雑なレガシーを残すという見方や、収益を優先し一貫して開催に拘ったIOCの体質への批判も示された。 

 

【英国】

 

The Times紙は、8日付東京五輪はこれまでにない貴重な思い出と瞬間を与えてくれた」(Matt Dickinsonチーフスポーツライター)で、東京五輪は、様々な理由から開催は不可能と思われ、パンデミックの中でやるべきではないとされていたが、英国選手団にとっては、1年遅れでようやく開催されたことをとても喜び、ロンドン大会に並ぶ65個のメダルを獲得し、最高の大会の1つと記憶されると報じている。この大会はジェンダーバランスや、サーフィン、クライミングなどの種目といった点で明らかに、より現代的な印象を与えたと評した。また、日本では、自らが参加できないイベントに対する国民の経済負担や、大会がスーパースプレッダーになるとの懸念もあったとしつつも、途方もなく困難な状況下でも可能な最良の大会を準備したホストとして、心からの感謝を受けるに値するとの見方を示した。

 また、9日付風変わりな五輪、日本から別れを告げ、そしてパリへ」(Richard Lloyd Parry東京支局長)では、日本が金27個を含む過去最多の58個のメダルを獲得した傑出した大会は目だった惨事もなく終了し、開催前に国民の大多数が反対した五輪への不満が広がったり、無観客に苛立ったりすることもなかったが、パンデミックの猛威が五輪報道の盛り上がりに影を落としたと報じた。また、感染症が五輪バブルから市中に広がったとする証拠はなく、1日の感染者数が5,000名を超えて最悪を記録した東京に比べ、大会関係者の感染は430件のみと公表されたと伝えた。さらに、開会式は繊細で美しかったが、あたかもその見事なドローンディスプレイに全予算をつぎ込んでしまったかのごとく、閉会式は精彩を欠き、風変りで支離滅裂であったと表現した。

 

The Guardian紙は、8日付東京、優雅さと安堵感と共に大会に別れを告げる」(Barney Ronayチーフスポーツライター)は、閉会式の様子を紹介しながら「問題を抱えながらも静かな輝きを放ち、世界は楽しいものであることを思い出させてくれた」と評価しつつ、五輪開催への抗議やその意義を問う世論についても触れ、「東京は温かく、礼儀正しく、機知に富んだホストであったが、問題を抱えたホストでもあった」と報じている。一方、同日付五輪のメダル勘定とコロナ感染者が増えるにつれ、日本ではプライドと不安が入り混じる」(Justin McCurry東京特派員)は、感染対策とスポーツが上手く組み合わさって大会が成功したかとの問いは、誰に尋ねるかによって答えが異なるとする。バッハ会長や菅首相は大会と感染拡大に関連性はないとしているものの、信頼できる回答は、選手やメディア、スポンサー、関係者が去った後までずっと待たなければならないが、おそらく日本国民だけが、数十億ドルの経費の一部を負担したにも拘らず参加できなかった五輪の開催がリスクを取るに相応しいものであったかどうかを判断できるだろうと論じた。

 

BBC(電子版)は7日付「東京五輪、緊急事態下のスポーツマンらしいドラマだが、果たして大会はどのように記憶されるのか?」(Dan Roanスポーツ・エディター)で、”Covid Olympics”の17日間は、スポーツが持つ反発力とホスト側のしなやかな対応力を力強く表したとし、幾多の試練を思うと、大会が無事終了し数多くの特別な瞬間をもたらしたことは、ちょっとした奇跡だと総括しつつ、大会は不朽の名作(classic)として記憶されると評している。緊急事態下でも普段と変わらぬ東京で、大規模な屋外の競技場を無観客とする理由が理解しがたいとしつつも、大会関係者の感染が438人に留まったことで、大規模な大会でも、厳格な実施要項によってウイルスを封じ込められることを証明したとスポーツ界は思うだろうと報じる。

 翌8日付「東京五輪、無観客大会の終わりを告げる閉会式」では、パンデミックで延期された上、無観客で開催された東京五輪が陽気な閉会式で幕を閉じたとし、選手たちは努力と忍耐によって信じがたい困難に打ち勝ったとし、彼らを「本物のオリンピアン」と讃えた橋本組織委会長の閉会挨拶を紹介。また、警告に反し、五輪史上最高気温の35度に達する中でトライアスロンやBMXなどの屋外競技を観戦した人々もいたとも報じている。

 

Financial Times紙は、8日付「パンデミックに襲われた五輪後、東京はパリに聖火を手渡す」(Robin Harding東京支局長ほか)で、日本は金メダル獲得数27個と過去最多で、米国、中国に次ぎ3位となったとし、この結果は、自国選手たちのパフォーマンスに対する誇り、一方でコロナ感染拡大への懸念、一般国民はテレビ観戦しかできず、この250億ドルのイベントと断絶されたような思いなど、入り混じった感情を浮き彫りにしたと評した。また、秋の総選挙を控えた菅首相は、パラリンピックを有観客とするか難しい判断を迫られるとした。閉会式は、パンデミックによってもたらされた劇的な変化がみられ、7月23日の開会式と同様かなり控え目な印象を与えたとする一方で、大会期間中は激しい猛暑と湿気が選手たちを襲ったが、懸念された混乱もなく、陸上競技では世界記録が生まれたと報じた。

 

The Economist紙は、7日付五輪が惨事なく終わり、日本は安堵のため息をつくで、今大会を人類がコロナウイルスを克服した象徴とすることは早計であり、むしろパンデミックの間の日々が如何に奇妙で緊迫したものになったかの事例として記憶され、日本にとって複雑なレガシーを残すだろうとする。その根拠として同紙は、メダル獲得数は史上最多だが閉会前日の感染者数も過去最多を記録したこと、開会前は危惧していた国民も開会後は選手の活躍を賞賛していること、一方でIOCから名誉金メダルを贈られた菅首相の支持率は35%以下を記録し、望んでいたようにはいかなかったこと、開会式のスタジアムの外では抗議活動が行われこと、バブル行動制限下の選手、大会関係者の陽性者数は抑制された一方で緊急事態宣言は拡大されたが効果がなかったこと、などを挙げながら論じた。

 

【米国】

 

CNN(電子版)は8日付「唯一無二の五輪閉幕、残された遺産に思い巡らす日本」(Emiko Jozuka記者)で、「経済再生と震災復興」を謳うはずたった東京大会は延期と共に「世界の力の結集によるパンデミック克服」へとメッセージを変え、開催を巡って複雑且つ対立していた世論も開幕後の日本選手の躍進と共に最善を尽くす競技者を称賛するムードへと転じたが、閉幕後の日本には、今大会が後世に語り継ぐレガシーへの取組が残されているとし、日本は不可能を可能にしたのか、或いは異例の大会がもたらした結果への対応に追われることになるのか、引き続き注視されると報じた。

 「唯一無二の五輪」と題する東京五輪総集編ページでは、「東京五輪は1年延期の後、ほぼ無観客で開催されたが、大会に落胆はなかった」と総括し、大会競技の感動的なハイライトシーンを躍動感ある画像で多数紹介すると共に、精神的不調を訴えながらも健闘したバイルズ選手から10代日本女子がメダルを独占したスケートボードまで「注目すべき瞬間」を取り上げた記事と動画を掲載。また、大会参加に至るまでの様々な選手のエピソードを紹介しており、この中には、五輪参加資金調達のためウーバーイーツで働くロンドン五輪フェンシング銀メダリストの三宅諒選手や、1年延期が決まっても南スーダン陸上選手団の支援を続けた群馬県前橋市が含まれている。

 また、12日付オピニオンに、東京大学公共政策大学院・鈴木一人教授寄稿による「東京五輪開催は妥当だった」を掲載。鈴木教授は、開幕直後の日経の世論調査では再延期・中止すべきが31%だけだったとし、それ以外は開催を肯定したのは、選手村での適切な対策により感染が許容範囲内に抑えられているとの認識に基づくとした上で、①無観客開催が人々の感情を和らげた、②ワクチン接種ペースが加速し接種率の向上が自信につながった、③選手・関係者の低陽性率でバブル方式が一定の信頼を得た、ことが要因であると分析している。

 

The Washington Post紙は、8日付「五輪の魔法はパンデミックの憂鬱な空気を切り裂くも、東京五輪のレガシーは複雑」(Simon Denyer記者、Michelle Ye Hee Lee東京支局長) で、五輪開催に批判的な識者のコメントを紹介しながらも、日本はパンデミックの真っ只中に五輪を開催できることを世界に示し、表彰台で選手はマスクを着け、自分の首にメダルをかけるなどの息苦しいと思われるルールや厳しい制限は競技開催に効果的であることが証明されたと評価した。また、同日付「パンデミックの中イベントに参加した選手とボランティアへのほろ苦い送別と共に、東京五輪閉会」(Michelle Ye Hee Lee東京支局長)では、混乱、不確実、奇妙さ、栄光の瞬間を経て、五輪は無観客での開会式と同様の様相を呈し閉会を迎えたと閉会式の様子を伝えた。日本国内の新規感染者の増加は、五輪開催とは無関係とする政府関係者と、五輪の雰囲気が人々の感染リスクへの意識を低下させているとの専門家の意見を紹介し、また、世論も開会後は反対の意見は減少したが、感染拡大を懸念して反対する声は依然として根強かったと報じた。

 

The New York Times紙は、8日付五輪は、開幕と同様、奇妙に閉幕した」(Motoko Rich東京支局長)では、無観客で開催された今大会は、近年の五輪の中で最も奇妙な大会の1つであるとしながらも、最近のどの大会よりも試合にリアリティーがあり、1年半にわたるコロナ禍の不満と惨事からひと時の猶予を求めるよう視聴者をいざない、且つ、競い合いのドラマとスポーツマンシップの真剣勝負は、感染者数が刻々と増加する日常からの気分転換となったと報じた。一方で、日本での根強い反対世論にも拘わらず、また、放送収益の最大化を視野に猛暑下の東京での開催に踏み切り、結果としてテニスやサッカー、陸上競技などへの影響が否めなかったことから、IOCの持つ非民主主義的な体質が露呈したと報じた。

 

Wall Street Journal紙は、8日付「新型コロナと日本国民との闘いの末、閉会式で憂鬱な東京五輪終わる」(Alastair Gale記者、 Rachel Bachman記者)で、祝祭的雰囲気を犠牲にし、感染拡大防止のため無観客で開催された大会は、選手や関係者に数十の感染者がでたものの、概ね目的通りに機能し、大会の内外で感染拡大につながったという証拠はほとんどなかったとする。しかし一方で、国民の最大の懸念は感染拡大であり、さらに五輪への矛盾した感情が続いていることから、秋の総選挙で自らの責任を問われる菅首相とって、日本の記録的メダル獲得数からの後押しは得られないだろうと報じた。さらに米バイルス選手等を例に挙げ、スポーツの世界で、選手が自らの精神衛生の問題を公言したという点で、今大会は画期的な大会だったとの見方を示した。

 

AP通信は8日付「すべて寄せ集め:不安定なパンデミック下の五輪、微妙な意味合いを含んで終幕」(Ted Anthony国際ディレクター)を掲載し、パンデミック再拡大の真っただ中に開催され、高まる反対世論と、管理上の問題が何か月もはびこった大会は、これまでなかった運営上の問題や医療の障壁を提示し、精神衛生に関する真剣な議論を生んだと分析。事前に大会終末論も叫ばれたが、閉会時には「困難な状況下でも世界に希望を与えた」とのバッハ会長の言葉を紹介する一方で、本来五輪はどうあるべきなのかが問われたとし、東京が多くの困難を乗り越えたというのは安易であり、今後、北京が同じ問題に取り組むことになると指摘した。

 また、9日付日本の首相、パンデミック下の安全な大会実施を国民に感謝」(Mari Yamaguchi記者)では、感染拡大下の安全な大会実施に向けた国民の支援に対して「開催国としての責任を果たすことができた」との菅首相の感謝の言葉を伝えると共に、大会は粘り強さの証だったとし、首相が日本史上最多58個のメダルを獲得した選手を称えた際の「メダルの獲得有無にかかわらず、どの試合も感動的だった」との発言を報じた。また、菅首相が原爆投下76年となる長崎の記念式典のスピーチでも五輪について触れたことや、バイデン米大統領が開催国日本の成功を表し、菅首相との電話で、五輪同様の感染症対策をとりつつ開催されるパラリンピックへの支援を伝えたことについても報じた。

 

(了)


FPCJとは
取材協力
取材に役立つ情報
活動の記録
外国への情報発信