APEC首脳会議とTPP問題
投稿日 : 2016年11月30日
朝日:懐疑論と向き合おう
産経:結束強めTPP頓挫を防げ
日経:自由貿易堅持へTPPをあきらめるな
読売:高度な貿易合意を無にするな
写真:AP/アフロ
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が11月19、20両日、ペルー・リマで開催され自由貿易の重要性を確認して閉幕した。これに合わせ、環太平洋経済連携協定(TPP)参加12カ国の首脳会合も開催された。米国の次期大統領に選出されたトランプ氏がTPPからの脱退方針を表明していることから、読売は21日付の社説で、朝日、産経、日経は22日付の社説でこの問題を取り上げ論評した。
全紙4紙とも、TPPの発効が難しい状況になったことを踏まえ、APECが自由貿易の堅持と保護主義への対抗を確認したことを評価するとともに、朝日を除く3紙はTPP発効に向けた米国への粘り強い働きかけを求めた。
一方、朝日はAPEC宣言に自由貿易への「懐疑的な見方」という文言が盛り込まれたことに着目し、貿易自由化が格差と不平等の拡大につながらないように各国が協調して対処することが、保護主義の広がりを防ぎ、世界経済の低迷を脱するカギであることを強調した。
■ TPPへの対応
読売は、TPPが関税撤廃・削減、知的財産の保護、適正な労働条件など貿易から投資までの幅広い協定であるとして「次代の経済協定の標準と目される意欲的な内容」と改めて評価した。しかし、TPPは5か年もの難交渉の末にまとめ上げられた“ガラス細工”のような協定であり「参加国が積み上げた交渉の成果をここで無にしてはなるまい」と主張した。
また、トランプ氏の「TPP撤退」発言の影響から、参加12カ国の中に“米国抜き”の協定を探る動きがあることについて、「せっかく合意した協定を白紙に戻さない方策として、あらゆる選択肢を検討することはあっていい」として、“米国抜き”の検討に含みを残した。
日経は、TPPをアジア太平洋地域の自由貿易圏構築のための「もっとも重要な礎」として、「日本を含む参加国はTPPの発効をあきらめることなく、国内手続きを着実に進める必要がある」と強調した。特に、安倍内閣が進める「参院で審議中のTPP承認案・関連法案を確実に成立させるべきだ」と強調した。そうなれば、日本は参加12カ国の中でニュージーランドに次ぐ早期発効国となり、その実績を踏まえて「TPPの意義をトランプ氏に粘り強く説明していく必要がある」と論じた。
しかし、米国抜きの新たなアジア太平洋における協定構築については、「仮に最大の経済大国である米国がTPPから抜ければ、貿易・投資の自由化により域内経済を成長させる効果は限られる」として、米国を含む参加国すべての協調が大前提であり、そのためには米国以外の11か国の結束堅持が不可欠であるとした。
産経は、TPPの先行き不安に対し、「安倍首相が強く危機感を訴え、様子見の態度をとるべきでないと指摘した点は至極もっともだ」と評価した。その上で、政府はTPP承認案の成立を図り、「米国に批准を促すよう各国を主導する態勢をとらねばなるまい」と主張した。
また、米国抜きの新たな協定づくりの動きについても、「世界標準になり得る先進性を備えた巨大協定の実現をあきらめるのは早すぎる」と釘を刺した。その上で、トランプに対して、「今後、多くの国の首脳らと接触を図る中で、発効への働きかけを自然な形で受け入れてもらいたい」と注文を付けた。
■ 中国主導のRCEPへの対応
朝日は、APEC宣言に「自由貿易に対する懐疑的な見方」という文言が盛り込まれたことに注目し、「『自由化が不平等と格差を広げている』との反発に向き合おうとする意識がうかがわれる」と評価した。こうした「懐疑論」の背景には、英国の欧州連合(EU)からの離脱決定や、TPP撤退を掲げるトランプ氏の予想外の勝利があり、「かつてないほど危機感が強まった」ためだとしている。
朝日は、世界的な保護主義に対抗するには、APEC加盟の21カ国・地域が参加する「アジア太平洋自由貿易圏(FTQQ)」の実現と、「TPP」、それに中国が中心である「東アジア地域包括経済連携(RCEP)」の両方の実現が必要とする今回のAPEC宣言を新たな出発点とすべきだとの立場をとる。
しかし、産経は日本も参加しているRCEPについて、「自由化水準がTPPよりも劣る」とするとともに「何よりも、自由主義や法の支配の価値を共有する国々が、TPPで新たな経済秩序を築く大切さを忘れてはならない」として、RCEPよりもTPPの有用性を強調した。
読売も、TPPが後退すれば中国中心のRCEPの存在感が強まるとしながらも、「中国の国内事情を反映し、国有企業改革や知財保護などで高水準のルール作りが難しくなろう。それを避ける上でもTPPが欠かせない」と主張した。
これに対して、日経は読売、産経両紙よりも中立的な立場から、「(中国、インドなどが参加するRCEPの)交渉でも、日本が積極的な役割を果たせば、米国にTPP参加を強く迫ることができる」と論じた。
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