実施日 : 2024年10月30日
開催報告:2024年度FPCJ国際ウェビナー
投稿日 : 2024年11月01日
「人口減少と移民受入れ―日本が「選ばれる国」になるためにー」
(後援:外務省)
1.本ウェビナーの開催目的及び参加者
今年6月、出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案が可決成立しました。 外国人の単純労働受入れの枠の一つとして30年以上の歴史がある外国人技能実習制度に代わり、新しく育成就労制度が設けられました。この制度では、人材育成とともに人材確保をも目的とし、育成就労期間終了後の特定技能資格移行を前提とした制度となり、外国人を労働者として受け入れて日本への定住・定着につなげることが意図されています。
人口減少、超高齢化社会が進む日本において、外国人労働者は社会や経済にとって既に不可欠な存在となっており、生産労働人口の減少を外国人労働者の受入れを拡大して補おうとする制度も整備されつつあります。しかしながら、一方で、日本がどこまで多民族・多文化国家を目指すのかといった将来的な日本の社会像に関する議論を踏まえた移民政策全般についての包括的かつ真正面からの議論はこれまであまり行われてこなかったように思われます。
本ウェビナーでは、日本を上回るスピードで急速に進む人口減少問題を抱え、より高水準の報酬を強みに外国人労働者を受け入れている韓国、日本への技能実習生の最大の送り出し国であるベトナム、移民統合の理念をもとに欧州の中でも最も早くから移民を受け入れてきたフランスの各メディアから、移民問題をフォローしている気鋭の外国ジャーナリストをお招きし、日本が抱える課題についてお話を伺いました。また、日本の有識者も交えて、外国人労働者の受入れ拡大に動く日本にとってのあるべき移民政策とは何かについて議論しました。
本ウェビナーには国内外から249名の申し込みがあり、139名が参加(視聴)しました。
※音声の乱れのため、聞き取りにくい箇所がございます。予めご了承ください。
2.プログラム
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3. 登壇者紹介
※開催案内、登壇者略歴はこちらからご覧いただけます。
【モデレーター】 兒玉和夫 FPCJ理事長
【パネリスト】
有識者/基調講演
毛受 敏浩 関西国際大学客員教授/公益財団法人日本国際交流センター前執行理事
外国メディア:
・鄭 瓔孝(ジョン・ヨンヒョ) 韓国経済新聞(韓国) 経済部次長/前東京支局長
・Tuyen Nguyen Cam(トゥエン・グエン・カム) 国営ベトナム通信(ベトナム)東京支局長
・Régis Arnaud(レジス・アルノー) ル・フィガロ紙(フランス) 東京特派員
4. セッションのまとめ
第1セッション「日本にとっての移民問題の現状と課題」
毛受氏は、基調講演で長年にわたって在留外国人の問題に携わってきた経験を踏まえ、日本の「人口減少と移民の受入れ」について、日本は急激な人口減少に直面しているため、外国人の定住を前提とした受入れは当然のことであるが、「移民」という言葉が国内でタブー視され、正面から議論ができない状況が続いていると問題提起しました。また、先の衆議院選挙においても人口減少に関する議論が表面的で、移民政策はおろか外国人の受入れについて正面から議論する政治家がほとんどいなかったと指摘しました。そして、女性や高齢者の活躍、AIやロボット技術を活用して人口減少を乗り切ろうとする試みが行われてきたものの人口減少が加速し、人手不足が深刻化している状況下においても外国人の受入れを正面から議論できない状態を「移民ジレンマ」と表現しました。
続いて、外国人労働者が急速に必要不可欠となっている理由や、移民政策を取らないという政府のスタンス、実質的な移民の急増がもたらすリスク、日本が移民に選ばれる国になるための取組の具体例など資料を用いて説明しました。そして、日本の人口減少は他国に比べて深刻であり、外国人を受け入れずに経済社会を維持することは困難であると指摘しました。
Tuyen氏は、日本へ最も多くの技能実習生を送り出す国の立場から、日本における外国人技能実習制度の課題や問題点を指摘しました。技能実習生の賃金は、一般外国人労働者の平均賃金の半分程度であり、さらに円安により母国の家族などへの仕送り金額が目減りしていて、それゆえ日本よりも賃金が高い韓国や台湾と比べて日本の魅力が低下していると指摘しました。さらに、現行の技能実習制度は本人が希望する転職は原則認められていないため、技能実習生の人権を侵害するリスクが高まり、実際に虐待や暴力を受ける事例も見られると述べ、待遇改善を求める声が十分届いていない現状があると述べました。また、中間組織による仲介手数料や管理料の負担が実習生に課されていることを挙げ、これを受入れ機関が負担すべきだと提案しました。
Arnaud氏は、日本が移民にとって魅力的な国であるとしつつも、一時的滞在を前提とした「テンポラリーモデル」の問題を指摘しました。OECDのレポートを基に、ニュージーランド、豪州、カナダ、米国、欧州諸国が永住を認める「パーマネントモデル」を採用し、将来の市民権取得までを見据えた受入れを行うのに対し、日本は一時的滞在のみを前提とする政策を続けていると述べました。そして、留学生や熟練労働者の60%が5年未満で日本を去る現状を説明し、年功序列など日本企業特有の制度への適応が難しいと述べました。
鄭氏は、日本の出入国管理・難民法改正案が成立し、技能実習制度に代わる新たな育成就労制度が新設され、人材確保に本格的に乗り出す姿勢を鮮明にしたことがアジア全体に影響を及ぼしていると説明しました。昨年6月から低熟練の外国人労働者を増やす方向で制度を改正した台湾、急速に少子化が進む中国が経済成長を維持するためには、人口減少を補完する外国人労働者の受入れは不可欠であり、そのために人材の争奪戦が繰り広げられていると指摘しました。そして韓国の近隣国が外国人労働者を取り込むために躍起になっているのは、韓国が外国人労働者市場を先取りしているからであり、韓国の外国人労働者の平均賃金が日本の技能実習生の賃金を大きく上回っていることが東南アジアからの労働者を引き寄せる理由になっていると分析しました。
パネリストからの発言を受けて毛受氏は、技能実習制度や移民問題を国際的な視点から再認識する必要性を改めて指摘しました。続いて、政府統計を用いて日本における外国人労働者の賃金が日本人の平均賃金と比較して低い現状や、外国人労働者、特に日系ブラジル人の多くが派遣や請負労働者として雇用されている点を指摘しました。そして、派遣や請負労働者は、景気悪化時には、日本人労働者のセーフティーネットとなっている実態があると指摘しました。
さらに、日本人の人口減少が加速する中で、外国人を補助的な労働力としてではなく、社会のメインストリームとして受け入れる必要性が高まっていると述べ、30年続いてきた技能実習制度下での「安く使える外国人労働者」というメンタリティーを変えるためには、政府による明確な意思表示が必要だと指摘しました。また、昨年の日本経済新聞による自治体への調査で、人手不足を背景に6割以上の自治体の首長 が、外国人労働者の受入れに積極的であると回答したことを紹介し、地域社会において外国人労働者が既に不可欠な存在となっている現実を指摘しました。そして、外国人労働者は、地場産業や介護分野で人手不足を補う重要な役割をすでに果たしていることから、制度と現実のギャップを埋めて社会全体で外国人を受け入れる態勢を整えることが必要だと述べました。
第2セッション「日本のあるべき移民政策とは?―日本が「選ばれる国」になるためにー」
鄭氏は、日本が「選ばれる国」となるための要件として、韓国と比較して低い賃金水準を向上させることが重要な要素であると指摘しました。また、日本の持つ多様な魅力、特に治安の良さや親切な国民性、世界中の若者に人気があるアニメや映画、Jポップなどのソフトパワーが移民を受け入れる際のアピールポイントとなると説明し、これらの強みを活かした移民政策を展開していくことの可能性を示しました。
Arnaud氏は、日本が移民政策において一時的な滞在を前提とするモデルから、永住型のモデルへの転換を検討する必要があると提言しました。日本の医療分野における25万人の人材不足を例に挙げ、人手不足のままでよいのか、それとも労働力となり得るフィリピンの看護師を雇った方がいいのかを考えないといけないと述べました。また、日本国籍を取得するための帰化申請者数が年間8,000人程度と、スイスの56分の1、フランスの10分の1にとどまる現状を示し、日本は帰化の要件を緩和する必要があると述べました。さらに、技能実習生が原則、転職を認められていないのは地方に留めるためであると述べ、技能実習制度の趣旨と実態の乖離を解消し地方の産業の構図を変える政策をとる必要性があると指摘しました。
Tuyen氏は、技能実習制度の具体的な改善策を提案しました。まず、円安の影響を考慮した技能実習生の賃金引き上げの必要性を訴え、不当な待遇や賃金未払いなどの問題に対応するよう求めました。また、技能実習が賃金未払いや暴力などの不当な扱いに直面した場合、転職を認めること、さらに、管理費や仲介手数料の負担軽減のため、受入れ企業と技能実習生が費用を分担することを提案しました。加えて、技能実習生が本国の家族の経済的支柱となっている現状から、疾病や労災に対する保険制度の整備も必要だと訴えました。最後に、日本社会への統合促進のため、来日後の日本語教育の強化や、文化・法律に関する定期的な教育の実施、地域との交流機会の創出を提言しました。
毛受氏は、3名のパネリストの発言を受けて、日本の技能実習制度や外国人労働者受入れの抜本的な改革の必要があると述べました。30年以上続く技能実習制度の問題が特定技能制度や育成就労制度の創設につながったものの、政府が悪質な企業や雇用者に対する管理体制を厳しくすることを続けてきたにもかかわらず、根本的な解決には至っていないと述べました。管理体制をより一層強化するためには、40万人いる技能実習生を受入れる企業10万社に対して更なる書類の提出を求めることが考えられるが、全てをチェックすることは困難であると指摘しました。また、政府による管理に限界がある中で、賃金の不払いや、人権上の問題など、政府が把握しながら十分解消できていない問題に対応しているNPOやNGOによる支援活動の重要性を指摘し、これらの団体への政府の支援を提案しました。さらに、育成就労制度の課題として、1~2年での転籍が可能になる一方で、日本語教育や職務能力向上の支援を企業に課している矛盾を指摘しました。特に日本語教育については、法律の制定や教師の国家資格化は進んでいるものの、政府が税金を使って外国人労働者を支援する仕組みが未整備であるとし、外国人労働者が「育成就労」から「特定技能」へ移行する条件として定められている日本語能力試験に合格できるよう、欧州諸国のように、政府が語学教育を支援する体制を構築し、企業と協力して実効性のある日本語教育を実現することが、重要だと述べました。
Arnaud氏は補足として、移民政策の選択肢を議論し、日本が長期的な視野で解決策を見いだす必要があるとし、自衛隊員 や医療従事者の不足といった課題に直面する中、移民を受け入れることは安全な社会の構築と共生につながると述べました。移民政策は長期的にみると問題を生み出すよりも解決に導くと指摘し、日本は未来のために移民を受け入れる柔軟な政策を模索すべきとし、移民を受け入れないことによって発生するコストは大きいと指摘しました。
質疑応答
技能実習生の給与はなぜ低いのか、日本で働くにあたり、言語の壁をどのように乗り越えればよいか、日本政府、行政機関、学校などは、若い世代に移民の重要性をもっと教えるべきだと思うかなどの質問が挙がりました。
総括
モデレーターの兒玉理事長は、毛受氏からエビデンスに基づいた分析や議論をいただき、さらに、外国メディアの特派員による多角的な視点が、今後の日本社会における移民政策の議論を深める重要な示唆となったと述べました。
続いて、3名のパネリストによる本日の議論の総括がありました。
Tuyen氏はベトナムが人口黄金期にある今こそ、日本との協力の好機である。海外で働くベトナム人労働者が知識やスキルを持ち帰ってくることに期待したいと述べました。
Arnaud氏は、日本は世界で最も文化的魅力のある国の一つであることから、それを活かしつつ、移民受入れの新しいモデルを検討する時期に来ていると指摘しました。
鄭氏は、韓国は日本と同様に労働力不足にあることから、特定分野で高度な技術を持った日韓の積極的な人材交流や協力がWin-Winの関係を構築する可能性があることを示唆しました。
最後に、毛受氏は、政府が「外国人との共生社会基本法」のような形で、外国人との共生に向けた基本的な考え方を示し、具体的な支援策を明確にすることが重要と指摘しました。