新潟県立大学長 猪口孝:「日本の環境汚染と問題解決と地方の環境問題への取り組み」 【2】
投稿日 : 2015年02月09日
猪口孝・新潟県立大学学長のインタビュー第2部では、日本の環境技術移転の現状や課題について伺いました。
Q:日本は深刻な大気汚染や水質汚染を経験しましたが、その公害を克服してきました。これをアジア諸国の課題解決に活かすのは、どのようにしたらよいのでしょうか。
A:基本的な考えとして、欧米的に環境を征服しようとするのは、いかがなものかと思います。東南アジアは、森と泥沼が混じったような所が多い。それを工場用地や農場用地として利用するために、とにかく邪魔なものを全て燃やしているのです。このため、東南アジアでは激しい大気汚染が発生している。これは、石炭を燃やす中国型の大気汚染とは違います。ピートランド(泥炭地)を利用するには、やみくもに燃やしたり、埋めたりするのではなく、他の方法があると思います。日本の地質学や耕作地造成の専門家が、知恵を絞っていくことが必要ではないでしょうか。
それから、河川の水質を良くしていくことです。日本が経験したのは、「川を汚くしたら、すべてダメになった」ということです。ゴミ処理については、工場から出るものについてはコントロールしやすいのですが、家庭から出るゴミは難しい。なかなかルールを守らない、(適正処理の重要性を)分かってくれない人が多いですから。
1930年代に、ドイツが近隣諸国からのゴミを無くそうとゴミ法を制定したのですが、隣のハンガリーの法律では、ゴミの定義がドイツと全く違っていました。ドイツではゴミとされるものが、まったく無視されていました。例えば、紙を再生に使うとか、空き缶や金属の蓋はゴミではなく、売却できるもの。豚の糞もゴミではないのです。
これから、とりわけ家庭から出るゴミが問題になると思います。家庭からの排水にも、洗剤の(有害)化学物質が含まれています。それに対処するには、日本の高い環境技術を持っていくしかないと思います。
Q:日本の技術は、脱硫装置を含め、素晴らしいものがあると思いますが、環境庁が行ったアンケートによると、海外への技術移転に消極的な企業が多いようです。中国などで知財保護の問題があるからです。
A:中国は、国内法で知的所有権の侵害を厳しく取り締まっていないので、環境汚染を防ぐ機械を製造している日本企業は、中国への技術移転に消極的です。高額な研究開発費を投入した製品の知的財産をいい加減に扱われるというのは、日本企業にとっては厳しいと思います。
東南アジアの国も、国内法できちんと知的財産を保護していない。アジアの各政府も、知的所有権について国際法に加盟するだけでなく、実効性のある国内法を作るしかないと思います。東南アジアや中国、カザフスタンも、環境問題に真剣に取り組みたいと思っていますが、いい加減な知的財産保護では、日本企業も乗ってこないでしょうね。
Q:関係がぎくしゃくしている中国と、親日的なインドへの技術移転では、そのあり方が違ってくるのでしょうか。
A:ある程度あるかもしれませんが、肝心なところは緩めるわけにいかないと思います。原子力にしても、本腰を入れれば技術水準はどの国も結構高くなります。日本にも専門の技術者は多くはないので、特に原発は抑制ぎみにやっています。
Q:海外の環境問題を解決するには、何が必要でしょうか。
A: 環境問題を解決するには、やはり教育が重要です。中国の官僚や一般市民を日本に招聘し、環境についての教育をしなければならないと思います。環境汚染は、工業からのものと家庭からのものの両方があって、所得が高くなれば、家庭からの環境汚染が激しくなってきます。一部の経済エリートを教えればいいというわけではない。一般住民への教育は難しいし、時間もかかる。
Q:どのように環境教育をしていけばよいのでしょうか。
A:国連環境計画(UNEP)やJICA専門員、青年海外協力隊に託すというのも一つの案です。大学も、海外の大学と提携し、講座やディスカッションを開いて、情報の交換や、問題の解決を考える。環境問題に取り組んでいるのは工学部や農学部が多いのですが、自然との共存を念頭に置く芸術学部の人も、参加していいのではないでしょうか。