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「日本の政治、経済、社会の動向を世界に深く理解してもらうために」 (一般財団法人ニッポンドットコム 理事長 原野 城治)

投稿日 : 2014年06月19日

My Opinion 7

原野 城治 一般財団法人ニッポンドットコム 理事長 

 

時事通信社政治部記者、パリ特派員、解説委員、編集局次長、前身のジャパンエコー代表取締役を歴任し、40年以上にわたり、日本からニュースを発信し続けている、原野城治さんに海外への情報発信にかける思いについて聞いた。

 

mr. harano 002―外国へ発信することの意義は。

必要不可欠なもので人間の皮膚みたいなものです。皮膚は、通気性がよくて内側と外側の空気や水を発散する外側の一番大事な機能です。外国へ発信することをそのように思っています。

 

―Nippon.comは、国内外に広く情報を発信されていらっしゃいますね。

多言語サイトを始めてまだ3年ですが、国連公用語の6カ国語の他に日本語の7カ国語で運営しています。多言語性は、インターネットの最大の持ち味でもあります。ホームページへのアクセス数は、1カ月に約100万ページビューありますが、Yahoo、Facebook、youtubeなどを入れるとだいたい200万ページビュー近いアクセスがあります。民間レベルで、しかも多言語で、これだけのことをやっているのは、おそらくわれわれしかいないと思いますので、重要性と手ごたえを感じています。将来は、サイトを読んでくれる人の7割ぐらいを海外の人にしたい、というのが目標です。

 

~日本への理解を深めてもらうために~

 

―なぜ、多言語で発信するのですか。

国連公用語の6カ国語で発信すれば、世界の人口の70%くらいはリーチできます。根気と丁寧さを必要とする仕事ですが、これからの社会を考えると、相互依存関係がますます深まっていくので、世界に向けて言うべきことをきちんと言わないといけません。このためにも、多言語による対外発信は、継続的にしていかないといけません。将来的には、インドやインドネシアなどの多言語国家が自国の希少言語使用者に向けて発信しているように、ニッポンドットコムでも国連公用語以外の言語にもアプローチをしていきたいと考えています。

 

―多言語による発信は、翻訳による時間の制約があります。

翻訳の時間を担保するために、短期間で情報が古くなってしまうことがないよう、深い取材をコツコツとしなくてはいけません。facebookで直感的に発信するのは重要だと思いますが、異文化を理解するにはスピードだけではありません。しっかり考えてコンテンツを作り、エディティング(校閲・校正)ができていないものは、コンテンツとは言えません。対外発信に携わる人たちは、コンテンツを相互理解の重要な部品としてきちんと準備することが大切だと思っています。いい加減なことを書くと、一番の根幹である信頼を失った時には、読者が二度と戻ってきませんから。

 

―コンテンツ作りで意識していることは。

ジャーナリズムと共通していて、一つは、バランスのとれた多様なコンテンツが絶対に必要であること。極端な右と左の意見をはずして真ん中をとりますが、真ん中にも右と左があるので、そこをバランスよく見せていくこと。一度には全てを見せられませんので、長い年月の中でバランスをとっていくことが非常に重要なポイントです。もう一つは、公正さと正義。難しい話ですが、情報発信をしていく上ではとても大事なことです。人間の生き方にも共通するものがあると思うんです。さらに、独立性を貫く、人におもねって何かを作ったりしない、ということです。バランスの取れた、オリジナリティーあるものを出すことではじめて、対外的な信頼が得られるのだと思います。

 

~対外発信は、己を知る上でも非常に大切~

 

―スタッフの国籍も多様です。

われわれは、「日本の等身大」を発信していますけれども、日本人だけで書くのではなく、その言語のネイティブの人に書いてもらう、ということを徐々に広げています。人々の関心は多様なので、単に面白おかしく書くだけでなく、そこに知恵があるようにしていきたいです。かつて新聞は知識の宝庫でしたが、今は情報の宝庫になり、知識や知恵が不足気味です。インターネットで単に情報を垂れ流して、昨日見た情報がどこへ行ったか分からなくなるような、消費的な情報ではなく、記憶に残る、役に立つ情報を出していきたいと思っています。

 

―特に反響が大きいコンテンツは。無題

政治、経済のほかに、日本が超高齢化社会に向かっていく中での課題に非常に関心が強いです。あわせて、教育や福祉といった日本の社会の在り方に対する海外の関心も高いです。これらコンテンツは、かなりしっかり読まれている、ということがアクセスログからみてもわかります。宗教や皇室など、長い歴史に関わるものへのアクセスも多くあります。強烈なアクセスがあったコンテンツの一つが東京にあるアジア最大級のモスク、東京ジャーミイを紹介したもの。「日本にもモスクがあるんだ」ということで、非常に関心をもたれました。

 

―SNSが発信方法に変化をもたらしました。

最近ではウクライナや中東のアラブの春をみてもフェイスブックを使って発信しています。プロの人たちが外交をやったり、対外発信をするだけではもう世界のニーズに対応できない、不満を解消することもできないのです。民衆の声を大事にすることがこれまで以上に必要になってくるんです。このような時代だからこそ、インターネットで信頼のおける発信をすることが大事なんだろうと思います。

 

~バランスのとれた情報を発信し続けるために~

 

―インターネットサイトを運営する上での苦労は。

外国のサイトにコンテンツをまるまる剽窃されて、まったく自分のものとして掲載されているケースやコンテンツの無断使用などがあります。これらの問題は、弁護士を通して対応しています。裏返すと、多言語で日本に関して書かれたコンテンツがそれほど無い、といえるのではないでしょうか。

 

―持続的にやる秘訣は?

一番大事なところは、マンパワーと財源の確保です。外国への発信を皮膚に例えましたが、絶えずメンテナンスをして健全な皮膚呼吸ができるようにしておくことだと思います。状況は刻々と変わっていくので、完璧なものは絶対にありえないと思うんです。そのために、創意工夫と知恵でしっかりカバーしていきたいと考えています。

 

―今後サイトをどのように発展させたいですか。

誹謗中傷や個人的な宣伝に使わない、などのルールを設定していますが、プライバシーと公のものをどう分けていくか、サイトの品格を落とさないためにもより明確なルール作りが必要と考えています。また、アドボカシージャーナリズム(衝動ジャーナリズム)と混同されたくありません。我々のサイトが「対外発信」と称して日本政府のお先棒を担いでいる、と言われるのは本意ではありません。また、流したコンテンツも状況によって大きく変わってくるので、インターネットではほとんどやられていない、コンテンツのメンテナンス作業をしっかりやっていきたいと思います。われわれは助成を受けており、将来を永遠に担保されているわけではありません。私たちが今考えているのは、民間の組織として似た仲間を増やすこと。コア的な組織としても機能するように位置付けていきたいな、と思っています。情報発信をする人材は、官庁だけで作れるものではなく、市民・民衆の意見を取り入れ、官民一体となって対外発信のプロを育てていく必要があるのではないでしょうか。

(聞き手:理事長 赤阪 清隆)

 

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