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福島第一原発処理水の海洋放出を決定

投稿日 : 2021年04月23日

注目すべき海外メディアの日本報道


(4月13日~15日)



福島第一原発処理水の海洋放出を決定



 

 

4月13日、日本政府は福島第一原発の処理水を海洋放出する計画を発表した。これを受けて、海外メディアは、日本政府や東京電力の説明を裏付ける科学的根拠や、IAEA及び海外専門家の見解を紹介しつつ、 地元の漁業関係者の反発や、近隣諸国は深刻な懸念を示したとして、国内外の様々な反応を同日付で速報、いくつかは翌日付で社説を掲載した。

 

 

【米国】

The Washington Post紙は、「日本は、福島原発の水を処理後に海洋に放出する」(Simon Denyer東京支局長)と題し、政府と東京電力は海洋放出の安全性に自信をもつ強い科学的根拠があると表明しているとした上で、グロッシIAEA事務局長の決定歓迎、米国務省の「透明性ある日本の決定」支持に加えて、英専門家の「健康上のリスクはない」とのコメントを引用。「極めて無責任だ」と非難する中国や「深刻な懸念」を示す韓国でも、水や蒸気を介して同程度量のトリチウムを環境に放出する原子炉を運転していると紹介。さらに、福島県産の食品・水産物について、政府と東電は米国やEUよりはるかに厳しい基準で安全性を確認しているが、これまでの経緯から国民の不信に直面している、と報じている。

 

 

The New York Times紙は、「日本の福島廃水計画はアジアの不信の壁に直面している」(Ben Dooley東京特派員、Makiko Inoue記者)で、中国・韓国・台湾やグリーンピースからの批判を浴びているが、日本政府は処理水が安全基準の範囲内であると述べ、海洋放出は世界中で日常的に行われていると指摘し、批判は非科学的であると退けたと報じた。さらに、福島では漁業への影響が懸念されており、海洋放出計画には米国の支持、IAEAの承認があるものの、このような安心感の醸成と地元の騒々しい反応との間には著しいズレがあると伝えると共に、領土、貿易、第二次大戦に絡む歴史問題などが日中、日韓関係を緊張させており、それが様々な問題についての政府間の対話に飛び火していると報じた。

 

 

CNN(電子版)は、「日本は福島処理水の海洋放出を2年後に開始」(Blake Essingtou東京特派員他)で、海洋放出計画は、国内の反発と近隣国の深刻な懸念を招いているが、日本政府は、処理水についてトリチウム以外のほとんどの放射性物質が除去され少量では人体に影響がない、国内基準を下回ると共に国際基準にも準拠、放出工程はIAEAが監視する等と説明しているとした上で、グロッシIAEA事務局長はCNNに「北大西洋、地中海など世界の多くの場所で放出されており、環境への悪影響もない」と語ったと報じた。

 

 

The Wall Street Journal紙「日本は低放射線量の福島の水を海に放出」(Alastair Gale記者)で、2011年メルトダウンの打撃からの再生に苦闘している地元水産業界からの反対にも拘らず、日本政府は低レベル放射線含有水の海洋放出を決定したと報じた。また、この決定は、「日本の挑戦的な状況への共感」を表明する米国と、「極めて無責任、近隣国の人々の健康と利益に直接影響する」と非難する中国との新たな対立を招いたとの見方を示しつつ、「基準をはるかに超える安全性を確保する」との菅首相の発言や、「国際的にも優れた取り組み」とのIAEAによる評価や、世界の原発も同様に放出しており、健康へのリスクはほとんどないとの見解について報じている。

 

 

【英国】

Financial Times紙は、「日本、福島原発の汚染水を太平洋に放出」(Robin Harding東京支局長)で、福島原発から太平洋に100万トン以上の汚染水(contaminated water)を放出する計画は、環境活動家や漁業関係者、近隣諸国から非難を浴びると共に、原発事故のトラウマを甦らせ、汚染の遺産を悪化させる危険がある、と報じた。保管場所が尽きたため放出以外の選択肢はない、健康リスクはないので世界で稼働中の原発は毎日同様の水を放出しているとの日本政府の見解を紹介した上で、トリチウムの希釈基準などについて詳しく説明。最後に、中国は「深刻な懸念」、韓国は「強い遺憾」を表明しているが、米国は日本の方針を慎重に支持している、と結んでいる。

 

 

The Times紙は、「福島の放射性廃水、太平洋に流し込まれる」(Richard Lloyd Parry東京支局長)で、安全性を確保するとの政府及び東京電力の説明や処理方法について詳述しつつも、濾過によりトリチウム以外の全ての放射性元素が除去された希釈水が世界中の原発から日常的に海に放出されているが、ストロンチウム90やヨード129などより危険な放射性物質の微量元素が海水から検出されており、環境や原子力専門家の中には、海洋放出は様々な悪い選択肢の中での最良のものだとの見方がある、と報じている。翌14日付社説「損傷した福島原発の処理、汚染水の海洋投入は危険だが、日本の選択肢僅か」では、日本の決定に対し国際社会から懸念の声が挙がっているが、日本にとって選択肢は少なく、他に良い方法もないと論じている。米国は日本の提案を慎重に支持する構えであり、国際的に容認された原子力の基準を維持しつつ解決を模索する日本の透明性への賛同を表明しているが、懸念の声は世界中にこだましているとしつつ、その共鳴が日本の再生可能エネルギーへの転換を加速させ、福島がその刺激となるかもしれないと結んでいる。

 

 

The Economist紙は、「福島原発廃水についての日本の回答は、海に入れる」で、有害なトリチウム含有水の濃度を国際的に容認された限度を下回るまで海水で希釈する方法を、日本の最重要同盟国である米国とIAEAは支持したとし、「日本の選択した方法は技術的に実現可能であり国際的慣行に沿ったもの」とのグロッシIAEA事務局長のコメントを引用。他方で、韓国、中国、台湾は安全上の懸念を提起し、さらに地元漁師や環境活動家は反対を続けているが、これらの懐疑論は専門家や公的機関への永続的な不信という大災害のもう一つの遺産であり、処理水放出により福島の再建は容易になるかもしれないが信頼の回復への助けにはならない、と論じている。

 

 

The Guardian紙は、「福島:日本は汚染水を海に投げ捨てると発表」(Justin McCurry東京特派員他)で、原発事故から10年を経て、この決定は中国など近隣国や地元漁師らの怒りを買い、長年この措置に反対してきた福島の水産業界に更なる打撃を与えるだろうとした上で、「福島やアジア太平洋地域の人権と利益を無視するものとして強く非難する」との環境団体、地元漁業関係者、韓国メディア、中国外務省の声明等を引用する一方で、「福島原発からの処理水(treated water)放出決定において日本の透明性ある努力に感謝する」とのブリンケン米国務長官のツイートを紹介。また、政府関係者は「汚染水」ではなく「処理水」とのメディア表記に拘るが、環境団体は「確かに処理水であるが、放射性物質で汚染されてもいる」と指摘している、と報じた。

 

 

BBC(電子版)は、「福島:日本は廃水の海洋放出を承認」で、日本は、破壊された原発からの100万トン以上の 汚染水を海洋放出する計画を承認したとし、その水は飲料水以上のレベルまで処理、希釈されるが、地元の水産業は中国や韓国同様に強く反発していると報じている。複雑な濾過工程を経てほとんどの放射性物質が除去されるものの、大量に摂取した場合にのみ人体に有害なトリチウムが残されると指摘。反対するグリーンピースや地元漁業関係者の声、中国及び韓国政府の反応を紹介しつつ、「国際的な原子力安全基準に合致したものと理解する」との米国政府のコメントや、日本の計画はIAEAの支持も受けているとし、グロッシ事務局長の「海洋放出はどこでも行われており、新しいことでもスキャンダルでもない」との発言を紹介している。

 

 

【韓国】

朝鮮日報の14日付社説「日本の福島汚染水放流決定、隣接国の不安には配慮しなかった」は、今回の海洋放出が韓国国民の健康や生態系に影響を及ぼさないという専門家の意見が多いことや、韓国国内の原発団地からも相当量のトリチウムを含む水が放流されていることにも触れた上で、海洋放出前に処理水を二次処理しトリチウム以外の放射性物質を除去するとの日本政府の説明について、「隣接国の不安を払拭できる透明なモニタリングの仕組みを提示できなかった」と指摘。さらに、海洋放出以外には方法がないとの日本側の説明について、原発の敷地外に保管場所を確保して放射線量が減るのを待つことも可能だったのではないかと疑問を呈した。

 

 

中央日報は、二日連続で社説を掲載。14日付「極めて遺憾な福島汚染水の放流決定」は、韓国国内では海洋放出による生態系や健康への影響に対する懸念が大きいとして日本政府の決定に「強い遺憾」を表明した上で、「今からでも日本は汚染水の放流が自国だけの問題でなく、世界レベルでの問題という認識をより確かに持ってほしい。汚染水は海流に乗って全世界の海に流れ込むためだ」と注文をつけた。翌15日付「福島汚染水放出決定、韓国政府はそれまで何をしていたのか」は、米国とIAEAが日本政府の決定を支持する姿勢を相次いで表明したことを受けて、韓国政府が日本による水面下での国際的な働きかけに対応できなかったことを厳しく批判する一方、今後については、政府に「断固かつ徹底した」対応を求めつつも、「非科学的な怪談で恐怖心を必要以上にあおってはならず、政治的意図で反日感情を扇動してもいけない。政府は今からでも緻密な戦略下に実効性のある対応策を作らなくてはならない」と論じた。

 

 

東亜日報の14日付社説「周辺国の懸念も国内反発も無視した日本の汚染水放出決定」は、日本政府による今回の決定について、「周辺国との協議や了解のない一方的な措置という点で非難は免れない」、「無責任を越え、傲慢なやり方と言わざるを得ない」と批判。その上で、韓国政府は冷静かつ徹底して対応しなければならないとして、 放射能流入の監視、原産地の取締り強化など国民の不安を解消するために政府をあげて対応することが必要だと主張した。

 

 

 

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