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国際ジャーナリスト会議2012「東日本大震災とメディアの役割―内外メディアの視点」からの報告(2012年4月12日)

投稿日 : 2012年04月12日

【ウォッチ・ジャパン・なう vol.22/FPCJ】

2012年4月12日

 

平成24年3月23日、外務省は「東日本大震災とメディアの役割―内外メディアの視点」というテーマの下、「国際ジャーナリスト会議2012」を開催しました。(会場:(独)国際協力機構(JICA)研究所2階 国際会議場、聴衆約120名、事務局:フォーリン・プレスセンター)

 

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大震災から1年。政府は、被災地の復興や原発事故との戦いに全力を注いでいます。日本のメディアと外国メディアはどのように東日本大震災を報じてきたのでしょうか。震災をめぐる国内外の報道の問題点や限界、あるべき姿とは何でしょうか。本シンポジウムは,震災が提起した諸問題について、第一線で活躍する国内外のジャーナリストを迎えて、国際的な意見交換を行うことを目的としました。4時間に及んだ本会議は「国内外の震災報道の検証」及び「復興とメディア」の2つのセッションからなり、各セッションでは、内外6人のパネリストがそれぞれ冒頭発言を行い、その後活発かつ有意義な討議が行われました。

 

会議の議長を務めた、毎日新聞社論説室・専門編集委員の布施広氏は、「震災後の日本が抱える問題は多い。だが、このような時こそ、メディアの存在が問われる。正しい情報を伝えるだけでなく、正しい方向に進むための議論をリードしていくのがメディアの役割だと信じている」と、討議を総括しました。以下、本シンポジウムの概要を報告します。(→会議プログラムはこちら

 

【横井外務報道官による開会挨拶】

会議冒頭、主催者の外務省を代表して横井外務報道官より、本会議は危機に際しての政府の情報発信、そしてメディアの報道のあり方について議論するためのものである旨、及び、国際的で多角的な議論、ジャーナリズムに徹した、正確な情報に基づく議論、震災復興の後押しへとつながること、の3点を期待する旨、さらに、震災後の風評被害について、多くの国で日本産品の輸入規制や日本への渡航規制が依然として行われているところ、日本政府として引き続き科学的なデータを迅速に提供していくので、最新の状況に見合った見直し・緩和を求めたく、この点においてもメディアの果たす役割は大きいと考える旨述べました。

 

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【布施議長による冒頭挨拶】

 

第1セッションでは「震災の被害と報道をめぐる諸問題」を論じる。この震災は津波、原発事故も絡む複合的災害であり、「フクシマ」という単語が世界を駆け巡っているという状況の下、「原子力をめぐる議論」として第2セッションを設けた。1年が過ぎても「震災」は全く古くなっていないばかりか、失われたものの大きさをひしひしと感じる。決して危機が去っていない今、新たに仕切り直す気持ちで1年の報道を振り返ってみたい。今回は海外7か国からのパネリストには東北の被災地を視察して本シンポジウムに臨んでもらった。危機が終わっていない厳しい状況の中の議論であればこそ、率直な意見を闘わせたい。

 

【第1セッション「国内外の震災報道の検証」】

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・出石直 NHK 解説委員(国際担当) (写真右)

NHKは、地震発生の30秒後には速報を行い、6分後には現地からのライブ映像を放送、 24分後には仙台空港からヘリが離陸して、押し寄せる津波を生中継した。福島第一原発事故の模様は、30キロ離れた地点から超高解像度カメラを使って報じた。日本唯一の公共放送であるNHKは、全国に460台のロボットカメラ、14機のヘリを配備しており、災害報道体制は、機材、人員、予算等、世界でも例外的な規模である。しかしながら、我々の報道には限界があり、多くの反省も残った。何より多くの人々の命を救えなかったし、原発の事態をなかなか把握できず正確な情報を視聴者に提供できなかった。今回の災害は、高度情報社会で起きた初めての巨大災害であり、既存メディアとソーシャルメディアの連携や役割分担、政府や企業の情報発信のあり方なども課題となった。こうした教訓は国境を越えて共有されるべきだ。

 

・小笠原裕 岩手日報 論説委員長 (写真右から2番目)

災害報道においては、政府に対してあまりに協力的、或いは批判的であることを避け、中間点を見出すように努力すべきだ。但し政府の側面ばかり強調すると被災者に「忘れられている」との印象を与えてしまう。むしろ被災地の生活、人々の助け合い、復興の進み具合なども重視すべきだ。第二には、異なる視点で報道すること。外国メディアの報道が異なるのは、彼らのメンタリティ、文脈で報道するからだ。例えば、被災地ではいまだがれき処理が行われている。何事も早く進む中国からみれば、がれきから家族の品物をさがす、関係各所でコンセンサスをとりつつ物事が進むことなど非常にわかりにくい。また、新幹線の耐震性を強調するよりも、もっと放射能についての情報がほしいと考える。

 

 ・蘇琦 「財経」誌 副編集長(中国) (写真右から3番目)

災害報道においては、政府に対してあまりに協力的、或いは批判的であることを避け、中間点を見出すように努力すべきだ。但し政府の側面ばかり強調すると被 災者に「忘れられている」との印象を与えてしまう。むしろ被災地の生活、人々の助け合い、復興の進み具合なども重視すべきだ。第二には、異なる視点で報道 すること。外国メディアの報道が異なるのは、彼らのメンタリティ、文脈で報道するからだ。例えば、被災地ではいまだがれき処理が行われている。何事も早く 進む中国からみれば、がれきから家族の品物をさがす、関係各所でコンセンサスをとりつつ物事が進むことなど非常にわかりにくい。また、新幹線の耐震性を強 調するよりも、もっと放射能についての情報がほしいと考える。

 

・ロマン・ブディヤント 「ジャワ・ポス」紙 地方自治研究所エグゼクティブ・ディレクター(インドネシア) (写真左から3番目)

今回の震災は当国でもCNN等を通じて非常によく報道され、津波や原発事故の映像は世界の終末を想起させた。日本のメディア、政府、東電はこの危機に対応する術がなかったが、岩手日報や東海新報は現場で最大限努力し、地元の人々の友として希望を届けた。当ジャワポス紙も震災後二週間震災をトップニュースで扱い、自らのアチェ地震の辛い記憶に今回の原発事故も加わって大きく報道した。インドネシアでは生の状況を伝えることを第一に考えるが、日本メディアの報道の仕方から「遺体を見せない」「希望を広める」という教訓を得た。日本とインドネシアは同じ火山帯に位置する災害多発国として、より賢明な情報発信を各国メディアと共有したい。

 

・モハメド・アブドゥラティーフ・ショケール 「アルジャジーラ」英語放送ニュース局・番組編集(カタール)(写真左から2番目)

原発事故は地震・津波とは別の問題であり、メディア、政府から出される情報が錯綜、混乱し、視聴者に不信感が募った。特に,原発事故について理解するための科学的な知識を持ち合わせていない一般国民に対し,分かりやすく事故を解説する情報が不足していた。外国メディアも迷い、当社は東京の放射能レベルや水の汚染等の問題よりも、人々がどう助け合っているかの人道的側面に焦点をあてた。陸前高田市長は、緊急時における意思決定の欠如や遅延に対して憤りがある一方、自らの手で市を再建しようという意欲も旺盛だ。当社は去年と同じ取材チームを派遣し、人々の生活や気持ちの変化について報道しようとアプローチしたが正しかった。日本が世界に対して正確にこの経験を共有してほしいと願うなら、できるだけ正確で多くの情報を迅速に英語で提供してほしい。今回の震災に関しては英語の資料が少なかった。

 

・キョン・ラー 「CNN」 在京支局長(米国) (写真左)

地震発生直後、東京から電話等でライブ放送を行った。同時に、視聴者が自分の携帯端末で撮影した映像「i-report」がCNN.COMに怒涛のように送られてきた。その中から実際に東京でマンションが揺れている映像等を放送した。今回「i-report」の投稿数は史上最高を達成、また、取材人員もこれまでにない数を投入した。これらは日本の経済力の重要性を物語っている。震災後の政府と東電からの情報発信については,情報が遅い、錯綜する、或いは東電から100ページもの大部の科学的なレポートのみが提供されるといったような問題が存在した。日本からの情報発信を担う特派員として,このような取材現場での焦燥感が募ったが、「文化の衝突」のような状況で最善を尽くし、公平であろうとした。素人が「原発」に取り組むのは難しかったが、この津波・原発という災害取材から得た多くの教訓をグローバルに活かしたい。

 

・パネリスト間の討論

6名のパネリストによる冒頭発言後の討論では、災害報道における記者の使命感、遺体写真の公開や,個人情報の扱いと実名報道の是非、震災直後に賞賛された日本人の「規律正しさ」の真相や「絆」の真価、それと相矛盾するようながれき処理にみられるリスク回避主義、原発事故に絡む風評と日本品不買などのヒステリアなど次々と話題が進展した。遺体写真の公開については「ストーリーの価値-それが何を意味するのかが重要で、写真自体を見せることがポイントではない」(カタール記者)、またヒステリアについて「オープンに透明性をもって情報が出ないことの産物」(英国記者),「ヒステリアを収めるために情報を伝達することも国際メディアの責任」(米国記者)とのコメントがあった。ガレキの受け入れ問題等に見られるとおり,震災直後に日本社会に見られた「絆」が薄まりつつあるとの批判があるとの議長による提起に対しては,「”Not In My Backyard”の問題は,日本のみならず世界中どこでも存在するものである」(米国記者)との指摘があった。また、「超高速で動いているソーシャルメディアの使い手を無視できない」(米国記者)との指摘もあった。フロアからは、情報公開を巡る大手メディアと政府・企業の癒着や暗黙の協定、公開する情報の速報性・正確性の優先度、今後の災害報道への備えなどについての質問が出た。特に,危機に際する政府の情報発信に関するフロアからの質問に対し,「不信感を惹起しないためには,完全な情報を持ち合わせていなくても,今知っていることを発信していく必要がある。またリスクをマネージすることも求められる」(米国記者)との反応があった。

 

【第2セッション「復興とメディア」】

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・森千春 読売新聞 論説委員 (写真右)

日本は震災前からリスクをゼロにしようという傾向が顕著な社会だったが、震災がれきの広域処理への反対論は、ゼロリスクの発想に基づいているように見える。日本はこの発想を考え直すべき時期に来ているのではないか。また、震災の際にはネット上で様々な噂が流れたが、ネット情報が拡大することの問題点は匿名性にある。一方で、マスメディアは名前を出して報道している。批判もあろうが、マスメディアは、原発報道においても政府/東電の発表に専門家の見方を加える等の努力をした。

 

・鈴木久 福島民報 論説委員長 (写真右から2番目)

海外メディアによる震災報道では、放射線拡散予測、フクシマ・フィフティ、米タイム誌「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれた南相馬市長の件など、逆に教えてもらうこともあった。福島民報社は内陸部にあり、震災による大きな被害はなかったが、ガソリン不足や、新聞用紙枯渇を危惧しての紙面縮小を経験した。また、原発から半径20キロ圏内の警戒区域にあった2つの支局は、記者の避難や機能移転を余儀なくされた。県民は非常に高い放射線量のもとで生活することとなり、不安を抱えて暮らしている。原発事故に関する発表や説明が変わり、政府や専門家の情報を信用できなくなっている。発生から1年経ったが、震災はまだ終わっていない。福島県民のうち約16万人が避難。特に、そのうち約6万2千人が県外に避難しており、人口流出が続いている。

 

・ウルリケ・シェファー 「ターゲスシュピーゲル」紙 記者(ドイツ) (写真右から3番目)

ドイツでは、日本での事故を受け、10年以内の脱原発を決めた。ドイツでの報道は、震災当日は地震、津波関連だったが、後に原発中心になった。脱原発は人口の80%に支持されているが、福島の事故だけではなく、長期の議論の結果でもある。独メディアは、日本、東電の危機管理、特に情報発信が不十分で、日本国民ですら放射能のリスクについて十分な情報を提供されなかったと伝えた。また、ドイツの専門家が、ある紙面で、東電による福島原発でのバックアップやメンテナンスの不備、政府の監督不十分を指摘したが、こうしたことが民主国家で起きたことにドイツ国民は衝撃を受けた。自分は、①原発政策の決定に関し日本国内で責任の押し付け合いがある、②政府関係者は将来の政策、復興について合意形成が必要だと言うが、合意形成の方法については、これまで無視してきたのか、正確な答えを持っていない、と感じている。

 

・プリシィラ・ベバラジュ 「ザ・ヒンドゥー」紙 記者・コラムニスト(インド) (写真左から3番目)

原発事故のために、インドでは、震災関連の報道が地方紙においても何日も大きく取り上げられ、「福島」も一気に全国的に有名になった。インドでは、ここ数カ月、フランスやロシア製の原発が建設されている各地で、逮捕者を出すほどの大規模な反対デモが起こっている。インドでは、事故前の日本同様、原子力の安全規制機関と推進機関が同じ省庁に属しており、インドの原子力関係者は日本の経験から学ぶべき。インドでは中央政府が情報を管理しようとする傾向があるのだが、日本でも、地元レベルでの情報、安全政策の不足等の事情があったのではないか。原子力の是非についてはインドでも議論があるが、メリットだけでなく、コスト、リスク、責任の所在も踏まえて考える必要がある。

 

・イ・ソンギ 「韓国日報」紙 記者(韓国) (写真左から2番目)

福島の事故は、天災というより人災。事故の責任者は十分な調査の上、制裁を受けるべきだと考える。迅速な復興のため、地方政府での被災企業向け支援の手続きはより簡略化されるべき。社会的な統合も重要。日本では、地域間の対立が激化し、社会の繋がりが弱くなっていると言われるが、政府は率先してこれらの問題を解決すべき。エネルギー政策では、日本の首相は原発依存度を下げるとしているが、省エネ、持続可能なエネルギー開発への投資が必要。先進国が原発を縮小するのは難しい。危険性は高いが、原発との共存を考えなければならないだろう。

 

・ベネディクト・ブローガン 「デイリー・テレグラフ」紙 副編集長兼首席政治論説委員(英国) (写真左)

震災時には、我が社のネット記事閲覧が世界中で増えた。我が社は、地震発生から24時間以内にスタッフをロンドン、中国から日本へ派遣し、在京特派員をサポートさせた。2週間大々的に報道したが、震災のニュースは、英国でも強い共感をもって受け止められた。ここ一週間も、各報道機関が、がれき処理の遅れや指導者の不在を含む復興の進捗状況を一面で伝えている。ジャーナリストは、何よりも読者に対し信頼に足るものを提供し、権力について子細に追及する必要がある。メディア自身の説明責任、読者との対話も重要だ。また、インターネット、ソーシャルメディアの台頭によりスピーディな情報発信および情報発信への市民参加が可能となり、メディアを取り巻く環境は激変している。私たち「古いメディア」もこうした変革を一方的に押し付けられるのではなく、それを率いていくことが必要。

 

・パネリスト間の討論

パネリスト間の議論では、シェファー氏により指摘のあった①原発政策決定における責任の押し付け合いや、②政策に係る合意形成の方法等が話題に上った。これに対し、議長や日本側のパネリストより、「日本でも原発推進対脱原発の議論はあったが、脱原発論者は政府関係機関の役職から排除される傾向があった。事故の可能性を現実的に捉えて議論するという風土が欠けていたのではないか」「安全神話により、原発で事故が起きた場合に対する想定がなかった」等の発言があった。また,英国記者より,原発の再稼働といった論議を呼ぶ問題については,一定の議論を尽くした後,決定するのは政治家の役割であるとの発言もあった。また、フロアとの質疑応答では、立ち入り禁止区域内での取材や、非営利メディアの役割に話題が及んだ。

 

【議長総括】

 昨年のジャーナリスト会議の司会も務めたが、震災8日前の会議開催時、東日本大震災や原発事故の発生は予想だにしていなかった。大震災により、日本と世界は大きく変わろうとしているが、メディアの役割の重さは変わらないだろう。震災に伴う日本の危機は続くが、だからこそ、現状を厳しく検証し、未来に活かしていく必要がある。東北は立ち直りつつあるが、がれき処理や絆の弱体化、原発事故の最終的な解決、更には政治における不安など、日本が抱える問題は多い。だが、このような時こそ、メディアの存在が問われる。正しい情報を伝えるだけでなく、正しい方向に進むための議論をリードしていくのがメディアの役割だと信じている。

 

(写真:会場は約120名の参加者で埋め尽くされました)

 

(Copyright 2012 Foreign Press Center/Japan)

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