被災“コミュニティ”の復興:工学院大学「東北の美しい“村”再生」プロジェクト(2011年10月21日)
投稿日 : 2011年10月21日
【ウォッチ・ジャパン・なう vol.9/FPCJ】
2011年10月21日
被災“コミュニティ”の復興:工学院大学「東北の美しい“村”再生」プロジェクト
~長く住む家を早く建てて、被災者の生活再建を支えよう~
「“丘の上のエコタウン”や“大規模集約型漁港”で被災者は本当に幸せになれるのか。未来の先進的な構想を描くよりも、今目の前で困っている人々の日々の暮らしを一日も早く立て直すことが真の復興だ」と語るのは工学院大学理事/建築デザイン学科教授の後藤治さん。プレハブ仮設住宅ではなく「木造の恒久住宅」を作って被災者の生活再建を促し、長く住むことを前提に震災前のコミュニティを再構築することを目指しています。後藤教授は、元文化庁・文化財調査官で日本の歴史的建築物・町並み保存修復の専門家。「新築住宅を建てるのは今回久方ぶり」で、石巻市北上町を拠点に活動しています。
宮城県北東部、石巻市の中心から車で約30分の太平洋に面する北上町は、「十三浜」という地名が示すように小さな浜が点在する風光明媚な伝統漁業・養殖業のまち。その中の白浜地区では38世帯約120人の多くが漁協の仕事に従事しながら暮らしていました。が、3月11日の震災によって全世帯の家屋が倒壊、3世帯6人が亡くなりました。幸いにして10数艘保持していた漁船は震災直後に沖に出て難を逃れたことで、被災者は、住居は失ったものの比較的早く仕事を再開することができました。
この白浜地区で重要文化財修復工事や茅葺屋根工事を請け負う(有)熊谷産業を経営する熊谷秋雄さんは後藤教授の古くからの仕事のパートナー。熊谷さん自身が被災されたこともきっかけとなり、後藤教授と共に同地区の再建に取り組むことになりました。「白浜復興住宅」建設プロジェクトは、工学院大学が125周年記念募金事業の一環として民間の篤志家からの寄付による資金(約1億6千万円)を得て、今年4月に立ち上がり、11月上旬には入居できる10棟が完成する予定です。建設は地元工務店数社が地元の大工職人を雇って行っています。後藤研究室の学生も瓦礫の中から使える木材や、屋根をふく天然スレートのもととなる雄勝石を集めたり、洗ったりして参画しています。
【写真:9月15日に行われた上棟式の様子】
「白浜復興住宅」の建設地は津波の浸水を免れた標高40メートルの高台で太平洋が一望でき、仕事場である浜まで車で5分という近さ。約5千平米の土地は別荘建設予定地だったため水道などのインフラの獲得が比較的容易で、工学院大学が熊谷産業から低額で借り受けています。同住宅は木造2階建て(延べ床面積約66平米)7棟と平屋(43平米)3棟の計10棟で大黒柱や梁のある伝統工法を採用。一部の住宅の大黒柱には津波を被った杉の木を乾かして再利用しています。独居高齢者や震災孤児が暮らす共同住宅1棟も備えています。震災後、親類の家や避難所での離散生活を余儀なくされた住民のうち8世帯の入居が決まっており、入居者は管理費として平屋で毎月2万円、2階建て2万7千円を大学の代わりに維持管理を行う地元NPOに支払う仕組みになっています。今回入居できなかった住民のための新たな住居建設や、住居の暖房、造園のため、工学院大学では引き続き寄付を募っています。
後藤教授は平地が少ない三陸沿岸では長く住める家を最初から建てる方が合理的であると考えており、「仮設、常設という従来の2度の建設の労力とコストを軽減できるこの構想を新しい地域再生のモデルとして提案したい」としています。また、小さな町村集落への支援は、国や自治体がそれらを十把ひとからげで扱う施策よりも、民間・草の根レベルの組織・個人が連携して個々の地域を「点で助ける」対応を取り、その点の集まりを国や自治体が支える枠組みをつくるべきと主張しています。
「白浜復興住宅」には、東北地方に旧来からあった互助精神のある共同体を保護・維持することに貢献できるとの信念が込められています。それはまさに震災直後に世界から賞賛された日本の、地域の「絆」「いたわり」「助け合い」の精神を育んでいくものです。厳しい冬の訪れを前に「白浜復興住宅」はまもなく完成し、11月23日に入村式を迎えます。
【写真:「白浜復興住宅」の竣工予想図(左)、9月末時点の建築状況(右)】
*写真は全て後藤教授より提供
取材等の問い合わせ先
学校法人工学院大学 総合企画室 Tel: 03-3340-1498
同 建築学部 後藤治教授 E-mail: ogoto@cc.kogakuin.ac.jp
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