東日本大震災から7年が経過。被災地の現在と未来とは
投稿日 : 2018年04月11日
日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。
朝日新聞:大震災から7年 「心の復興」への長い道
産経新聞:東日本大震災7年 「未来の命」をしかと守れ 教訓を語り継ぐのが大切だ
日本経済新聞(日経):風評・風化を乗り越え復興確かに
毎日新聞:大震災7年 福島の自治体 故郷との絆結ぶ手立てを
読売新聞:大震災7年 復興加速へ的確な対処が要る
2018年3月11日で、東日本大震災の発生から7年が経過した。
復興庁によると、避難者は1年前に比べて約5万人減少したものの、今なお7万3000人を超える。一方、同庁によると仮設住宅入居戸数はピーク時の約12万4000戸から約1万9000戸まで減少した。また、被災者のための恒久的な住まいとして整備が進められてきた災害公営住宅は、岩手、宮城、福島の3県で、計画の9割を超える約2万7800戸が完成している。
しかし、東京電力福島第一原発の事故の影響が続く福島県では、いまだに5万人以上が避難生活を余儀なくされている。避難指示は、双葉町と大熊町の放射線量が高い帰還困難区域を除いてすべて解除されているが、昨年春に避難指示が解除された4町村の住民の帰還率は3~31%と低率にとどまっている。解除が進んでも、帰還の動きは鈍い。
全国紙は同月11日付で一斉に社説を掲げ、確実な復興への息の長い支援を求めるとともに、避難した住民の帰還や福島原発事故の処理など、山積する課題について論じた。
■ 原発事故の影響は今なお続く
読売は、高台移転のための宅地造成と復興住宅の建設について、いずれも計画の90%以上が完了し、仮設住宅解消も大きく進んだことを評価した。しかし、現実には宅地用のかさ上げ地の6割に利用計画がなく、「造成が進んでも将来の街の姿が見通せない」として、「巨額の国費を投入した復興事業が、結果として空き地を生みかねない。被災地以外の住民や企業にも積極的に活用を呼びかけ、にぎわいの復活につなげることが大切だ」と強調した。
また、原発事故に関連し、避難指示が出された11市町村のうち9市町村では既に指定が解除されたにもかかわらず、解除から1年近くを経過しても富岡町や浪江町に戻った住民は「3%程度にとどまっている」と指摘した。理由は、医療施設が不十分で、商店なども少ないこと。富岡、浪江、飯舘など5町村では4月から公立小中学校が再開されるが、通学予定の児童生徒数も、原発事故前の3%程度だ。このため、若い世代が戻らなければ地域の展望は開けないとし、「児童生徒の定着には、子育て世代を呼び込むための施策の推進が不可欠だ。(中略)保育所や宅地の整備に重点的に取り組む必要がある」と求めた。
日経は、原発事故の汚染水を浄化した水の貯蔵タンクが630基を超え、設置場所が不足しかねない現況について、「浄化水に含まれるのは放射能が低いトリチウムだけで、科学的には薄めて海に流せば問題ない。漁業者は風評評被害を恐れているが、国と東電は消費者にも説明を尽くし、放出に理解を得るべきだ」と提言した。一方で、原子炉建屋に流れ込む地下水を遮るために作った「凍土壁」については、345億円以上の建設費を投じたにもかかわらず効果が限定的だとして「いつまで使い続けるか検討が要る。(中略)毎月十数億円の維持費をかけ続ける価値があるのか、経済性を考慮して冷静に判断してほしい」と求めた。同時に、「(福島県民の)5万人が避難を強いられ、故郷に戻った住民も農産物の販売不振など風評被害と闘っている」と指摘し、「除染で生じた汚染土が至る所に山積みになっている状況では、風評を拭うのは容易ではない」と強調した。
毎日は、福島第一原発の地元であり、全体の96%が帰還困難区域に指定されている双葉町の現状として、町民の多くが県内外に避難していることを伝えつつ、住民を対象に行われた意向調査の結果に着目。「戻りたい」と回答した人は全体の1割強に過ぎないものの、その一方で約6割が「町とのつながりを保ちたい」と回答し、故郷との絆を求め続けていると指摘した。福島の自治体の再生を考えるカギはそこにあるとして、息の長い対策を検討していかなければならないと論じた。また、今春には避難指示の解除に伴う東京電力からの慰謝料の支払いが打ち切られる予定だ。「被災者はどこで生活するのか選択を迫られる。だが、仕事や家族の都合で帰還方針を決められない人がいる。遠い将来の帰還を考える人も少なくないだろう」として、「こうした人が、たとえ住民票を置かなくても、一定の登録で故郷の住民と同じように位置づけられる仕組みを検討すべきではないか」と提言した。
■ 忘れてはならない「心の復興」/未来に語り継ぐことの意味
朝日は、震災から7年が経過した現在も、いまだに恐怖感や喪失感に苦しむ被災者がいることに触れ、一人一人の被災者のペースに寄り添う形で「心の復興」に配慮していかなければならないと主張した。その上で「心の傷が癒えるとは、亡くなった人を忘れ去ることでも、記憶にふたをすることでもない。被災者が、いまの自分を形づくる大切な一部として、過去を振り返れるようになること。そのためには、周囲による息の長い支えや見守りが必要だ」とするとともに「背負うものが重いほど、機が熟するまでに長い月日が必要なのだろう」と強調した。
産経は、「震災の記憶の風化」への懸念を示した。港湾整備や復興住宅の建設で震災の痕跡が見えにくくなり、「復興が一面で記憶の風化を促す。(中略)震災の記憶と教訓をいかに伝えていくかが、被災地のみならず、自然災害が多発する日本全体にとっても極めて重要な課題」と強調した。その上で、「風化させずに語り継ぐことが、未来の命を救うことになる」として、被災地では「いまこそ『言葉の力』が求められていると訴えた。
写真: AFP/アフロ
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