自然エネルギーの普及に向けた最近の取り組み:更なる技術開発からエネルギーの地産地消まで(2011年11月8日)
投稿日 : 2011年11月08日
【ウォッチ・ジャパン・なう vol.11/FPCJ】
2011年11月8日
自然エネルギーの普及に向けた最近の取り組み:更なる技術開発からエネルギーの地産地消まで
福島第一原子力発電所事故の発生を受け、国の「エネルギー基本計画」の見直しが進められる中、自然エネルギーには以前にも増して熱い視線が向けられています。しかしながら、「自然エネルギー白書2011」(注1)によれば、2009年の日本国内の全発電量に占める自然エネルギーの割合は僅かおよそ3.4パーセントに留まっており、2000年以降1%程度しか増加していません。自然エネルギーの利用促進が遅れている要因には、制度・法律上の課題、技術上の制約もあれば、例えば、風力発電において、風車設置地域の近隣住民から低周波、騒音による頭痛等を訴える声が上がっているというように、それぞれの自然エネルギーを運用するに当たっての問題、事情もあります。
今回は、こうした課題を克服するような、自然エネルギーの更なる普及に向けた先進的な技術・取り組みを幾つかご紹介します。
相次ぐ洋上風力発電の試み:風力発電における更なる技術開発
昨今、風力発電においては、従来の課題を克服しうる技術として「洋上風力発電」が注目されており、相次いでその実証実験や新たな発電施設の建設が発表されています。洋上風力発電とは、読んで字のごとく、陸地から遠く離れた海上に風車を設置するもの。従来の風力発電においては、近隣住民から風車が発する低周波や音への苦情があったほか、電力需要の大きい地域で必ずしも強い風が吹かないといった問題がありました。洋上風力発電は、風車の回転音の問題はもちろん、海洋上では陸地よりも安定した強い風が吹くため、風の集めやすさの点からも期待されています。
今年9月には、政府が、世界初となる海上に浮かぶ「浮体式」の洋上風力発電所を福島県沖に建設する方針を決定しました。9月13日付の産経新聞オンライン記事によれば、洋上風力発電には、風車の土台を海底に設置する「着床式」もありますが、浮体式が採用されたのは、遠浅の海が少ない日本の場合、建設費を勘案すると、土台を洋上に浮かせて海底と鎖でつなぐ「浮体式」の方が採算性に優れているため。また、ノルウェーで一基の実証実験が行われているものの、浮体式の洋上風力発電の事業化は世界でも初めてのことだそうです。建設は平成25年度から着手され、順調に行けば、平成32年には、福島沖合に60~80基の大型風車が浮かび、原発一基分の3分の1に当たる30~40万キロワットの発電が実現されることになります。また、将来的には100万キロワットの発電が目指されています。
これとは別に、福岡市も、九州大学と共同で、同大が開発した「風レンズ風車」を利用した浮体式洋上風力の実験を12月初めにも開始する予定です。「風レンズ風車」は、ローター(風車)の周りにダクト(集風レンズ)を取り付けることで、従来の風車より多くの風を集め、風が弱い場所でも発電ができるようにしたもの。ダクトにより風車後ろの気圧が低下し、その圧力差で、風速は実際の1.3~1.5倍に、発電量は通常の風車の3倍にもなります。福岡市では、高効率な発電により風況の悪い福岡市でも風力発電が可能になったとして、この浮体式海上風力発電を「福岡市発の技術」として、広く世の中に普及させていくことを目指す方針です(7月21日付同市会見資料)。
一部地域における先進的な連携・エネルギーの地産地消の取り組み
自然エネルギーによる発電電力の買い取り価格の低廉化や送電網の整備など、国レベルでの制度面や市場面での遅れを横目に、独自の先進的な取り組みによって自然エネルギーの普及を目指している自治体、地域もあります。
例えば、東京都では、都の膨大なエネルギー需要と、遠く離れた地域における自然エネルギーの供給とを結び付けることで、都の二酸化炭素排出量削減と地域での経済活性化・雇用拡大を同時に実現しようと、昨年春に、北海道および青森、岩手、秋田、山形の東北4県との間で「再生可能エネルギー地域間連携に関する六都道府県協定」を締結。自然エネルギーから発電された電力を都外から独自に調達することで、2020年までに都のエネルギー消費に占める自然エネルギーの割合を20%程度まで高めることにしています。
このほか、各地域においても、先進的な自然エネルギーの導入地域として既に有名な長野県の飯田市、岩手県の葛巻町、高知県の檮原(ゆすはら)町などに続く取り組みが見られます。例えば、再生可能エネルギーが家庭などのエネルギー需要をどの程度賄っているかを試算した「再生可能エネルギー自給率」の2011年版都道府県別ランキング(注2)で第一位に輝いた大分県では、地域で使うエネルギーを地域の中で賄う「エネルギーの地産地消」を目指し、供給量の多い地熱発電に加え、県自らが事業主体となって、農業用水を利用した小水力発電を本格導入する予定です(6月26日付読売新聞オンライン版)。また、4月に環境省が推計結果を発表した「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」において、九州とともに太陽光発電の有望地域とされた山口県の祝島(上関町)では、原発に頼るのではなく、太陽光発電などにより約500人の住民が利用するエネルギーを100%自給自足しようとの計画が進められています。
(注1)特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所発行。同白書が言う「自然エネルギー」は、太陽エネルギー由来の太陽光・熱、風力、波力、海洋温度差、地下のマグマ由来の地熱・地中熱、引力由来の潮力をすべて含めている。但し、水力発電については、小水力発電(出力1万kW以下)に限定し、バイオマス(発電・熱利用)は発熱比率が60%以上で高効率なものに限定している。
(注2)千葉大学と特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所が10月17日に発表。
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