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「超円高」に立ち向かう日本の製造業(2011年10月3日)

投稿日 : 2011年10月03日

【ウォッチ・ジャパン・なう vol.7/FPCJ】

2011年10月3日

 

 

「超円高」に立ち向かう日本の製造業

 

8月19日のニューヨーク市場が一時1ドル=75円95銭の戦後最高値を記録するなど、外国為替市場では歴史的な「超円高」が続いています。製造業を中心に日本経済への影響は大きく、経済産業省が9月1日に発表した調査では、1ドル=76円の水準が半年以上続く場合、製造業大企業の46%、中小企業の17%が生産工場や研究開発施設を海外に移転すると回答するなど、産業の空洞化も懸念されています。

 

しかし、歴史的な円高という逆風のなか、日本の製造業各社は生産体制を見直すことで国内生産と雇用の確保に手を尽くしています。今回は、国内メディアの報道をもとに、そのような動きの一部をご紹介します。

 

自動車最大手のトヨタ自動車は今年7月、東日本大震災により被災した東北地方を、中部・九州に次ぐ同社の「第三の国内生産拠点」、特に小型車の開発・生産拠点としていくと発表しました。報道によれば、同社は宮城県内に東北地方で初めてとなるエンジン工場を建設し、小型車の開発から生産まで東北地方で一貫して行う効率的な体制を作る計画。また、小型車の生産拠点化の具体的な取り組みとして、年内にも東北地方で新しい小型のハイブリッド車の生産を始める予定であり、将来的には新工場からエンジンを供給する予定です。9月25日付のNHKオンラインによれば、同社の張富士夫会長は24日、仙台市内の講演で、「今回の震災で、東北の人たちのコツコツと努力を積み重ねる気質がよくわかった。そうした気質を自動車の生産にも向けてもらえれば、世界の強敵と戦い勝つことができると思うので大いに期待しています」と述べました。

 

一方、生産台数でトヨタを追う日産自動車も、自動車産業が集積しアジアにも近い九州に生産をシフトすることでコストを削減、国内生産を維持しようとしています。「国内生産100万台維持」を掲げる日産は、先日、国内生産の半分近くを占める九州工場を今年10月から分社化し、同工場でつくる車の部品の最大9割を九州とアジアから調達するようにすると発表しました。九州工場の周辺には47社の一次部品メーカーが集積するほか、韓国までの距離もわずか約200キロ。九州域内のほか中国や韓国などからの部品使用を拡大することで、コスト競争力を付けるのが狙いです。9月21日付のSankeiBiz(サンケイビズ)によれば、同社では「超円高下でも収益が出せるコスト競争力の実現」を目指すとしており、国内生産台数も現在の100万台から120万台規模に引き上げる方針とのことです。

 

中小企業も例外ではありません。今年9月、富山県内の金型メーカーなど18社でつくる富山県金型協同組合(富山県砺波市)が共同事業としてインドネシアに工場を建設するというニュースが国内で報じられました。企業規模が小さく単独では海外進出が難しい中小・零細企業が、成長著しいアジア市場の需要を取り込もうという新たな取り組みとして、注目を集めています。国内生産はこれまでどおり続けるとしており、組合幹部は9月13日付のSankeiBizに「国内では技術力をさらに高めて、特注の高度な金型受注に特化する方針だ」と話しています。海外市場で収益を上げ、国内での雇用確保とさらなる技術開発につなげるという好循環となることが期待されています。

 

ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次主任研究員は9月14日付の毎日新聞で、「歴史的な円高で、中小企業も従来のように国の政策頼みで『何もしない』というわけにはいかなくなっている。政府も国内に残る企業の保護策一辺倒から、企業が海外で稼いだカネを国内にどう還流させるかを考える時期だ」と指摘しています。

 

(Copyright 2011 Foreign Press Center/Japan)

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