社説読みくらべ

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TPP交渉

投稿日 : 2015年08月14日

Vol.8  2015年8月14日

 

朝日:合意へ全力をあげよ

産経:気運失わず協議再開急げ

日経:TPP交渉を漂流させずに早期決着を

毎日:交渉の推進力を失うな

読売:漂流回避へ交渉再開を急げ

 

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を目指し、米ハワイ州マウイ島で開催された閣僚会合は7月31日、知的財産分野や乳製品をめぐる関税協議で溝が埋らず、大筋合意に達せずに閉幕した。参加12か国は8月中にも再度、閣僚会議を開くことを模索し、決着を目指すものとみられるが、5年にわたり紆余曲折を経てきた交渉が早期妥結に至るかどうかは予断を許さない。

 

今回の交渉では、多くの分野で前進が見られたものの、新薬開発のデータ保護期間など特定のテーマで最後まで対立が解けなかった。日米間の懸案である、米国産コメや日本製自動車部品についての交渉も、今回の閣僚会議では決着をみなかった。

 

全国紙5紙はTPP閣僚会合について、それぞれ8月2日付の社説で論評している。米大統領が1か月前に議会から通商交渉権限を得て大筋合意の期待が高まっていたのにもかかわらず、交渉が不調に終わったことは、各紙とも「極めて残念」「痛手は大きい」「心配」などと述べ、交渉が長期化しないよう早期の協議再開を促した。

 

■各国の利害を超えて

各紙とも、「TPPは世界最大の自由貿易圏をつくり、世界の貿易・投資ルールを高次元のものへと書き換えるものだ」(日本経済新聞)などとTPPの意義を強調した上で、各国に早期に妥協点を見出すように求めた。

 

読売新聞は、今回、ニュージーランドが乳製品の輸出拡大を目指すために強硬姿勢を崩さなかったことで、「医薬品など他の分野でギリギリの妥協を探る動きが失速したことは否めない」と述べた上で、「TPPのように多国間の利害が複雑に絡む交渉では、各国が一方的に主張するのではなく、大局的な見地から歩み寄りの精神を発揮することが不可欠だ」と説いた。

 

毎日新聞も、全体交渉や日米間の交渉が決着しなかったことについて、「いずれも国益をかけた主張ではある。だが、かたくなな姿勢を貫くだけでは交渉はまとまらない。TPPは各国により大きな国益をもたらすはずだ。大局的な観点から歩み寄りを図ってほしい」と述べた。

 

各紙とも早期締結を求めているのは、各国の政治日程の絡みがあるからだ。産経新聞は、「気がかりなのは、各国の政治日程だ。そもそも、この機会を逃せば交渉漂流の恐れがあるといわれたのは、来年の大統領選に向けた米国の都合で、交渉進展が難しくなるとみられたからだ。カナダも今年10月に総選挙がある」と指摘する。読売や毎日は、日本が参院選を来年夏に控えていることも併せて挙げている。

 

■中国へのけん制

TPP交渉の早期妥結が必要な理由の一つとして、アジア太平洋地域で影響力を強める中国の存在を指摘しているのは、朝日、毎日、産経の各紙だ。

 

朝日は、「この地域は、政治・外交面では米中2大国がせめぎ合う舞台でもある。TPPは、東アジア包括的経済連携協定(RCEP)や日中韓自由貿易協定など、中国が関わる他の通商交渉に刺激を与え、先導する役回りを担ってきた。中国を取り込み、アジア太平洋を繁栄と平和の地域としていくためにも、TPPの頓挫は許されない」と述べている。

 

毎日は、「TPPは中国をけん制する意味もある。中国はアジア太平洋地域への影響力を急速に増している。TPPによって公正で透明な通商ルールを確立することが重要だ」と述べ、産経も、「(TPPには)軍事と経済の両面で、この地域の影響力を強める中国をにらんだ戦略的な意味合いもある」と指摘している。

 

■日米の責務大きい

各紙は、TPP交渉締結に向けての対応について、それぞれ論じている。朝日は、「TPP参加国の中で米国に次ぐ経済大国である日本の出番ではないか」と述べ、甘利・TPP相がリーダッシプを発揮し、次回会合の日程を確定させ、実務協議を進めることを提案すべきだと促した。

 

他の4紙は、交渉妥結に向けた日米の責務の重大さを強調した。日経は、「日米が自国の狭い国益にとらわれず、域内全体の利益を優先して行動する必要がある」と指摘したほか、読売は、「交渉を主導する日米を中心に、冷静で建設的な協議を継続する必要がある」と述べている。産経も、「交渉の漂流は許されない。日米両国は、その覚悟を新たにし、合意への指導力を示さねばならない」と説いた。

 

毎日は、「これまでの交渉で課題は絞り込まれたはずだ。だが、合意に向けた日程は綱渡りだ。特に経済規模が突出する日米の責任は重い。各国が歩み寄れるように交渉を主導する必要がある」と社説を結んでいる。

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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