“働き続けたい” 超高齢社会・日本で生きがいを仕事に求めるシニア世代
投稿日 : 2014年05月08日
"働き続けたい"
超高齢社会・日本で生きがいを仕事に求めるシニア世代
記事: 劉 言(FPCJインターン)
67歳から94歳の女性5人がほうきの袋詰め作業にいそしむ。軽作業とはいえ立ったままの仕事を苦にするものはいない。江戸川区熟年人材センター(東京都)での内職の現場の一風景だ。最年長の大畑シズエさん(94)は、「みんなでおしゃべりしながら作業するのは楽しい。毎日来ていますがちっとも大変じゃないから」とほほ笑む。一人暮らしの大畑さんにとって、同センターでの仕事が健康を保つ秘訣でもある。
(写真)江戸川区熟年人材センターで内職に励む大畑さん(右端)たち
世界でも類を見ないスピードで進行する日本の高齢化。かつてなく多くのお年寄りが仕事に生きがいを見出し、社会とのつながりや自分の生きる意味を再確認しようと働く場を求めている。高齢者やその支援者たちに思いを聞いた。
同センターは、全国の市区町村にあるシルバー人材センターの1つ。概ね60歳以上を対象に、安定した収入を得るための就労ではなく、生きがいや地域とのかかわりをもてるような短時間の軽い労働などを斡旋している。
同センターでは2012年から、高齢者や障害者などの家庭を会員が訪れ、安価に日常生活の手助けをする「シルバーお助け隊」事業も始めた。80代の夫婦の依頼で天井の電気の清掃を担当した山崎眞平さん(79)は、「相手が喜んでくれると本当にうれしい」と満足そうに語る。建設作業員だった山崎さんは、少しずつ任される仕事の幅が狭まり、70歳の時に「潮時だ」と仕事を辞めた。「辞めてすぐ、寂しかったですね。何か少しでも社会に貢献したいと思った」。5年前から同センターで活動している。作業中に手は震えるが、建設現場で鍛えた体力にも技術にも揺るぎはないという。
(写真)利用者と談笑しながら作業を進める山崎さん(右)
内閣府の高齢社会白書(2013年版)によると、65歳以上の人々の割合は、2012年の24.1%から2060年には39.9%に上昇すると予測されており、世界平均の7.6%(2010年)から18.3%(2060年)を大きく上回る。少子化により労働力が減る一方、寿命の伸びや生活環境の変化によって高齢者がかつてより元気に過ごせるようになったため、労働面で高齢者がより重要な役割を果たすようになるのは必至だ。
(写真)金属部品を加工する菅原さん(左)を見守る渋谷社長
機械部品の加工などを手掛けるタマヒコ精機(東京都大田区)の渋谷喜代子社長(70)も、高齢者を雇う経営者の1人だ。夫の死後、30年にわたり同社を率いてきた彼女自身、いつまで続けられるか迷いもある。それでも、仕事を辞めた後の生活は「想像できない」という。「(労働者の)年は関係ない。やる気の問題」と言い切る。「年配の従業員は技術力が高く、まじめで仕事への意欲が高い」と言い、社会で活かされきっていない現状を「歯がゆい」とも感じている。
社員の菅原猛さん(65)も「いろんな技術を持った人がいる。退職後も何かやってみなければもったいない」と口をそろえる。40年以上機械部品の設計や加工を続けてきた菅原さん。勤め先の廃業により、昨年64歳で再就職を模索した。ハローワークに通ったが仕事を得られず、高齢者の就労を支援する大田区いきいきしごとステーション(東京都)を通じて同社にたどり着いた。「動けなくなるまでは働くつもり。何もしなければ老け込んでしまう。仕事では達成感を得られるし、何より生活に張りが出ます」と話す。
同ステーションの佐々木文雄所長は、「元気で働きたい高齢者が大勢いるのは間違いない。社会構造の変化で就業者の確保が難しくなっていく中で、企業はどういう形でシニア人材を活用していくか考えてもいる。一方で、そのマッチングはなかなか難しいのも現実だ」と指摘する。「書類上で年齢だけを見るのではなく、技術や経験、その人自身を知って雇用につなげてほしい」と話し、必要な技能を持っているか見極める短期間の「お試し期間」を設けることも雇用側、高齢の労働者側双方に有効だと説明する。
同ステーションは、東京都や市区の支援で公益法人などが開く都内12カ所の高齢者向けの無料職業紹介所の1つで、2012年にオープンした。厚生労働省は2013年に「生涯現役社会の実現に向けた就労のあり方に関する検討会」報告書をまとめるなど、さらに高齢者が働きやすい環境づくりに取り組んでいる。60歳を定年とする高年齢者雇用安定法は、2025年以降、希望者全員の65歳までの再雇用を企業に義務づけるなど、2013年に改正法が施行された。高齢者自らの意欲はもとより、シニア活用に向けたバックアップも着実に進んでいるようだ。
<ボランティアも選択肢に>
仕事のほか、ボランティアに生きがいを見出す高齢者も多い。東京都中央区のボランティア団体「りぷりんと・中央区」は、60歳以上のメンバーが幼稚園や小学校などを訪れ、子どもたちに絵本の読み聞かせを行っている。より子どもたちにわかりやすく表現するための講習などを定期的に開催し、レベルの向上にも努めている。10年以上同団体で活動している宮尾由紀子さん(83)は、「一人暮らしの私には、子どもたちと会って話す時間は貴重。りぷりんとが私の人生を変えた」と言い切る。研修に参加する高齢者の顔はみな生き生きと輝いていた。
(写真)講習会を楽しむボランティアたち
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<編集後記>
高齢者は病気や加齢に悩まされ、非力で社会の役に立ちにくいとみなされる…そんな固定的なイメージは、取材で出会ったみなさんに打ち砕かれました。誰もが新しい何かを追い求め、豊かな毎日を生きています。渋谷さんは、激務の合間に毎日自然の美しさを写真に収めることが、悩みから解放されリフレッシュする秘訣だといいます。渋谷さんはコンピューターにとても長けていて、毎日ブログを更新していることにも驚かされました。取材中、仕事への熱心さは若者を超えるのでは、と思う場面もあり、若い人々よりいい仕事をできる分野もあるだろうと感じました。
仕事やボランティアに取り組むお年寄りは、実際の年齢よりも若く見えることがよくあります。りぷりんとで出会った女性は、着物に合わせて髪を美しく緑に染めていました。取材を通じ、私は退職後の人生も前向きにとらえられるようになってきました。年をとるとはどういうことか、もう一度考え直さないといけないようです。恐ろしくもある終末の時期ではなく、人生の新たな始まりだと。幸せに余生を送るために、さてどのような退職後のライフスタイルを選びましょうか。
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